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社会人の独り言  作者: 黒船雷光


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口裂け女

最近人気のアニメの中で「口裂け女」が出ているが、この都市伝説とも妖怪ともとれる存在は、ちょうど私が小学生だったころ話題になり、学校中がその話題で持ちきりになったのを覚えています。


学校の怪談で有名は、トイレの花子さんは、私が知ったのはもう社会人になっていた気がするので、その根源伝承では口裂け女の方がはるかに先輩という事になります。


話題を振りまく中心は小学校では当時は噂好きの女子生徒でした。

昭和の小学校、特に口裂け女が流行ったころは、少子化問題なんて想像もつかない第二次ベビーブーム世代で学校に生徒があふれ、私の入学した小学校は1学年11クラスあり、しかも1クラス53人の生徒というマンモス校で(今マンモス校って言わないと思うけど、生徒が多い学校のことをそう言った…)途中で学区内に新しく小学校が出来て分かれてそれでも8クラスとかあった異様に生徒が多い時代、インターネットのイの字もない口伝伝承とテレビでの話題が中心の時代に突如として広まったその怪異に、子供たちは戦慄……はしてなかったと思う。


ただただその話題を中心にどうやったら逃げられるかとかを「ねえねえ知ってる?」と伝播しまくっていた。


50人以上いるクラスが12組とかあれば、1学年だけで600人とか居る。全校生徒3000人とかちょっとおかしなことになっていた。運動会は2日間あった。大変だったと思う…が、一つの話題で異様なほど盛り上がる。ネットで知らない人との交流が当たり前の今とは異なるけど隣に実在する人のコミュニティのなかで「その話題についていけないとハブられる」という感覚は、今の人にはない恐怖がある。


トイレの花子さんと違うのは、学校に口裂け女は居ない。つまり、生徒同士が結託している中にその怪異は入り込めないのだ。だから遠慮なく学校内ではその話題を口にして、回遊する。


全校生徒会というのを月曜日の朝にやっていました。そこで口裂け女の話題をしないようにと教頭が呼びかけました。昭和50年代の小学校は余りのそのやり取りに支配されていて、対応が必要と考えていたようです。しかし、生徒たちはその噂話の回覧を止めることはなかった。

業を煮やした教頭先生は、噂に振り回されることがいかに愚かなのか?を一つの実験で証明して見せた。


「ゴリラ女」という、とって付けたような教頭オリジナルの怪異を生み出し、追われてしまったら、バナナを差し出すと喜んで去っていく…という、いまなら「おい!」とツッコミを入れたくなるくらいあざとい噂を学校内に流したのです。


次の週の月曜日の朝礼で、教頭は静かに尋ねました「口裂け女の話もありますが、ゴリラ女の話を聞いたことがありますか?…聞いたことがある人は手を上げてください」

すると、校庭に全員体育座りさせられていた中で、噂好きの女子が一斉に手を上げました。


4年生で半分くらい、5,6年生は女子が7,8割。男子はほぼ手を上げることはなかったと記憶しています。


教頭はその数に満足そうに頷き「ゴリラ女は先生が考えて、一人の女子生徒に話しました…1週間経ちましたが、これだけの人が知っています…これが噂の広がる力です。もちろんゴリラ女なんで居ません」

嬉々としてその話知ってます!と意気込んで手を上げていた隣の女子の顔が露骨に変化するところを当時の僕はよく覚えています。


いまそうやった教頭の行為をどう判断されるのかは分かりませんが、リアルな社会実験を閉ざされているけどマンモス校ともいわれる小学校で行われ、どういう結果につながるのか…そして、そのリアルな目の前にある情報を元に、噂の広まり方とそこにどう関わっていくのかを痛烈に見せられた教育として、印象に残っています。

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