第4話 少女への羨望
「あ!! あの時の子だー! 久しぶり! やっほー!!」
緑野恵麻は目を見開いた。制服姿のヒカリが手を振りながら駆け寄ってくる。
驚きのあまり身体が硬直してその場から動けなくなってしまう。心なしか足も震えてきた。
「また会えるとは思わなかった! 良かったー! そういえば、名前きいてなかったね。私は七瀬光! 仲良くできたら嬉しいな」
「ひ、ヒカリさん……だ……」
ただ、学校帰りに少し遠回りして帰っているときに憧れている人に会うのはどんなめぐりあわせなのだろうか。
恵麻は上手く言葉を発することができずに固まっている中、ヒカリが「あ、急にごめんね。個人的にファンだって言ってくれたのがうれしくて!」とまぶしい笑みを向けてくる。
「……緑野、恵麻です……」
「恵麻ちゃん! 可愛い名前! よろしくね」
なんて輝いた笑みで右手を差し出してくるのだから、恵麻はつられてぎこちなく右手を握る。
憧れの、あれだけ憧れた、魔法少女との握手の瞬間だった。
「恵麻ちゃんは、高校何年生?」
「えーっと、高校一年生です!」
「あ、私と同い年だね。私も高一!」
屈託のない笑み。ぎこちなく笑みを返しながら、笑顔一つでも違うことに恵麻は肩を落とした。
「恵麻ちゃんってもしかして私たちみんな覚えてたりする?」
「え、あ、魔法少女のことですか……?」
「そう! 私のこともサラのことも知ってたからもしかしたらーかなって」
「まぁ……はい、皆さんのことは一応知ってます……あの、きもちわるい、ですよね」
居心地悪そうに恵麻は言うものの、ヒカリは心底嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「誰かに私たちのこと覚えててくれてるの嬉しい。ありがとう! 13人もちゃんと覚えててくれてるなんて嬉しすぎるよっ」
「えっ、あ、ただ私は貴方たちに憧れただけで……」
「同い年にそんなに応援してくれてる子がいるなら、私頑張っちゃおうかな」
「が、頑張ってください! 応援してます!」
その笑顔を見るたびに恵麻は自覚する。
自分の憧れであり尊敬の対象であり、最強の魔法少女が目の前にいることを。
今まで、危機に現れ励まし笑顔で元気づけ怪物から町を守ってくれていた、魔法少女だということを。
ただ、眩しかった。
自分では届かない、存在。
憧れても憧れで終わってしまう、それゆえに憧れが強まる存在。
そもそも比べるにもおこがましい。気づけば恵麻は自身の気持ちに気づいていた。
きっと、魔法少女に憧れながら何もできない自身の劣等感が胸の奥に存在していたことを。
──日暮れ。
閉園の放送が流れるとある植物園。
大きなペンダントを首にかけた、緑色の髪の少女は、携帯の時間を一瞥すると名残惜しそうに出口へ向かうことにした。
周りの数人もぞろぞろと向かい始めている。
植物たちと静かに向き合う時間はとても充実した時間だった。近いうちにまた来よう。
一人で満足した少女は足を踏み出す。
しかし、その足は踏み出されることなく、彼女は目を見開いたまま固まっていた。
何も気にせずに進む他の客を気にせず彼女はおそるおそる振り向く。
『縺ゅ?縺上k縺ョ縺翫◎縺上↑縺」縺。繧?▲縺溘↑』
彼女の瞳に映るこの植物園一の大きさを持つ大木。
その大木がみるみるうちに元気をなくし色も変り果て、枯れていく。辺りに響き渡る悲鳴。
その傍らに、黒くよどんだ影をまとった人影が映った。
「怪物……!」
彼女は胸元のペンダントに目をやると深く息を吸い込んだ。
そして、ペンダントを握りしめる。
次の瞬間、緑色の光が彼女を包んだ。足元の植物たちが、風もないのにざわりと揺れる。
光が晴れるころには、そこに先程の私服姿はなく、代わりに緑に染まった装飾の多いドレスを身にまとっていた。
『鬲疲ウ募ー大・ウ?』
「何を言っているかはわからないけど。植物を、人を傷つけるなら──」
彼女は人差し指を怪物へ向ける。
「わたし、魔法少女ミライが止める」
ミライの周辺の草木が呼応するかのように葉を震わせた。




