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ガリア戦記異聞 とある計算屋の活躍  作者: 奪胎院
第七部:ガリアの王

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第十章:計算を超えたもの

俺が率いることになったのは、軍団というにはあまりに歪な集団だった。


共和国の鷲の旗を掲げる、最後の予備兵力。

その数は、三千弱。


そして、その背後には、共和国の規律など意にも介さぬ、数百のゲルマン魔族傭兵『鉄の狼の民』が、獣のような唸り声を上げて追随してくる。


秩序と混沌が混じり合った、この絶望的な戦場が生み出した、最後の怪物。


俺は、この怪物の頭となることを、カエサルに命じられたのだ。


「…行くぞ」


俺の声は、乾いていた。


ぬかるんだ森の中を、俺たちは息を殺して進む。


兵士たちの鎧が擦れる音、荒い呼吸、そして魔族たちが放つ、血と獣の匂い。その全てが、この森の静寂の中で、不気味に響いていた。


(…計算は、した)


俺の頭脳は、この森を抜けた先に広がる戦場の地形、敵の配置、そして突撃を開始すべき最適な一点を、すでに弾き出していた。


(だが、その先は?)


その先は、計算できない。兵士たちの恐怖、敵の混乱、そして、俺自身の、指揮官としての器。


その全てが、未知の変数だった。ゲルゴヴィアの悪夢が、脳裏をよぎる。


「…隊長」


俺のすぐ後ろを歩いていたボルグが、低い声で言った。


「あんたの背中を、俺たちが守る。いつものことだ」


その無骨な言葉に、俺はハッとした。そうだ。俺は、一人ではない。


俺は、振り返った。そこには、ボルグ、セクンドゥス、ガレウス、シルウァヌス、俺の「家族」が、覚悟を決めた顔で立っていた。彼らの瞳には、俺への絶対的な信頼が宿っていた。


俺は、静かに頷いた。


計算が通用しないのなら、信じるしかない。仲間を。兵士を。そして、自らの決断を。


森を抜けた瞬間、眼下に地獄が広がった。


ラビエヌス様とカエサルが守る北側丘陵は、二十五万のガリア救援軍の波に、今にも飲み込まれようとしていた。


そして、その巨大な波の、まさに心臓部。

指揮官たちが集まり、予備兵力が控えるであろう、わずかに手薄になった一点。


そこが、俺の計算が示した、唯一の急所だった。


「…今だ」


俺は、剣を抜き、天に突き上げた。


「全軍、突撃ィィィィッ!」


俺の絶叫を合図に、三千弱の共和国兵士と、数百の魔族の傭兵が、一つの巨大な槍となって、森から飛び出した。


それは、ガリア軍にとって、悪夢以外の何物でもなかっただろう。


勝利を確信し、目の前の敵に全ての意識を集中させていた彼らの、完全に無防備な背後から、突如として、もう一つの軍団が出現したのだ。


「うおおおおおっ!」


先頭を駆けるのは、ガレウスと、『鉄の狼の民』だった。


彼らは、天賦の魔力をその肉体に漲らせ、大地を揺がしながら、ガリア軍の後衛を、まるで紙を破るかのように蹂-躙していく。


それに続き、ボルグとセクンドゥスが率いる重装歩兵が、完璧な密集方陣を組んで、敵陣に巨大な楔を打ち込んでいく。


ガリア軍は、完全にパニックに陥った。


「敵だ! 背後から、ローマの別働隊だ!」


「罠だ! 我々は、挟み撃ちにされた!」


その混乱は、恐ろしいほどの速度で、二十五万の大軍全体へと伝染していく。


そして、その好機を、あの二人の王が見逃すはずがなかった。


「今だ! 全軍、反撃に転じよ!」


カエサルの号令が、北側丘陵に響き渡る。


それまで防戦一方だったラビエヌス様の軍団が、鬼神の如き形相で、前へと突き出した。


金床かなとこと、鉄槌てっつい


ラビエヌス様の軍団が金床となって敵を食い止め、俺たちが鉄槌となって、その背後を粉砕する。


挟撃されたガリア救援軍は、もはや軍隊ではなかった。


ただ、逃げ場を失い、互いを踏みつけ合う、巨大な烏合の衆と化していた。


その光景を、アレシアの城壁の上から見ていたウェルキンゲトリクスの顔に、初めて絶望の色が浮かんだのを、俺は見たような気がした。彼の最後の希望が、今、目の前で崩れ去っていく。


戦いは、その日の夕暮れに終わった。


ガリア救援軍は、壊滅した。


生き残った者たちは、武器を捨て、ガリア全土へと散り散りに敗走していった。


俺は、血と肉片が散らばる戦場の中心で、ただ立ち尽くしていた。


俺の計算と、カエサルの決断、そして兵士たちの不屈の魂。その全てが融合し、この、奇跡的な勝利を生んだのだ。


俺は、自分の血塗られた剣を見下ろした。


俺は、もはやただの計算屋ではない。


この、共和国の、そしてガリアの運命を決めた、一人の指揮官なのだと。

その、どうしようもない事実を、俺は、静かに受け入れていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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