3話 画用紙
3話 画用紙
960年2月12日
片手にはドルフスの切り落とされた頭部、もう片手には血で染まった短刀を握りしめ、馬車から外へ出ると、私を睨みつけるサミルが目に入った。
目標を達成した以上、彼女と戦う理由はなかったが、彼女の機嫌を損ねたことは明らかだった。
「お前、正体は何だ?」
「お前のせいで部下は全員失い、依頼も失敗して金ももらえなかった」
「本当に異端審問官なのか?」
「当然だ」
「偽装するほど良い職業じゃない」
ドルフスの切り落とされた頭を地面に捨てながら、サミルの方へ近づきながら言った。
彼女と私の間には緊張感よりも好奇心が漂っていたようで、エルノールは馬車から慎重に降りて傷ついた馬を治療しようとしていた。
彼女が先に戦いを挑んでくるなら避けられないが、できるだけサミルとの戦いは避けたいと思っていた。
「そうか? なら異端審問官を辞めて、私の下に入ってくるのはどうだ?」
「計画もかなり綿密に設計されているし、気に入った。」
「こんな弱い奴らよりも、お前の方がずっと役に立つだろう。」
「私が勝ったのに。」
「お前が下に来い。」
短い時間で見せたサミルは、両刃の剣のような人物だった。
能力は説明不要なほど強く、戦闘センスは粗削りながらも判断力は速かった。
短い範囲の欠点を補うために、手段を選ばない姿が印象的だった。
「えー」
「ドルフスを殺したことは認めるが」
「少なくとも私よりは強くなければならない。」
「能力なしで戦って勝てば、入ってくれるか。」
「私が勝てばわかるだろ?お前が下だ。」
サミールの提案に、一瞬迷いがよぎった。次の目的地はルークだったが、準備に多くの時間を費やさなければならず、現在の彼がどれだけ強くなったかは未知数だった。
サミルのような戦闘要員は多ければ多いほど良く、今後も必要不可欠な存在だった。
「いいよ。」
「互いに能力なしで。」
「当然そうなるべきだ。」
サミルは戦う準備をするかのようにストレッチの姿勢を取った。
能力を使わずに素手で戦うなら、勝つ確率はなかった。
それでも受け入れた理由は、彼女の性格上、依頼に失敗し部下も失った状況で、私の拒否は意味がなかったからだ。
そして… まあ… あの娘は私がどんな能力なのかも詳しく知らない。
「マルキオン、私たちが助ければいいんだろ?」
「プヨオ~?」
「あの二匹の馬も君が操っているんだろ?」
「さっき見たけど、結構上手に使ってたな。」
「でも今回介入すれば、すぐに殺すぞ。」
ジャックとアデルは近くの馬車の上に座って、私たちを見下ろしていた。エルノールは馬の応急処置を済ませたのか、荷物を馬車の中に詰めていた。私はジャックとアデルを見て、無言で頷いた。
「左!!拳!」
サミールの拳が飛んできたが、軽く避けることができた。彼女は一瞬驚いたように後ろに下がり、エルノールが静かにため息をつくのが見えた。
「右の拳!右のフェイク!」
「足元!」
「何だよ!!!」
「なぜ当たらないの??」
確かに彼女の動きは速く、事前に反応していなければ直撃を受けていたはずだが、ジャックは常にサミールの動きを先に教えてくれたため、幸いすべて避けられた。
サミールは気づいていないようだった。私は彼女が油断した隙に腕を掴み、倒し、地面に突き刺した。
「くっ!!」
「なぜ私が負けるんだ!?」
「お前、能力を使ったんだろ??」
「認めない。」
「違う。」
サミルは地面に倒れ、私を見上げながら訴えた。私の厚顔無恥な返答に、ジャックの笑い声がより大きく響いた。
「マルキオン~!」
「終わったら急いで行こう。」
「お腹空いた!」
「そうだな、あの奴はまだ死んでいないといいんだけど。」
「ちょっと待って!ちょっと待って!!まだ終わってない!」
「もう一度やれ、もう一度!」
私はサミルを無視して、エルノールが乗っている馬車に乗った。
サミルは後を追いかけてきて、まだ不満を漏らしていた。
私はすぐに次の目的地である国アストレルの地図を広げた。
エルノールは隣で一緒に見ていたが、サミルはイライラと好奇心が混ざった表情で近づいてきた。
「マルキオンの最初の復讐は終わったから」
「今こそ本当の始まりだ」
「まず仲間を集めなきゃ」
「復讐? どんな復讐?」
「お前は異端審問官じゃないのか?」
突然後悔が押し寄せてきた。
サミールは思っていたよりおしゃべりで、エルノールと一緒だとさらに気が散っていた。
「行きながら説明するよ」
「そう、全部話して」
「私が納得すれば少しは手伝うよ」
「代わりに金は全部もらうから」
「負けたのも悔しいけど、金くらいはもらわないと」
馬車を出発させながら、サミルについて聞いた情報をじっくり考えた。
サミルは自分の部下を駆使して手段を選ばず戦ったが、私との賭けでは公正に臨んだ。
その理由は金か…
「金に執着する理由は何だ?」
「貧民街出身だからお金が好きなんだ、なぜ!?」
「説明しろ!」
私の質問に、サミルは少し驚いて防御的な態度で答えた。
「貧民街出身」という言葉に、以前抱いていた疑いが解消されたようだった。
カルセルの貧民街はお金があれば何でも可能な場所で、何か事情があるようだった。
「ルークって知ってる?」
「ルーク?」
「有名な~次期英雄?」
「知らないわけないだろ、教皇庁がめちゃくちゃ推してて、信者たちは完全に狂信者たちだろ」
「あの野郎がなぜ?」
「私が殺さなければならない対象だ」
サミールは自分の耳を疑うような表情を浮かべ、私とエルノールを交互に見た。
エルノールは地図を見ながら照れくさそうに笑った。私は自分が正確に聞いたと確信し、頷いた。
「私はやらない」
「むしろカルセル王の暗殺の方が簡単だろう」
「3人であの集団をどうするつもりだ?」
「それより、お前も教皇庁所属だろ!?」
「だから今、仲間をもっと集めに行くんだ」
「異端審問官は計画の一環だと言ってるけど、俺は教皇庁が嫌いなんだ」
「やりたくないなら、いつでも抜け出してもいい」
サミールは悩んでいるように見え、無言で背もたれに寄りかかって座った。
その姿は、どうせ達成できない目標に少しだけ手を貸して金儲けをして去ろうとしているように見えた。
「マルキオン、ここらで右に曲がるべきだと思う」
「アストレルに強い仲間がいるのか?」
「お前がそんなことをどうやって知ってるんだ?」
エルノールは地図を見ながら進むべき方向を教えており、
サミールは疑いの眼差しで私を見た。
「異端審問官だから」
「通報を受けた書類で探しているんだ」
「通報を受けると、普通は本当に奇妙な団体や新しい宗教を設立しようとする団体の通報が入ってくるんだけど」
「この奴は違う」
「ノバク.. 18歳..」
「悪魔?」
「これは何だ、人をただ悪魔と呼ぶのか?」
エルノールは私の代わりに説明し、サミルに告発書類を見せた。
そこには、今私たちが探している少年ノバクに関する情報が列挙されており、
サミルもまた、何かおかしいと気づいたようだった。