第9話 魔法少女は魔法少女に憧れた
とある日の休日。
緑野恵麻は喫茶店にて、ヒカリと並んで紅茶を片手に言葉を交わしていた。
先程から恵麻がしきりとカップを口に運んでいる。落ち着きがないようだ。
それもそのはず、ずっと憧れだったヒカリと急な接近で休日遊ぶ仲までになってしまったからであろう。
あの日の帰り道。別れ際に恵麻はヒカリと連絡先を交換した。断る恵麻に対して半ば強引にヒカリは自身の連絡先を送信すると、輝く笑顔を見せて恵麻に手を振った。
何度か連絡をするうちに休日会いましょうという流れとなったのだった。
「あ、あのヒカリさん……」
「だからさんじゃなくていいよ」
「ヒカリ……ちゃん! 今日はどこかで遊びませんか?」
「あそぼあそぼ! どこがいい? 恵麻ちゃんの好きなところ行こうよ。そういや、何か好きな物とかあるの?」
「本当にわたし大した趣味もないんです……すみません」
余計に縮こまってしまう恵麻に対してヒカリは「ごめん、ごめん」と明るく笑った。
「じゃあ今から好きなの増やしていこうよ。映画でも行く? 最近流行りのアニメ映画とかさ。あ、カラオケでのんびりするのもいいね」
「じゃ、じゃあカラオケ……で」
「そんなに緊張しないでほしいな。恵麻ちゃんはいつも何の曲を聴いているの?」
「本当に好きな曲とかもなくて……強いて言えば、最近はやりのボーカロイド……?」
「ああー私もまあまあ聞くかな、ボカロ。いいじゃん、一緒に歌おうよ!」
「は、はい……」
先程からこんな調子で一方的にヒカリに話しかけてもらっているばかりで、恵麻は恐縮な思いを抱えていた。
元々、恵麻は人と関わるのが苦手だった。
そんな彼女が急に憧れの人と遊ぶことになってしまうのだから尚更、緊張は増していく。
一方的なヒカリの質問に答えていると、ついに沈黙が流れてしまった。
ヒカリがふとスマホに目を落とす。「ちょっとごめんね」というと彼女は誰かに返信をしているのかスマホを操作し始めた。
沈黙に耐え切れなくなる恵麻。
しかし、話しかけられる勇気も話を振る話題も思いつかない。だからといってこのまま沈黙を保ったりヒカリに会話を任せているのは違う。
そう考えた恵麻は、必死に会話の切り出しに思考をめぐらせた。
「あ、あの!」
「ん? どうした?」
「急であれなんですけど、なんでヒカリ……ちゃんは魔法少女になろうと思ったんですか?」
その結果がこのインタビューのような切り出しである。
我ながら笑ってしまう、と恵麻は思ったがヒカリは嬉しそうに口元を緩ませた。
「気になってたの? 何気にそういうの聞かれる側になって嬉しいな」
でも、とヒカリは続ける。
「別にすっごい理由じゃないんだよね私は。憧れの先輩が魔法少女だったからかな。先輩はね、すっごい色んな人を守っていたし助けていたの。それを尊敬したっていうのもあるし」
「先輩がいたんですか……?」
「うん。うちの学校の人気な先輩がね、魔法少女だったの。学校が一緒だったのもあって先輩の活躍を見るのが多かったし、憧れちゃったのかなあ」
ちょっと気恥ずかしそうに、微笑みを漏らす。
「私も先輩みたいな魔法少女になる! そして、先輩を助ける魔法少女になって先輩に褒められたかったとか思っちゃってさ」
今思えば子供みたいな憧れだったね、と笑うヒカリに恵麻は
「そんなことないですよ! だって今はヒカリちゃんは立派な魔法少女だし!」
と強く返すと、ヒカリはありがとう、と答えた。
「その先輩っていうのは誰か聴いてもいいですか……?」
「先輩、魔法少女やめちゃったんだよね」
え、と言葉を漏らす恵麻に対してヒカリはどこか寂しそうにつぶやく。
「私と同じ光の魔法だったの先輩。私が魔法少女になる前に何故かわからないけどやめていて。入れ替わりだったなー魔法少女として先輩に会いたかった。学校も転校しちゃってて」
「そんな……」
「どこかで元気にやってるといいなー先輩。どっかで私のこと、見ていたらいいなとか思ってるんだけどね」
ふふ、と笑うヒカリに対して、恵麻はある種の感情が芽生えていた。
憧れのヒカリが、恵麻と同じように誰かに憧れていた頃が存在していたのだ。どことなく親近感が増し、先程までの緊張は解けていた。
「やっぱりヒカリちゃんは凄いですね!」
「急に? でも嬉しい~ありがとう!」
自然に笑顔になる恵麻に向かって、ヒカリはどことなく聞いてみる。
「やっぱり恵麻ちゃんも魔法少女に憧れてたりする?」
「は、はい……わたしごときがすみません……ずっと憧れですし尊敬しています!」
「ドストレートに言われると嬉しいねやっぱり。じゃあさ、恵麻ちゃんは魔法少女になりたいの?」
「な、なりたいですか……」
ふいに答えに困ってしまう恵麻。
こんな自分が、魔法少女になりたいだなんて。
憧れてはいた。あんなにかっこよく戦えたら、と。魔法少女として活躍出来たら、なんて。
少しは思ったことがないといえば噓になる。
「やっぱり……憧れだし……でも! わたしは魔法少女になんてなれない人間ですので! 雲の下の下の意気地なしですので!」
「そんなことないよ!」
苦笑すると、ヒカリはじゃあ、と続けた。
「もし私が魔法少女引退するようなことがあったら、任せたよ恵麻ちゃん」
「ええ!? そ、そんなこと」
「冗談だよ~私は魔法少女続けるしね。もしかしたら、他の子がやめちゃって恵麻ちゃんと一緒になれるかもね。その時はよろしくね!」
「そんなむりです! それに他の方の代わりだなんて恐れ多い……」
「そうだね、恵麻ちゃんとしては私たち魔法少女が13人でいてほしいよね。大丈夫、欠けさせないからさ」
欠けさせる、なんていうことがあるのかと思った恵麻に、どこかに馳せるような顔をするとヒカリは呟いた。
「私もこのまま13人でやり続けたいな。みんないい子たちで大好きなの。いつも13人の中で一番の先輩として盛り上げてくれるミライちゃん。純粋?って感じでめっちゃ優しいユイカちゃんとか」
「ミライさんとユイカさん! 知っています!」
「やっぱり恵麻ちゃんって凄いね。ファンでいてくれてありがとう。そうそう、この前会ったサラね。サラとは同じころに魔法少女になったんだけどすっごい頼れる友達で、本当に助かってるんだ」
「サラさん生で見たとき凄かったです……!」
「生ってアイドルかな? やっぱり恵麻ちゃんって面白いね。あとね──」




