01話 プロローグ:彼女のデッサン
01話 プロローグ:彼女のデッサン
毎晩眠りにつくと、夢の中に醜い幼少期の自分が現れる。
10年以上前の過去だが、私は毎日嫌悪する自分を見続けなければならなかった。
「ああ…またこの夢か…」
「マルキオン、起きなさい。朝ご飯を食べなさい~」
夢が始まると、必ずこの場面とこの場所から始まる。
小さな平凡な家庭の家、父は朝早く馬車の仕事に出かけた朝の時間…
私の母ロサンダが幼少期の私を起こす。
短く黒い髪、小さな体格、やせ細った子供、同年代の男の子より弱々しかったあの頃が過去の私。
「はい…父はすでに仕事に出かけたんですか…?」
「仕事に出かけたわよ~」
「早くご飯食べて、洗おう。」
その小さな目はこすりながら起き上がり、母親を見上げて尋ねる。
私の母親ロサンナはいつも優しく、豆で作った料理が上手な人だった。
母親は愛情と母性愛に満ちた目で幼い私の頭を撫でてくれ、
食卓に座って一緒に食事をした。
いつも笑った顔で..
「うう…今日も豆のスープですか?」
「あまりにも頻繁に食べるから…」
「おかずの文句を言わずに、明日は肉料理も作るから~」
「パンと一緒にバランスよく食べなきゃ、マルキオン。」
吐き気がする。
過去の私、幼い頃の私の姿が吐き気を催すほどで、到底見られないほどだ。
今すぐにでも駆け込んであの子供を殺したいほど吐き気をもよおす光景だ。
しかしそれでも…
私は一度も目を離したことがない。
もうすぐ始まる。
「キャアアアッ!!」
家外から聞こえる悲鳴…
数百回は聞いたので、今では慣れた悲鳴だ。
母親のロサンナは驚いて玄関へ足を運ぶ。
私は玄関前で彼女を止めたいが、できない、これは夢だから。
「外で何があったの?」
「ご飯を食べて待ってて、お母さんが見てくるから。」
結局玄関のドアは開かれ、家の外に見える光景は、人々が逃げ惑い絶叫している。
帝国軍カルセルが侵攻を開始したこの日…この時点
数十人の兵士の甲冑が鳴り響き、馬の蹄がぶつかる音が一斉に聞こえてくる。
頭から消えない日付、938年9月12日。
母親のロサンナは衝撃で凍りつき、音だけ聞こえていた彼らの姿が少しずつ見え始めた。
「なぜ…? 外で何があったの…?」
「マルキオン… 早く… 早く服を着なさい…」
「違う… ただ今すぐ逃げなきゃ…」
純真な子供の質問に、母親のロサンナは首を回して見詰め、
すぐにすぐに行動に移し始めた。
私は玄関から先に外に出て周囲を見回した。
少しずつ燃え上がる炎、次々と倒れて床に染み込む血。
私は色盲なので、あの赤い血を見ることができない。
「マルキオン、お母さんの言うことをよく聞きなさい。」
「何も聞かずに、お母さんを信じて。」
「なぜですか…?何があったんですか…」
そろそろ出る時が来た。
母親のロサンナは幼い頃の私を抱きかかえ、周囲を警戒しながら家外へ出た。
目立たないように慎重ながらも素早い足取り…
自分でもどこへ行けばいいのか、何から始めればいいのか分からないまま、とりあえずその小さな子供を気遣う姿…
本当に尊敬すべきだ。
もしかしたら…私は彼女のために、この夢から目を覚ますことができないのかもしれない。
「しっ!ただお母さんを信じて…」
「何があったの…」
イライラしているのか、純真なのか分からないあの子供の口は、母親の怒鳴り声が続き、ようやく静かになった。
ロサンナは周囲を見回し、幼い私を抱きかかえて急いで走り始めた。
私は急いで追いかけるのではなく、ゆっくりと歩を進めた。
どうせこの物語の結末も、どこへ行くのか知っているから。
「全部捕まえろ!!」
「捕らえた捕虜の数だけ報奨金があるから、全員捕らえて来い!」
「死体も半分は認めてやる。」
私は遠ざかっていく母親と幼い頃の私の後ろ姿だけを、ただじっと見つめていた。
私が最も愛憎する場面…
いつの間にか私の隣と周囲はカルセル兵士たちに囲まれており、
彼らの隊長の声が近くで大きく響いていた。
幼い頃は知らなかったが、今はあの男が誰なのか知っている。
ドルフス、私の母親を殺した張本人だ。
「今頃、私は井戸の中にいるだろう。」
私は彼を無視し、まずは幼い私がいる場所へ向かった。
どうせドルフスは現実で、あの男が最も幸せな時に殺すから。
しばらく歩き、少しずつ彼らが現れ始めた。
「マルキオン…」
「よく聞いて…絶対に声を上げてはダメよ…」
「お母さんが必ずまた迎えに来るから…」
「嫌です…お願い、行かないで…」
母親のロサンナは、幼い私を乾いた井戸の中に隠そうとしていた。
体がロープで縛られ、次第に下へ下へと降りていく中でも、ただ泣くだけで何もできないゴミのような幼い私の姿。
無謀だと知りつつも、生き延びてほしいという思いで、すべての感情を抑えながら私を守ろうとする母親の姿。
あまりにも多く見てきた光景だからか、今では悲しみや怒りよりも、無力なあの男の方が憎らしい。
「マルキオン、心を強く持て…」
「この世界は平等ではない…」
「それでも夢を抱け、希望を胸に…必ず生き残って…」
「違う…ただ…生きてくれ…」
そうして母ロサンナは私を井戸の中に置き、一人で周囲の兵士たちがここに来られないように注意を引きつけてくれた。
もちろん母はすぐに兵士たちに捕まり、
幼い私は井戸の近くで彼女が死んでいく音を聞かざるを得なかった。
「あぁ…抵抗を…」
「殺すなと言ったのに…全部金だ…」
「申し訳ありません…怒ってしまって…」
「ううっ…はあ…ふう…」
ドルフスと兵士たちが死にゆくロザンナを置いて話をしている間、ロザンナの腹部からは血が流れ出ており、
彼女はただ幼い私が聞かないようにと、その苦痛を耐えていました。
ちょうど私が目撃できなかった赤い血が地面に染み込んでおり
彼女の息が絶える間、周囲は次第に無彩色に染まっていった。
「よく聞け、マルキオン、お前のせいだ」
「諦めるな…」
私は井戸の底を見下ろしながら言った。
どうせ私の声はあの奴には届かないだろうが…
私は地面に座り、井戸の壁に背を預けた。
この状態で3日間待たなければならないから
「殺して… くれ…」
「助けて…」
「やめて… やめて…」
ついに3日間の時間が過ぎ、その間、あの子供は座り込んで手で壁を掻きむしっていた。
声は声を張りすぎたため、喉が枯れてほとんど出なくなっていた。
母親のロサンナの犠牲のおかげか、3日間この場所を通る人は誰もいなかった。
おそらく最も安全で隠れるのに適した井戸の中で、最も激しい絶望を悟り始めていた。
「お願い…!!」
「お願い…」
「ううっ…!! ”
夢の中の3日間だったが、あまりにも鮮明なこの夢の中で、ついにあの小さな子供が自ら動き始めた。
誰の助けもなく、渇いた口と空腹を耐えながら、
井戸の中を這い上がっていた。
私のイブが壊れたその日、938年9月15日
「え…?あの小さな人間、生きていたのか?」
「人間も動物だから、一晩中泣いていたのに、結局一人で出てきたんだ。」
幼い私が井戸から出てくると、聞こえてくる声たち…
存在は、崩れた家の上から小さな子供を見下ろしていた。
この時点から、私は動物たちとコミュニケーションを取れるようになった。
「そこに…助けてくれ…」
「一度だけ…助けてくれ…」
「えっ?私たちの声が聞こえるのか?」
「間違いなく私たちに話しかけたんだろ?」
「そうみたいだけど?」
アデルとジャック…
これが、今後私の家族となる存在たちとの初めての出会いだった。
「聞こえる…聞こえるんだ…」
「水…水 좀…食べ物…」
「本当に聞こえるの?」
「とりあえず助けてみよう。少し特別な人間みたいだ。」
彼らは死にそうな幼い私のために食べ物と様々な日用品を持ってきてくれ、
そのおかげで危うい状態だった幼い私が生き延びることができた。
少しずつアデルとジャックの世話を受けて回復する幼い私の姿が見え、周囲の視界がぼやけ始めた。
終わりのように見えるこの夢は、まだ終わっていなかった。
まるで演劇のように、一つの幕が閉じれば次の幕に移るように、周囲の風景が歪み、
変化し始めた。
946年12月19日、その日だ。
私がこのような夢を見始めた日の始まり
8年の月日が流れ、ある程度成長した私の姿が見え始めた。
周囲の風景が一つずつ安定し、はっきりと現れ、
遠くから駆け寄ってくる彼女が視界に映った。
「マルキオン…」
「寒くない?」
「食べ物を少し持って来たよ…」
「ありがとう、ファム。」
行き場もなく漂流しながら命をつないでいた私は、教会の保護施設に入りました。
教会の保護施設で出会った4人の友人たちと、8年間を共に過ごしました。
ファム、エルノール、ジェフ、ルーク…
パムは小柄な体格にふわふわの金髪を持ち、内気ながらも常に正直だった。
若い頃の私は大金を稼ぐために最も危険な漁業に飛び込み働いており、
パムはいつも夕食の材料を持って訪ねてきてくれた。
「今日は怪我してない?」
「念のため、薬やあれこれ持って来たんだけど…」
「今日は怪物が出てこなかったから大丈夫。」
「今日も絵を描いてきたの?」
作業が最も危険だった理由は、海の中から怪物たちが陸地に上陸する惨事が頻繁に起こり、
怪物たちのせいで船が沈没する事も珍しくなかったからだ。
だからファムはいつも私を心配してくれていたし、
今でも不器用だけど、若い頃はさらに不器用に感情を表現していた。
「うんうん!見せてあげる?」
「今日はエルノールとジェフがモデルになってくれたから描いてみたんだ…」
「上手だね。」
「ジェフは少し不自然に立っているみたいだね。」
平凡で日常的な会話、私はその時、安住していた。
目的も夢もなく、お金を稼ぐために命がけの漁業をしながらも、
油断していた。
若かった頃の私の言葉に、パムは小さく笑ってくれた。私はその後ろでパムの絵を眺めていた。
8年間見てきたが、パムの絵が完成したことはなかった。
おそらく色盲だった私にみせるために、わざと着色しなかったことは、彼女が死んでから知った。
「あ!そうだった!」
「マルキオン…26日にルークが正式に精鋭騎士に就任するんだ。」
「最初は全部秘密だと言っていたけど、それでも一緒に祝ってあげなきゃ…」
「もうすでに教皇様とよく会っているらしいけど、すごいよね?」
「そうだな、祝ってあげなきゃ。」
教皇庁…
今、私が最も憎む組織だ。
海から現れる怪物たちを防ぐためには、私のような特別な能力を持つ存在が必要で、
国家、民間団体、教皇庁のような勢力は、特別な人材を探すために多くの力を注いだ。
彼女が話すルークは才能が際立つ友人であり、
その後、人類の英雄と称賛されるまでに至った、私が知る中で最も強い存在だ。
そして…
「それで、だけど…」
「今日、先に祝ってあげようかと思うんだけど、どう?」
「マルキオンはエルノールとジェフと行って準備を手伝ってくれ… 私は既に話したから。」
「私がルークを連れてくる。」
「ファムが?」
「わかった、ただ食事の準備だけすればいいんだね…?」
彼がファムを殺した張本人だ。
ファムは喜びながらルークを連れて教皇庁へ向かい、
若い頃の私と
今この夢を見ている私は
彼女の背中だけを見つめていた。
最初の出会いからルークから感じた違和感を、私は無理やり無視していた。
この日、彼女をこう送ったのは
8年間何も変わっていない、依然として吐き気を催す私の選択だった。
「目覚めろ、マルキオン。」
「これは全てお前のせいから始まった話だ。」
「夢でも幻想でもない、お前の醜い過去だ。」
「パムは夢を持っていたが、お前は何も守ったことがない…」
私は若い頃の自分を見ることなく、吐き捨てるように言った。