第2話 魔法少女との邂逅
「サラー! 助かったよー! ありがとう!」
純白のドレスに身を包んだ少女が、教室へ飛び込んでくる。
「こちらこそ。まだ消えてないから油断しないように」
懐中時計らしきものを握りしめ、茶色の制服のような戦闘服を着た少女が続いて滑り込んできた。
「ちょっとそこの君ー! 危ないから私の後ろに下がってて!」
音もなくドレスの少女は恵麻の前に着地すると、振り向きながら微笑みかける。
呆然とする恵麻をおいて少女は黒い霧を放ちながらもまだ触手を動かしている怪物に向かって駆け出した。
彼女が片手を突き出すと、そこに光のつぶてが集まる。やがて、剣らしき形を形成すると、大きく振りかぶった。
剣は光の尾を引いて触手を斬り分ける。
恵麻に映る少女の姿は、まるで女神のようにかっこよくも美しく輝いていた。
『縺弱c縺ゅ≠縺!』
声にすらならない悲鳴を上げながら、怪物は黒い霧となって霧散した。
一瞬。たった一瞬の出来事だった。
諦めかけたいときに現れた救い。魔法少女の凄さと素晴らしさを実際に感じることができた、貴重な一瞬だった。
あんぐりと口を開けたまま恵麻は立ち尽くす。
「大丈夫?」
目の前に差し出された手。輝くような笑みで恵麻に笑いかける少女。
はっとし、恵麻の表情が信じられない者でも見るかのように一転した。
「あ、あの! ヒカリさんですか! あ、あの、本当に助けてくれてありがとうございます!」
「えー私のこと知ってるの! ありがとうね! 怪我はない?」
「はい! 大ファンです! 怪我はないです! ほんとにありがとうございます!」
「良かった!」
少女──ヒカリが安堵したように笑顔を浮かべた。
より一層輝きが増したかのように恵麻の目には映った。直視ができずに俯いてしまう。
「あ、やっぱり大丈夫……?」
それがかえってヒカリを戸惑わせてしまったことに気づき恵麻は精一杯の笑みを浮かべながら彼女から距離をとろうとする。
「ほらほら、また困らせてるよ」
呆れたように、端にいた茶色の衣装に身をまとった少女がヒカリの肩に手を置いた。
「ごめんね、うちのヒカリの勢いが強くて。遅くなってごめんなさい。見た感じ怪我なくてよかった。えっと私は──」
「あ、あの! サラさんですよね!」
興奮を隠せずに自己紹介を遮ってしまった恵麻。
しかし、サラは柔らかな笑みを浮かべた。
「私のことまで知ってくれてるんだね。ありがとう」
あまりにも美しい微笑に恵麻の心はもう限界だった。
「あ、ありがとうございました!」
緊張と興奮のあまり後先構わず教室から飛び出してしまう。
物凄い勢いで去っていく後姿を見つめながらヒカリは首を傾げた。
「可愛かったからもっと話したかったんだけどな……」
「なんか不思議な子だったね」
「なんか、あんなに率直にファンです!言ってくれた子初めて出会って嬉しかったな」
「良かったじゃない」
二人は微笑ましい気持ちで恵麻のことを思い出していた。
そこへ、妖精らしき浮遊体が現れた。
『ヒカリ、サラ、お疲れ様!』
可愛らしい姿をした妖精にヒカリは笑いかけた。
「ありがとう、メルル!」
「ありがとうね」
メルル。白色の毛に包まれており大きな尻尾と特徴的な翼。愛護心をくすぐる彼は、魔法少女の傍らでいつも浮遊する、妖精である。
恵麻がいたならば即座に飛びついていただろう。しかし、彼女は先ほど恥ずかしさのあまりに走り去ってしまったようだ。
サラは穏やかな笑みを浮かべるとヒカリの方へ向く。
「それにしても、学校に怪物が出現なんてあまり聞かない事件だったね」
その問いにヒカリではなく、メルルが口をはさんだ。
『それもそうなんだけど、なんだかあの怪物、ボクには見覚えがある気がするんだ。ヒカリ、覚えていない?』
「私? 見覚えか……ルイとエルザと一緒に倒した怪物と似てる気はしたけど、そんなことある?」
『そう、だよね……』
首をかしげるヒカリに対してメルルは深刻な表情を浮かべている。
「メルル。どうかしたの?」
サラがメルルを心配するかのように声をかけたが、メルルは首をぶんぶんと振るって見せる。
『なんでもないよ!』
「……ならよかった。ヒカリ、後始末任せられる?」
「うん! もちろん」
いつも通りに。魔法少女としての業務をこなすヒカリとサラ。その二人を見つめながら、メルルはその大きな瞳を伏せていた。
なぜなら、メルルがもつ怪物識別センサーが討伐したはずの過去の怪物と同個体と示していたからだ。




