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ガリア戦記異聞 とある計算屋の活躍  作者: 奪胎院
第一部 幕間:長い冬

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第一部幕間 第一章:命令と、計算屋の推測

アリオウィストゥスとの戦いが終わり、軍団はセクアニ族の領地で冬営に入って数日後。

兵士たちは誰もが、厳しい戦いを終え、ようやく故郷へ、あるいは少なくともガリア・キサルピナの暖かい駐屯地へ帰れるものと信じていた。戦利品をどう分けるか、故郷の家族に何を買って帰るか。そんな他愛ない会話が、野営地のあちこちで交わされていた。


だが、その甘い期待は、一本の角笛の音と共に、木っ端微塵に砕け散った。

「全百人隊長以上に通達! ただちに本陣前に集合せよ!」


本陣前の広場は、凍てつくような緊張感に包まれていた。 集まった数百の指揮官たちは、皆、同じ疑問と不満を顔に浮かべている。


「なぜ、我々はまだここにいるのか」と。


やがて、カエサルが姿を現した。 彼はまず、俺たちのこれまでの功績を、簡潔だが力強い言葉で称えた。さすらいのエルフ氏族を打ち破り、魔族の王をライン川の向こうへ追い返した、と。兵士たちの間に、わずかな誇りの色が戻る。


だが、彼は続けた。

「しかし、戦いは終わったわけではない。魔族の脅威は去ったわけではないのだ。我々が今この地を去れば、我らが血を流して守ったガリアの同盟者たちは、再び恐怖に怯えることになる。共和国の兵士として、それを見過ごすことはできない」


その言葉に、広場は再び不満のどよめきに包まれた。


「また戦か」


「我々の任務は終わったはずだ」。


その空気を、カエサルは待っていたかのように、一瞬の間を置いた。

そして、全く違う、穏やかな声で、こう付け加えた。


「無論、諸君らの忠誠に、私は報いるつもりだ。この冬営期間中、全部隊の給与を倍にする。 さらに、この粗末な天幕ではなく、木材を使った堅固な兵舎の建設を許可する。**共同浴場も設営し、この野営地を、冬を越すための小さな街へと変えるのだ。**十分な食料と休息を取り、来たるべき戦いに備えよ」


兵士たちの不満は、一瞬で、信じられない、という驚きに変わった。

そして、その驚きは、すぐに現金な、しかし偽りのない歓声へと変わっていった。給与が、倍になる。暖かい寝床と、熱い湯が使える浴場。それ以上の理屈が、疲弊した兵士たちに必要だろうか。


俺は、その完璧な人心掌握術を、一人、冷めた目で見ていた。

(見事なものだ。大義名分という名の「綺麗事」と、福利厚生という名の「賄賂」。これで文句を言う兵士はいない。だが、本当の目的は違う…)


俺の頭は、元補給官の側近だった頃の癖で、この命令の裏にある冷徹な計算を始めていた。

(兵舎に、浴場だと? あれは、ただの冬営の設備ではない。数年はもつ、半永久的な拠点だ。あの男は、来年の春、さらに奥深くへ攻め込むつもりだ。いや、春どころか…このガリア全土を手に入れるまで、俺たちを故郷に帰すつもりはないのかもしれない…)


俺は、カエサルの壮大すぎる野望の可能性に気づき、その深謀遠慮に戦慄していた。

他の指揮官たちが、予期せぬボーナスに浮かれている中、俺だけが、これから始まる、本当の地獄の長さを正確に計算してしまっていたのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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