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ガリア戦記異聞 とある計算屋の活躍  作者: 奪胎院
第六部 幕間:ガリアの静寂

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第四章:計算屋の家族

ラビエヌス様と別れ、自室の天幕に戻ると、そこには見慣れた顔ぶれが待っていた。


ボルグ、セクンドゥス、ガレウス、そしてシルウァヌス。


俺がかつて率いた、奇妙で、しかし、かけがえのない「家族」。彼らは、俺が戻るのを待ちわびて、ささやかな酒盛りを始めていた。


「おお、副将様のお成りだぜ」


古参兵のセクンドゥスが、いつものように軽口を叩く。


「隊長、いや、副将殿。一杯どうです?」


ボルグが、その岩のような手で、無骨な木の杯を差し出してくる。その呼び方に、わずかな、しかし確かな距離を感じ、俺の胸がちくりと痛んだ。


俺は、彼らの輪の中に座り、差し出された杯を受け取った。


「…ここでは、隊長でいい」


俺がそう言うと、ボルグは、少しだけ安堵したように、その髭面をほころばせた。


ガレウスが仕留めた兎の肉を食らい、セクンドゥスがどこからかくすねてきた葡萄酒を酌み交わす。他愛ない会話。戦場での武勇伝。故郷に残してきた家族の話。


副将という立場が生んだ、微妙な壁が、少しずつ溶けていくのを感じた。そうだ。ここが、俺の帰る場所だ。俺が、計算の果てに、守りたかったもの。


その、穏やかな空気が、一変した。


これまで、静かに酒を口に含んでいただけのエルフの斥候、シルウァヌスが、その美しい顔を、これまでにないほど険しくして、口を開いたのだ。


「…隊長。一つ、ご報告が」


天幕の中が、静まり返る。


「この冬、斥候任務でガリアの森を巡るうち、奇妙な噂を耳にしました。ドルイドたちの間で、密かに囁かれている、古の歌です」


シルウァヌスの声は、低く、そして不吉な響きを帯びていた。


「それは、新たな王の誕生を予言する歌。そして、その王の名は…」


彼は、一度、言葉を切った。


そして、はっきりと、その名を告げた。


「――ウェルキンゲトリクス」


その、聞き慣れない響きが、天幕の中に重く響き渡る。


「『王家のエルフ氏族(アルウェルニ族)』の、若き指導者。父を殺され、部族内で孤立していたはずの男。ですが、この数年、水面下で力を蓄え、今、ガリア全土の憎悪を束ねる、唯一の希望として、その名が囁かれ始めています。焦土作戦は、確かにガリアの民を恐怖で縛った。ですが、同時に、彼らの魂の奥底に、決して消えることのない、共和国への憎悪を刻み込んだのです。その憎悪が今、ウェルキンゲトリクスという名の器に、注ぎ込まれようとしています」


シルウァヌスは、天幕の外の闇を見つめた。


「…ガリアの森が、泣いています。そして、ざわめいている。これは、アンビオリクスのような、個人的な復讐心ではない。もっと、大きく、そして根源的な…」


静寂。


誰もが、言葉を失っていた。


俺は、手にした杯の中で、葡萄酒が静かに揺れているのを見ていた。


ガリアの静寂。それは、平穏ではなかった。


本当の嵐が、今、まさに生まれようとしている。


その、恐ろしく、そして巨大な胎動を、俺は、肌で感じずにはいられなかった。

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