第5話 植物を使役する少女
ミライは一歩、前へ出る。
指先を払うと、足元の蔦が、意思を持ったかのように地面を割り、怪物へ迫る。
怪物に絡みつく。
──そのはずだった。
蔦は、怪物の手前で元気をなくし、徐々に色を失っていく。
動きをなくし、力なく地面に落ちた。
「……っ」
ミライは顔をしかめると、こちらへ向かってくる怪物へ向かって手を突き出した。
「止まって……!」
周辺の草木が葉を揺らす。一斉に怪物へ向かうが、再び力なく地面に叩きつけられる。
怪物が手を振るう。影は揺らぎ、一直線へミライのもとへ向かう。
迫りくる黒々とした影を身をひるがえして回避。そのまま怪物のもとへ駆け寄る。
先程までミライが立っていた場所の植物たちはすべて枯れていた。
「相性が悪い……! せっかく、私の操れる植物たちがあるのに!」
魔法少女ミライ。
彼女の魔法は、その通り「植物」を操ることができる。誰よりも植物を愛し、植物と心を通わせる、心優しき少女。
ミライは、植物を操るのをやめ、そのまま怪物に近寄ろうとする。しかし。
「届け……! ッ!?」
手が届く直前。彼女の顔色が変化する。
苦しそうに顔をゆがめ、息が浅くなる。とっさに後ろの蔦を操り、自身に絡ませ後退する。
植物たちをクッションとし、地面に落下。荒い息を整えゆっくりと立ち上がると、ミライは怪物をにらみつけた。
『鬲疲ウ募ー大・ウ?溘??蠑ア縺??縺』
何を言っているかはわからない。しかし、黒い影を揺らし不快の声を上げる怪物が自分を馬鹿にしていることだけは感じる。
「こんなにもあの子たちを痛めつけて……」
おそらく、怪物の能力は命を吸い取る能力。
今まで怪物の近くに迫った植物は力をなくし、ミライまでも生命力を吸い取られるような感覚に襲われた。
植物の生命力を操るミライにとっての、天敵。
下手に攻めることもできずにたたずむだけの彼女に、怪物は不快の声を上げる。
『譌ゥ縺上@縺ェ縺??繝シ?』
「煽られてる……!」
ミライの顔に焦りが浮かぶ。拳を握り締め、策略をめぐらす。
そのとき、ミライの後方から物音がした。
「た、たすけて……」
震えた声に、ミライははっと振り返った。
音質の通路の端。そこには転んだまま立ち上がれずにいる一人の男の子がいた。足元には倒れた植木鉢。
怪物は、その存在に気づいたかのようにゆっくりと方向を変える。
黒い影が男の子の方へ伸びていく。
「……っ!」
考えるより先に、ミライの体は動いていた。
「大丈夫! 今助けるね!」
ミライは駆け出す。影は無慈悲にも男の子を襲う。
足元の植物たちの色が失われていく。
(間に合って……!)
ミライは男の子の前に滑り込むように立ち、男の子をかばうように両手を広げた。
周辺は枯れてしまった植物たち。目前に迫る命を奪う影。
「……ごめんね。今だけ、力を貸して!」
震える声を抑えながら、自身を奮い立たせるかのように叫ぶ。
根が、土の中で蠢く気配がした。
枯れかけていた草。踏まれて折れた蔦。生命力の弱いものばかり。それでも。
先程まで萎れていた植物たちが、地面を割り壁のように立ち上がる。
影がぶつかり、蔦はまたも色を失いひび割れていく。
それでも、最後の力を振り絞り植物たちはまだ崩れていない。
「今のうちに逃げよう!」
ミライは振り返らずに叫ぶと、男の子をゆっくりと抱きかかえた。
その瞬間、震える足元の蔦や根が、ミライを支え地面を滑るように後退させる。
ミライ自身も怪物を相手にするので精一杯の上、非力な少女である。しかしそれでも、彼女を「魔法少女として人を助ける」信念がつき動かしていた。
彼女にとってそれが「当たり前」であった。
『縺薙l縺?縺代??』
後ろの方でめきめきめきと、蔦にひびが入る音がする。
生命力を奪う怪物。それに対して全力で対抗した植物たちは、先程とは違って黒に染まり水分が抜かれ、倒れていく。
(……ごめんね、でもありがとう)
怪物から距離を離し扉付近に滑り込む。扉の奥にまだ人がいるならば、そこに預けて自身は戦闘に徹する。
しかし、あと少しというところで、ミライは怪物の気配を察する。
「速い……っ!?」
振り向けば、植物の壁を破壊しゆっくりとこちらへ向かってくる怪物が。
そして手を振り下げ、一直線へミライへ向かって影が伸びる。
(間に合わない……っ!)
片手を突き出すと、男の子を抱えるミライを覆うように急速に植物が成長する。
それでも、黒い影の方が速度は速い。
男の子を抱きよせ、力を振り絞った、その時──。




