表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガリア戦記異聞 とある計算屋の活躍  作者: 奪胎院
第六部:報復と新たなる血

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/97

第二章:新たなる血

狼の民への報復戦から数日後、俺たちカエサル直属の軍団は、確保した食料と共にサマロブリウァの司令部へと帰還した。


冬営地は、かつての飢えと絶望が嘘のように、活気に満ち溢れていた。


俺たちだけでなく、東へ向かったラビエヌス様の軍団、西へ向かったクィントゥス・アトリウス様の軍団も、それぞれの任務を完遂し、続々と帰還していたのだ。


彼らが引き連れてきた、おびただしい数の家畜の群れと、荷馬車に満載された穀物が、この同時掃討作戦の圧倒的な成功を物語っていた。


兵士たちの腹は満たされ、士気は天を衝くほどに高まっている。誰もが、次なる軍事行動への期待に胸を膨らませていた。


その熱狂のさなか、ガリアの冬を揺るがす、もう一つの大きな動きがあった。


南のローマから、二つの巨大な流れが、ガリアの大地へと注ぎ込んできたのだ。


一つは、カエサルが自らの権限でガリア・キサルピナで徴募した、二個軍団の新兵たち。


そしてもう一つは、ポンペイウスとの政治的取引によって派遣された、一個軍団のベテラン兵。合わせて三万近い、新たなる血。


サビヌスとコッタの軍団壊滅によって失われた兵力を、カエサルはわずか数ヶ月で、倍にして取り戻したのだ。


その日、俺は副将として、新しく到着した指揮官たちの顔ぶれを司令部の天幕で確認していた。


「私がマルクス・アントニウスだ。このガリアで、我が名を轟かせるために来た」


最初に名乗りを上げたのは、ひときわ異彩を放つ、若く野心的な男だった。その鎧はこれみよがしに磨き上げられ、自信に満ちた、しかしどこか傲岸な光がその瞳に宿っている。


彼の野心的な態度に、ラビエヌス様やトレボニウス様がわずかに眉をひそめるのを、俺は見逃さなかった。


続いて、他の新しい副官たちも紹介された。


状況判断に優れ、時流を読むのが得意だというルキウス・ムナティウス・プランクス。四十代前半であろうその顔には、戦場と政治の世界を渡り歩いてきた者特有の、老獪な光が宿っている。


カエサルに忠実に仕えるガイウス・トレボニウス・シラヌスは、まだ二十代後半と若いが、その眼差しは揺るぎない忠誠心で満ちていた。


そして、粘り強い防衛戦を得意とするベテランのティトゥス・セクスティウス。その顔に刻まれた深い皺は、四十代前半という年齢以上に、数多の防衛戦を耐え抜いてきた証のようだった。


いずれも、ローマの政界でカエサルを支持する者たちが送り込んできた、有能な男たちだった。

この軍団が、もはや単なるガリア遠征軍ではなく、ローマの政治そのものを動かす巨大な力となっていることを、改めて実感させられた。


俺は、彼ら新しい指揮官たちに、ライバル意識のようなものは感じなかった。


ただ、自らの計算が、この複雑化する人間関係という新たな変数によって、より困難なものになるだろうという、いつもの面倒事への予感だけがあった。


だが、不思議と、以前のような厭世的な気分はなかった。この巨大で複雑な機械を、俺の計算で動かしてみたい。副将という立場は、俺の中に、そんな新しい欲求を芽生えさせていた。


兵力の回復という、最後のピースが埋まったのを待っていたかのように、カエサルは次の命令を下した。


「全軍、ルテティアへ向かう。かの地で、『ガリア全部族会議』を招集する」


その言葉が、ガリア全土に、次なる嵐の到来を告げる号砲となった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや下の評価(★★★★★)で応援していただけると、大変励みになります!


【先行公開】最新話はカクヨムで連載中です!

いち早く続きを読みたい方は、ぜひこちらにも遊びに来てください。

[https://kakuyomu.jp/works/16818792438187300822]

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ