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ガリア戦記異聞 とある計算屋の活躍  作者: 奪胎院
第六部:報復と新たなる血

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第七章:空しき勝利と、次なる嵐の予兆

アトゥアトゥカの城門は、まさに破られようとしていた。略奪に狂喜する**『狂戦士の民』**の魔族たちは、勝利を確信していた。


だが、その瞬間、地平線の彼方に立ち上る土煙と、そこに瞬く、共和国軍の高速機動部隊だけが放つ、淡い緑色の魔力の光を、見張りが発見した。


「敵だ! ローマの救援部隊だ!」


その報せは、略奪に夢中だった魔族たちの間に、瞬く間にパニックを引き起こした。彼らの頭をよぎったのは、ただ一つの恐怖。


(カエサルだ!奴が、主力部隊を率いて戻ってきた!)


その誤解が、彼らの運命を決定づけた。


『狂戦士の民』は、それまで手にした略奪品さえも放り出し、蜘蛛の子を散らすように、ライン川の向こうへと潰走していった。


俺が計算し、派遣した救援部隊がアトゥアトゥカに到着した時、そこに広がっていたのは、凄惨な戦闘の跡と、そして、敵が慌てて逃げていったことによる、奇妙な静寂だけだった。


キケロ様は、無事だった。だが、その顔に英雄の面影はなかった。

ただ、自らの判断ミスで多くの部下を死なせ、軍団全体を危機に晒したという、深い絶望と自己嫌悪に打ちひしがれていた。


数日後、アンビオリクス追討を中断したカエサル直属の主力部隊が、アトゥアトゥカへと帰還した。


冬営地には、凱旋を迎えるような熱気はない。


ただ、総司令官が、この失態を犯した英雄をどう裁くのか、兵士たちの固唾をのんで見守る、張り詰めた空気が支配していた。


その夜、俺は副将として、カエサルの司令部天幕に呼び出された。

天幕の中には、憔悴しきったキケロ様が、まるで罪人のようにうつむいて立っている。


カエサルは、俺がまとめた損害報告書に目を通すと、静かに、しかし氷のように冷たい声で、キケロ様に問いかけた。


「クィントゥス・トゥッリウス・キケロ。俺は、貴官にただ一つの命令を下したはずだ。何があろうと、この要塞から兵を出すな、と。だが、貴官はその厳命を破った。結果、我々は多くの有能な兵士を失い、アンビオリクスを取り逃がした。何か、弁明はあるかね」


「…ありません」


キケロ様は、絞り出すような声で答えた。


「全ては、私の油断と、判断ミスです。いかなる処罰も、お受けします」


その潔い言葉に、カエサルは表情を変えなかった。


「貴官の判断ミスは、第二のサビヌスの悲劇を招きかねなかった。その罪は、万死に値する」


天幕の中の空気が、凍りつく。


だが、カエサルは続けた。


「しかし、だ。運命は、そしてレビルスの計算は、貴官に味方した。そして、貴官が昨冬、この地で示した驚異的な粘り強さが、多くの兵士の命を救ったことも、また事実だ」


カエサルは、立ち上がると、キケロ様の前に立った。


「貴官は、英雄だ。だが、過ちを犯す、人間でもある。そのことを、決して忘れるな」


彼は、キケロ様の肩を、一度だけ強く叩いた。


「貴官には、引き続き、この軍団の指揮を任せる。だが、覚えておけ。二度目はない」


それは、厳しく、しかし、人間的な弱さを理解した上での、あまりに人間的な裁定だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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