第14話 人質には向いていない
「あははー困ったなー」
ユキは軽く笑いながら、魔法を発動させた長髪の男を睨んだ。
「どうせ私が動いたら刃でぐしゃ! っていう感じなんでしょ? 怖いねー」
「……よくわかってるね。理解が早くて助かるよ」
「ユキちゃん……っ!」
「口を出さない方がいいよ。君らも、動けばこの子が死ぬ」
ヒカリが手を伸ばそうとした刹那。
より一層、ユキの首元の刃が光を帯びた。
「無駄な抵抗はやめた方がいいよ。君たちも仲間を殺したくないよね」
「くそがっ……」
レンの悪態。魔法少女一同の顔色が変わる。
「で、君たちに教えてあげよう。ここに、魔法少女ユイカは来ない。だから君たちは、僕への対抗手段がないね。可哀想に」
「ユイカちゃんは、来る! ユイカちゃんは今まで集合に遅れたこともない! いつだって」
「君は、魔法少女ユイカがいつまでも君のそばにいると思っているんだね。魔法少女ヒカリ。願望で動けば死ぬよ」
男は淡々と、まるで事実だけを述べるかのように語る。
「君が桜岡高校で倒した怪物。あれは以前、魔法少女ユイカが始末するといって始末しなかった怪物だ。わかるよね?」
メルルの持った疑惑が、ルイが口にした疑惑が、エルザが後をつけて感じた疑惑が。
「魔法少女ユイカは、裏切ったんだよ君たちを。彼女は、ここにこない。このまま君たちを見殺しにする」
「そんな……こと……」
ルイが口ごもり、目を伏せる。彼女の言った疑惑が、本物になろうとしている。
「ユイカちゃんは私たちを見殺しにするなんて、誰かを見捨てるなんてできない! 大体あなたは何者なの? 何も知らない癖に適当なこと言って、私たちがそれで動揺するって?」
「……いいことを教えてあげるね、魔法少女ヒカリ」
気づけばヒカリの目前に、男が迫っていた。
「は、速い……!?」
「僕もユイカも、君の敵だよ」
男の伸ばした手から光る刃が出現する。
一直線にヒカリの方へ向かう。
「……っ!」
とっさに身をよじらせて回避。彼女の頬に赤い線が走った。
「僕は本気なんだよ。殺される覚悟を持たなきゃ」
「自分は人質とっておいて自由に動き回んのかよ! 卑怯者じゃねえかクソ野郎!」
男の真上の空気が重くなる。
しかし、男は身軽に避けると、レンの方を一瞥した。
「いいの? 魔法少女ユキが、死ぬけど」
「誰が死ぬってー?」
ユキの軽々とした口調と同時に、レンが男に掴みかかる。
「君たち、見せしめを作りたいみたいだね」
レンの拳を避けると男は、指を鳴らした。
ユキの首元の刃が輝きを放つ。その瞬間、回転が始まる。
威力を上げた刃が首輪が閉まるように、首元に向かう。
しかし。
魔法少女ユキは口元に笑みを絶やさず男の目を直視すると、おちゃらけたように笑って見せた。
「君は立場が分からないの?」
「あいにくねー私は人質向いてなくてね」
その場には似合わない明るい声。
違和感を覚えた男の目の前で勢いのあった刃が軋む音を立てて、止まった。
「どう? 悔しいよね」
かすかに目を見開く男に向けてユキは笑いかける。
ユキの首元で刃は回転し続ける。
しかし、首元の氷の薄膜に阻まれ、ぴたりと止まっていた。
摩擦音を鳴らしながら氷がひび割れていく。
しかし、冷気があふれ、さらにその膜を氷が覆っていく。
「でも、それだと防御一方だ」
「それはどうかな?」
ユキが片手を掲げる。
何かを察したのか、レンが一歩後ろに引いた。
男が刃を発動させようと手を上げようとしたその時、足元の草が男の足に絡みついた。
「……!」
草に気を取られた刹那。
ユキが片手を伸ばし、男へ向かって氷が迸る。
「あそこで首ちょんぱすべきだったねーもしかして手加減していたのかな?」
氷に覆われ、男は身動きをとれなくなる。
彼女が魔法を発動したその瞬間も、首元の刃と氷の膜の格闘は続いていた。
(この女……イカれているか)
氷の中で男は目を見張る。
同時に二つの魔法を展開する。
これには神経をすり減らす上に単純に魔力消費が激しい。
防御も攻撃も兼ね備えてなお、この威力。
魔法少女ユキは、この場にいる誰よりも魔法の扱いでは優れている。
そう見極めると男は笑顔をたたえる彼女を睨む。
どう、彼女を封じ込めるか。
「交渉しよっか? 私が貴方の氷を解く代わりに、貴方はこの首のやつ、消すの」
ユキは首元の回り続ける刃を指さす。「ね、いい案でしょ?」
男は仏頂面ながらも面白くない顔を見せた。
同時に、ユキの首元の刃が消滅する。
それを確認したユキは、氷の魔法を解いた。
魔力を失った氷が、存在を保てずに白い霧となって形を失う。
「……どうやら君を低く見積もっていたみたいだね」
足にまとわりつこうとする草を刃でいなしながら男が口を開く。
「そっちこそ、解くのが早かったね。もしかして思ったより弱いのかな?」
自由になったのをいいことにユキは挑発の笑みを浮かべる。
ユキの目には、これを機に魔法を発動しようとする魔法少女たちが映っていた。
「あれが最適解だからだ。そのうちわかるよ」
「ごちゃごちゃうるせぇな! まずはその生意気な顔叩きのめしてやるよ!」
ユキという人質がいなくなったからこそのレンの動き。
彼女の魔法は重力を操る。拳を握り締め、自身を重くする。
渾身の力を込めた飛び蹴りが、男に炸裂する。
しかし、男は涼しい顔で片手で受け止めただけだった。
「軽いね」
「は、あたしは重くしたはず──」
レンの動揺。しかし、魔法少女側の追撃は終わらない。




