2【運命の赤い糸】
「ん……」
また、あの夢を見た。幸せで幸福な…それでいて残酷な最後の一幕。
俺は死んだ、彼女も……死んだ。それだけでも、、血涙を流し、拳から血を流す程の憤慨ものだが……俺が今生きているという事実に、最も腹が立つ!
有り得ないだろう!最愛の彼女をおめおめと死なせて置いて自分だけ生き残るなど!!
……正確には、生き残ったのではなく、転生したと言った方が正しいのだが。
勢い良く起き上がり、朝日が差し込む窓から外を見れば、そこには今どき何処に行ってもそうそう見られない発展したド田舎という不思議な光景が拡がっているが……道行く人達が人間では無く……服を着て二足歩行して歩く獣だったり、肌が緑色の人だったりがちらほら見えて、そんな人達が当たり前のように暮らしている、そっちの方が何倍も不思議な光景だ。
異世界転生という奴なんだろう。普通なら実質死なずに済んだ上に第二の人生が全く新しい世界で始まったことに歓喜するのかもしれないが……最愛の彼女のいないこの世界に俺は価値を見いだせない。
「はぁ……いや」
まだ、まだ彼女がいないとは限らない。自分がこうして転生しているのだから、一緒に死んでしまった彼女も同じようにこの世界に転生して来ているかもしれない。淡く、儚い…無いも同然の希望かもしれない、けれど自分がなぜ異世界転生などしたのかわかならい以上…あの船上がそう言う環境になっていたということが無いとは言いきれない。
きっと。
………ガチャ
「オーエン、夕飯の時間よ」
「母さん」
複雑な気持ちで、畑の向こう側に沈んへいく夕日を眺めていると、隣の部屋から今世の母親が呼びに来る。
「オーエンは本当に夕日が好きね?お母さんも好きだわ、特に小麦畑が夕日に照らされて輝く様子はとても好きよ」
「…そう」
俺に顔を寄せて窓から外を見る母さんは、少しうっとりした様子で夕日を眺める。
悪い人ではない……むしろいい人だとは思うんだけど、変に察しが悪いんだよな。思い込みが激しいというか?
「ご飯に呼びに来てくれたんたんじゃないの?」
「あら?そうだったわね、ありがとうオーエン。あの人を待たせちゃうところだったわ。行きましょう。」
そう言って、優しく微笑見ながら手を伸ばしてくれる母さん……普通の子供ら喜ぶんだろうけど、彼女のお願いで他の女性とはなるべく関わらない様にしていた俺としては…ちょっとした忌避感がある。
「……うん。」
とはいえ……母親に差し出された手を取らない幼児とか違和感ありすぎる。
(ごめん⬛︎⬛︎⬛︎)
最愛の人に心の中で謝罪をしながら、渋々…本当に渋々、いつものように手を差し出す。そうしたつもりだった、直前まで感傷に浸って居たせいか、母親にはいつもと違う様に見えたようだった。
「……もうそんな時期かしら?」
親離れには早すぎるみたいだけど。
そう呟く母親は、自分が焦りを抱いているのを知ってか知らずか、頬に手を当てて少し困った、あるいはざんねんそうな様子で言葉を続ける。
「親離れには少し早い気がするのだけど、オーエンは早熟な子だし…でもやっぱりお母さん悲しいわ」
「あ、いや、えっと」
「ごめんなさい、困らせるつもりわ無かったのよ?それじゃ行きましょうか」
そう言って母親は、少し物悲しそうに差し出した手を引っ込めて扉の方に向き直った。
悲しげな母を見て少しだけ罪悪感が湧いてくるけど、少しだけほっとしている自分もいる事に複雑な思いを抱きながら後に続く。
扉の向こう側には直ぐに狭いリビングが広がって居ている。手作り感満載のテーブルと椅子の片側には既に父親が席に付き、テーブルの上には母親が作ってくれた料理が広が置かれている。前世とは比べ物にならない粗末な物だが、時代や生活環境を考えてればマシな方だと思う。
母親が父親の隣の席に腰を下ろし、俺は父親の対面の席に腰を下ろす。
「……そうかオーエンも、もうそんな時期か」
その間に母親から話を聞いたのか、父親は難しい…何かを考える様な表情を浮かる。そ、そんなに大変な事をしてしまったのだろうか?
確かに年齢としては4、5歳だし…騒ぎもも泣きもしなければ、わがままも言わない、良い子すぎる一人息子の様子がおかしいとなれば……確かに頭を悩ませる問題かも?
「オーエン。手を出しなさい」
「はい?」
何か悩んでいた様子だった父親が、覚悟を決めた様子で手を出す様に言うので逆らわずに手を差し出す。
「ん〜〜よし分かった!」
そう言って何処か嬉しそうに、力強く頷く父親を、母親は少し寂しそうな目で見ていた。そして、そんな二人の事を不可解なものを見るような目で俺が見ていた事に気が付いたのか、二人とも苦笑を浮かべながら椅子に座り直した。
「おっと、そうだった。早く晩御飯を食べないと冷めてしまうな。
オーエン、賢いお前の事だから色々と気になる事がいっぱいだろうけど、晩御飯の後にゆっくり話そう」
「…分かったよ父さん」
★★★
夕食後、話があった…と言ってもそこまで複雑な話では無くて、すぐに終わった。まぁ子供相手に話すのだから当然と言えば当然た、ふつうの子供なら自分と関係無い長話なんてどんなに【重要】で長ければ聞いていられないものだし。
人間は稀に【ユニークスキル】と特別なスキルをもって生まれる事があるそうだ。
そして【ユニークスキル】は、他のいわゆる通常スキルとは一線を画す能力を保有しているために、保有する人間は衛兵や冒険者等の戦いを生業とする職業に将来付かなければならない事が法律で【義務】付けられているらしい。
そして俺はユニークスキルをもっている可能性が高いらしい。
父親が喜んで居たのは息子が憧れの英雄になるかもしれないという興奮で、
母親が悲しんで居たのは、息子を危険な目に晒させなければ行けないという恐怖からだった。
なんで俺の手のひらを見ただけでユニークスキル持ちか否かが父親にわかったのは……「そういうものだ」と返されてしまったので分からない。
とにかく、明日は教会に言って祝福を受ければ、ステータスが見れる様になって【ユニークスキル】を本当に持っているのか確認出来るらしい。
そして【ユニークスキル】がなければいつも通り家に帰って、家の手伝いをして過ごし…もし持っていたら、仲間探しをするらしい。
幸か不幸か、同じ世代にユニークスキルスキル持ちがもう一人いるので、その子の所にパーティーに加えて貰えないか交渉し、だめそうなら自力で揃える必要がある、成人…12歳までに出来なければ衛兵行きだそうだ。
⬛︎⬛︎⬛︎を探し出すのが目的の俺としては、1箇所に留まり続けなければいけない衛兵はNG、仲間は最低でも三人いないとダメらしいからかなり大変そうだ。
「まぁユニークスキルが無ければ取らぬ狸の皮算用だけど。」
内心でワクワクして来ている自分の心に悪態を着きながら、⬛︎⬛︎⬛︎が仲間になってくれれば良いのに、なんて有り得ない事を夢想しながら……眠りながら無意識に俺の事を撫でようとする母親の魔の手から逃れ、父親を壁にしてこの日は眠りに付いた。
まさか明日、あんな大惨事が起きるなんて夢にも思わずに………
☆☆☆☆
(この村….こんなに発展していたのか。最早町だな)
翌朝、予定通り両親に連れられて早朝から教会へ向かう事になった。教会は村の中心にある為、畑の中にある自宅からはそれなり歩く事になったのだが……村の中央に近付けば近付く程に、自宅の周囲とは比べ物にならないぐらい人や建物が増え始め、教会にたどり着く頃には、自宅付近では殆ど見かけなかった人の姿が常にあるぐらい栄えて居た。
景気の良さそうな呼び込みが街角から聞こえ。
あるは怪訝そうな顔で通りすがりの人がこちらを見たと思ったら俺の事を見て、何処か納得した顔でそのまま通り過ぎて行く。
争いを想起するような喧騒は無く、ごく普通の豊かな場所に見える。
強いておかしな点を思い浮かべるとするならば、子供の姿が全く見えないことだろうか?これだけ発展しているなら、子供が数人しかないなんて事は無いはずだ、如何に早朝と言えども子供の騒ぐ声が聞こえ、はしゃぐ姿が見えても良さそうなものなのに全く見えない。
そんな些細な疑問を抱きながらも、教会へと歩を進める足が泊まることは無く、父親に手を引かれるがままに村の中心へと進む。
教会がどれかはすぐに分かった。大きな広場に面しているというのも大きいが、そもそも作りが違う。少なくとも教会に辿り着くまでに、他に石造りの建物は見かけなかった、どんなに大きくても木造の建物だのに、教会は石造りでとても異彩を放って居て、この村….と言うか国における教会の権威がありありと伝わって来る。
まぁ、教会で祝福を受けることでステータスを授かると考えると当然の事のように思える。ステータスがゲームに登場するようなステータスならば、有無の差は歴然だろうし。
「父さんも教会に来たのはこれで二回だから、勝手が分からないけど、正面の扉が空いている時は入って大丈夫だったはずだ」
「ええ、そうね。私の時もそう言われたわ」
少し緊張した面持ちの両親を先頭に、教会の敷地に足を踏み入れた次の瞬間!
ーーーカタンッ
何か固く…そして軽い物が地面おちた音が入る前は塀で死角になっていた場所から聞こえて…びっくりして振り返った所で、自分も固まった。
「⬛︎⬛︎⬛︎」
「⬛︎⬛︎⬛︎」
「「!?」」
思わず口からこぼれ落ちたその名前は……確かに互いの耳に届いて…周囲の反応はもちろん、景色、前後の記憶すらあやふやになる程に……自分達は互いの事しか見えて居なくて、どちらともなく…全力で走り寄って、抱きしめあった!
ひしっ!ぎゅぅぅ!と、今までの空白を、 別れの寂しさを埋めるように力強く!互いの存在を確かめ合うように、決して分かたれないように!!
「⬛︎⬛︎⬛︎」
「⬛︎⬛︎⬛︎」
互いに名前呼びあって、顔をあげると彼女はポロポロと滂沱の涙を流していて…多分俺も同じような顔をしているんだろう、首に回されていた彼女の腕がそっと引かれて俺の頬に当てられて、頬を伝う涙を拭われる。
本当に…本当に!彼女に会えたことが嬉しくて!自分も彼女の頬に手をあてて、同じように涙を拭うと、彼女は涙を流しながらもニッコリ笑ってくれて、自分もつられるように笑ったそして………
「俺様の女に何してやがる!」
そんな二人に取ってはこれ以上ない、感動の再開のシーンに…不躾な乱入者が一人現れた………




