表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガリア戦記異聞 とある計算屋の活躍  作者: 奪胎院
第一部 幕間:長い冬

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/97

第一部幕間 第三章:春の計算書

冬の終わりが近づいていた。


硬く凍てついていた大地がぬかるみ始め、兵舎の屋根から滴る雪解け水が、春の訪れを告げていた。兵士たちの間にも、どこか浮かれた空気が漂い始めている。


その夜、俺の天幕を、予期せぬ来訪者が訪れた。 筆頭百人隊長、マルクス殿だった。


「計算屋。貴官に、筆頭百人隊長として命令を下す」


彼が机の上に広げたのは、斥候の報告書ではなかった。それは、カエサルの本陣から各軍団の司令部へ通達されたばかりの、来たるべき春の遠征に関する、膨大な補給計画書だった。


「この羊皮紙の山を読み解け。俺たちのような現場の人間には、この数字の羅列が、一体何を意味するのか分からん。これを読み、我々がこれから、どれだけの期間、どれだけの規模の戦いをしようとしているのか、俺が理解できるよう説明しろ」


俺は、覚悟を決めて、最初の羊皮紙を手に取った。 そこに書かれていたのは、俺が後方勤務で飽きるほど見てきた、数字と記号の羅列。 だが、その規模は、俺の想像を絶していた。


(…穀物の必要量、五万の兵士が半年分。予備の投槍、十万本。攻城兵器の部品、数百台分。そして、この補給路の確保計画…これは、ただの遠征ではない。このガリアの北半分を、完全に制圧するまで終わらない、終わりの見えない戦争の計画書だ…)


俺の指先が、冷たくなっていくのを感じた。 カエサルの野望は、俺が想像していたよりも、さらに巨大で、そして狂気じみていた。


一刻後、俺は、震える手で、その分析結果をマルクス殿に伝えた。 彼は、黙って聞いていた。

そして、俺が話し終えると、重々しく頷いた。


「…やはりな」


マルクスが去った後、俺は一人、天幕の中でガリア北部の地図を広げる。


その隣では、ボルグが、まるで新しい戦いの匂いを嗅ぎつけたかのように、黙々と戦斧を研ぎ始めている。

俺は、これから始まる、終わりの見えない戦争を思った。 そして、その中で、俺たちが生き残れる確率を計算しようとして、あまりの変数の多さに、何も計算できないまま、心底うんざりしながら、深い、深い溜息をついた。


長い冬は、終わったのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや下の評価(★★★★★)で応援していただけると、大変励みになります!


【先行公開】最新話はカクヨムで連載中です!

いち早く続きを読みたい方は、ぜひこちらにも遊びに来てください。

[https://kakuyomu.jp/works/16818792438187300822]

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ