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ガリア戦記異聞 とある計算屋の活躍  作者: 奪胎院
第六部 幕間:ガリアの静寂

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第二章:若き狼たちの評定

冬営地では、副将となって初めての、指揮官たちの会議が開かれていた。


俺、レビルスは、その末席で、他の副将たちの議論に耳を傾けていた。


ラビエヌス様、トレボニウス様、そして新任のアントニウス。歴戦の猛者たちが、それぞれの経験と視点から、冬営中の兵の管理や、来たるべき春への備えについて、活発に意見を交わしている。


「…レビルス副将。貴官はどう思うかね」


不意に、ラビエヌス様が俺に話を振った。その美しいエルフの顔には、感情が読めない。


「は。俺は、現場の指揮官というよりは計算屋ですので。兵站に関する数字の上での懸念であれば…」


俺がそう答えようとした時、若き猛将アントニウスが、野心的な光を瞳に宿して割って入った。


「レビルス殿の『計算』、か。面白い。筆頭百人隊長から、一年も経たずに副将とは。貴殿のその異例の昇進と、焦土作戦での完璧なまでの兵站管理の手腕、俺も噂には聞いている。一体、どんな計算をすれば、そんな手柄が立てられるのか。今度、じっくりと教えてもらいたいものだ」


その言葉には、純粋な興味と、そして、あからさまなライバル意識が混じっていた。面倒な男に目をつけられたものだ。


その時、天幕の入り口で、所在なげに議論の輪を眺めていた男と、目が合った。


クィントゥス・トゥッリウス・キケロ。


アトゥアトゥカでの失態の後、カエサル様の温情でその地位を保った、元英雄。俺が救援部隊の編成を計算し、結果として彼の命を救った形になった。


彼は、俺の視線に気づくと、気まずそうに顔を伏せた。


その表情には、命を救われたことへの感謝と、自らのプライドを傷つけられたことへの屈辱、そして、俺という年下の、異例の昇進を遂げた男への、複雑な感情が渦巻いているのが見て取れた。


これもまた、面倒なことになりそうだ。


会議が終わり、指揮官たちがそれぞれの持ち場へと散っていく。


その中で、新任の若手将校たちが、自然と一つの輪を作っていた。


「…なかなか面白い会議だったな」


口火を切ったのは、アントニウスだった。

彼は、葡萄酒の杯を揺らしながら、面白そうに言った。


「特に、あの計算屋…レビルス殿。噂以上の切れ者らしい。カエサル閣下があれほど目をかけるのも頷ける」


「ええ」

と、艦隊司令官のデキムスが同意した。


「彼の思考は、我々現場の人間とは全く違う。だが、常に理に適い、そして結果を出す。ブリタンニアでの『死の海峡』作戦も、彼の計算がなければ成功しなかったでしょう。ああいう男が味方にいるのは、心強い限りです」


「いかにも」

と、カエサルに忠実なシラヌスも頷いた。

「彼の功績は、華々しい突撃ではないかもしれません。ですが、その働きが、我々が戦うための土台を支えている。真の忠臣とは、彼のような男のことを言うのでしょう」


アントニウスは、その言葉に、意味ありげな笑みを浮かべた。


「忠臣、か。だが、あれほどの才能、ただ後方で計算させておくだけでは惜しい。彼の力を、我々前線の人間がどう引き出し、どう連携していくか…それこそが、この軍団をさらに強くする鍵になるやもしれんな」


若き狼たちの視線が、天幕の向こう、一人自室へと戻っていく俺の背中に、静かに注がれていた。

ガリアの戦場に、新しい世代の力が、確かに芽吹こうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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