幕間:長い冬 第二章:二人の王の盤上
その頃、カエサルの天幕では、二人の男が、巨大なガリアの地図を前に、静かに対峙していた。
一人は、この軍団の絶対的な支配者、カエサル。
そしてもう一人は、彼の右腕であり、副司令官を務めるエルフ、ラビエヌス。
カエサルは、地図の上の北方方面を指でなぞり、静かに口を開いた。
「ベルガエ人は砕けた。ローマの元老院にとっては、これで『ガリアは平定された』ことになる。十五日間の感謝祭が、その何よりの証拠だ」
ラビエヌスは、冷徹な目で地図を見つめ返す。
「ですが、反乱の火種はガリア全土にくすぶっています。南西部の**『山砦のドワーフ諸氏族』は我らの力を試すように沈黙し、大西洋岸の『鉄鎖海岸のドワーフ』**は、陸の民の法に従う気など毛頭ないでしょう」
彼の指が、ガリアの中心、中央高地を指す。
「そして何より…**『王家のエルフ氏族』**が、不気味な沈黙を守っています」
カエサルは、満足そうに頷いた。
「そうだ。奴らが動かぬのは、好機を待っているからに他ならん。我々が奴らを見ているように、奴らもまた、我々を見ている。だからこそ、この冬の配置が重要になる」
カエサルは、ガリア全土に軍団の駒を配置していく。
「表向きは冬営だ。だが、その実、これは奴らを包囲するための布石だ。本当の戦いが始まる時、先に仕掛けるのは、我々だ」
彼はラビエヌスに向き直り、絶対的な信頼を込めて告げる。
「俺は、この冬、ガリア・キサルピナへ戻る。俺が留守の間、この盤上を、このガリアの全軍団を、お前に預ける。お前以外に、この大役を任せられる者はいない」
ラビエヌスは、その重責を、一分の揺らぎもなく受け入れた。
カエサルが去った後、一人残されたラビエヌスが、懐から一枚の小さな羊皮紙を取り出した。
それは、彼の古くからの恩人である、ポンペイウスからの密書だった。
「…カエサルの功績は喜ばしい。だが、彼の力が、共和国の秩序を乱すことがあってはならない。君の、共和国への忠誠を信じている…」
ラビエヌスは、その手紙を、静かにランプの炎で燃やした。
灰になっていく羊皮紙を見つめる、彼の美しいエルフの顔に、共和国への忠誠と、カエサルへの友情、そしてポンペイウスへの恩義という、三つの思いが複雑に交錯する、深い葛藤が描かれていた。
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