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ガリア戦記異聞 とある計算屋の活躍  作者: 奪胎院
第七部:ガリアの王

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エピローグ:ガリアの静寂

第一章:最後の火種


アレシアの陥落は、ガリア大反乱の心臓を止めた。

だが、巨大な獣の体は、まだ痙攣するように動き続けていた。ガリア全土に散った救援軍の残党や、未だ共和国に降ぬ部族が、最後の抵抗を試みていたのだ。


カエサルは、兵士たちに休息を与える間もなく、最後の掃討作戦を開始した。


「ラビエヌスは**月光のエルフ氏族(ハエドゥイ族)の地へ。アントニウスは鉄の森のドワーフ氏族(ビトゥリゲス族)**の地へ。各個、残る反乱の火種を完全に消し去るのだ」


そして、カエサルは俺、レビルスにも一個軍団の指揮を任せた。

俺の任務は、ガリア西部のカルヌテス族の領域の平定。反乱の狼煙が上がった、因縁の地だった。


戦いは、もはや壮大な会戦ではなかった。ただ、憎悪と絶望だけが残った大地で繰り広げられる、陰惨な掃討戦だった。だが、俺の指揮に迷いはなかった。アレシアの死闘が、俺から計算屋としての躊躇を奪い去っていた。


冬の最初の雪がガリアの大地を白く染め始める頃、最後の抵抗勢力は沈黙した。七年に及んだ戦争は、事実上の終わりを迎えた。


第二章:冬営の評定


その年の冬、カエサルは月光のエルフ氏族の都、ビブラクテに全軍団の司令部を置いた。


冬営に入る直前、最後の高級将校会議が開かれる。


天幕の中央には、もはや敵を示す駒のない、平定されたガリアの地図が広げられていた。


カエサルは、集まった副将たち――ラビエヌス様、アントニウス様、トレボニウス様、そして俺、レビルス――の顔を一人一人見渡し、静かにこの一年を振り返った。


「我々は、今年、全てを失いかけた」


その声には、勝利の驕りはない。


「ガリア全土に背かれ、ゲルゴヴィアで敗れた。だが、我々は屈しなかった。アレシアでの勝利は、共和国の兵士の不屈の魂がもたらした、奇跡だ」


カエサルは、まず彼の右腕であるラビエヌス様に向き直った。


「ラビエヌス。お前の戦術眼は、今年も我が軍の背骨であった。北での圧勝、そしてアレシアでの死守。お前がいなければ、我々はここにいない」


次に、若き猛将アントニウス様に視線を移す。


「アントニウス。その若き武勇は、常に我らの槍の穂先であった。お前の突撃が、何度我々に活路を開いたことか」


そして、攻城戦の専門家であるトレボニウス様を称えた。


「トレボニウス。お前の堅実な仕事が、この勝利の土台を築いた。ブールジュの攻城兵器、アレシアの包囲網。お前の工学がなければ、我々の武勇も無意味だったろう」


カエサルは、一度言葉を切ると、最後に、俺をまっすぐに見据えた。


「だが、その奇跡の扉を開いたのは、レビルス、お前の計算と決断だった。共和国は、お前の功績を決して忘れんだろう」


俺は、ただ黙って頭を下げた。


会議の最後、カエサルは地図の上に、冬営のための駒を配置していく。


ガリア全土を監視するように、各軍団が戦略的に配置されていく。


「ガリアは、静かになった。だが、本当の戦いは、これからだ」


カエサルの視線は、ガリアの地図ではなく、その南、ローマがある方向を、静かに、しかし鋭く見据えていた。


第三章:計算屋の家族


その夜、俺は割り当てられた冬営地の自室で、一人、窓の外に降る雪を眺めていた。


副将としての執務室は、かつての百人隊長の天幕とは比べ物にならないほど広く、そして、孤独だった。


その静寂を破り、扉が叩かれた。


入ってきたのは、見慣れた顔ぶれだった。

百人隊長として一個の部隊を任されるようになったボルグ。その副官として相変わらず悪態をついているセクンドゥス。そして、ガレウスとシルウァヌス。


「…副将殿の部屋は、ちと広すぎやしませんか」

セクンドゥスが、いつものように軽口を叩く。ボルグは、何も言わずに、一本の葡萄酒の瓶を机の上に置いた。


俺たちの間に、多くの言葉は必要なかった。


副将と百人隊長。その階級の差がもたらす微妙な距離感は確かにあったが、それ以上に、この七年間の地獄を共に生き抜いてきたという、血よりも濃い絆が、俺たちを結びつけていた。


杯を酌み交わし、しばらくの沈黙が流れた後、セクンドゥスが、思い出したように言った。


「…そういや、アキテーヌ平定の後の冬に、馬鹿げた話をしやせんでしたかい。このクソみたいな戦争が終わったら、何がしてえか、なんて夢物語を」


その言葉に、俺たちは顔を見合わせた。


「ボルグ、お前さんは確か、故郷の山に帰って、静かに暮らしたいとか言ってたな」


ボルグは、杯の中の葡萄酒を揺らしながら、静かに首を振った。


「…あの頃は、まだ復讐の炎しか見えていなかった。だが、今は違う。俺の守るべきものは、もうあの山にはない。ここにいる」


その黒曜石の瞳が、俺たち一人一人を、そして彼が率いる百人隊の兵士たちがいるであろう兵舎の方向を、静かに見つめた。


「へっ、柄にもねえ」

とセクンドゥスは笑ったが、その顔はどこか優しかった。

「俺の夢は、退役金で小さな酒場でも開いて、のんびり暮らすことだったが…どうやら、あんたみたいな石頭の隊長の下で、悪態ついてる方が性に合ってるらしい」


ガレウスは、暖炉の炎を見つめながら、低い声で言った。


「強い敵と戦う。それが望みだった。望みは、叶った。だが…今は、静かな森で、ただ兎でも追いかけていたい気分だ」


シルウァヌスは、静かに頷いた。


「ええ。この血の匂いが消え、本当に静かになったガリアの森を、ただ、ゆっくりと巡りたい。それが、私の唯一の望みです」


最後に、全員の視線が俺に集まった。


「隊長は、確か…」


ボルグが言いかけた。


「ああ」

と俺は自嘲気味に笑った。


「安全な後方で、羊皮紙とインクにまみれて、静かに暮らすのが夢だった。平穏に任期を終えて、二度と戦場になど戻らない、と」


その言葉に、天幕の中が、穏やかな笑いに包まれた。


「とんでもねえ夢違いだ」


「今や、このガリアで一番面倒な男の、一番面倒な懐刀ですぜ」


俺は、窓の外に広がる、静かで、白いガリアの大地を見つめた。


計算屋の戦いは、終わった。


だが、レビルスという一人の男の戦いは、これから、さらに巨大で、そして、さらに計算不能な盤上へと、移ろうとしていた。

『ガリア戦記異聞 とある計算屋の活躍』、本日をもって完結です。 2025年8月の投稿開始から約2ヶ月半、レビルスのガリアでの戦いに最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


皆様の日々のアクセス(PV)、ブックマーク、そして温かい評価が、執筆の大きな励みとなりました。

さて、レビルスの物語は、ガリア平定では終わりません。


皆様を長らくお待たせすることなく、 続編『内乱記異聞』の連載を【11月3日(月)20時】より開始します! (週明け月曜日からです!)


序章(全16部)を【11月3日~7日の5日間】で毎日3話ずつ集中投稿します! ローマ人同士の、それぞれのDignitas(尊厳)が激突する物語を、ぜひ序章から一気にお楽しみください。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや下の評価(★★★★★)で応援していただけると、大変励みになります!

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― 新着の感想 ―
完結お疲れ様です。 ラビエヌス、先祖代々ポンペイウス一門の支援者(クリエンテス)なんですよね。だから史実では……。この世界ではどうなるのか。
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