第四章:計算屋の新たな任
ガリア北部の川という川が、槌音と怒声に満ちた巨大な造船所と化して、一月が過ぎた頃。
俺、レビルスの天幕は、もはや兵士のそれではなく、ガリア北部の物流を管理する巨大な商館のようになっていた。
羊皮紙の山に埋もれ、インクの匂いにまみれながら計算を続けていた俺の元に、カエサルからの召喚命令が届いた。
「…計算屋。貴官の働き、見事だ。おかげで、艦隊の建造は予定より早く進んでいる」
カエサルの天幕を訪れた俺に、彼は労いの言葉をかけた。
だが、その瞳の奥には、別の計算が働いているのを、俺は見逃さなかった。
「さて、本題だ。貴官に、新たな任を与える」
カエサルは、地図の上に、新任の副将キケロの駒を置いた。
「キケロは、優れた男だ。その粘り強さは、一個軍団にも匹敵する。だが、彼にはクラッススのような、戦場での閃きや攻撃性はない。いわば、決して砕けぬ『盾』だ。そして、盾だけでは戦争には勝てん」
カエサルの視線が、俺を射抜いた。
「だから、貴官に行く。キケロの『盾』に、貴官という『計算』という名の、最も鋭い『槍』を添えるのだ。レビルス。貴官を、キケロが率いる軍団の、筆頭百人隊長に任命する」
俺は、言葉を失った。
筆頭百人隊長。それは、現場の叩き上げが、その生涯をかけて目指す、最高の名誉。それを、後方勤務上がりの俺が? しかも、所属する第七軍団から、別の軍団への異例の異動。
「…光栄ですが、俺には、その器は…」
「器など、後からついてくる」
カエサルは、俺の反論を、こともなげに遮った。
「俺が欲しいのは、伝統や前例ではない。結果だ。キケロの粘り強さと、貴官の計算が融合した時、どんな化学反応が起きるのか。それが見たいのだ」
それは、命令であり、同時に、この恐るべき男からの、底知れぬ期待の表明でもあった。
俺は、これから背負わされるであろう、一個大隊以上の指揮権と、数千の兵士の命の重さを思った。
(…勘弁してくれ)
心の中で悪態をつきながら、俺は、深々と頭を下げることしかできなかった。
平穏に任期を終えて、後方勤務に戻る。
その、俺の唯一の目標が、また一つ、絶望的に遠のいた瞬間だった。
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