真夜中のエレベーター
普段常用し、特に何かを感じない密室が、突然おぞましく恐ろしく感じるという意味では、エレベーターは割とこれまでもホラーに恐怖を司るツールとして登場するが、皆さんはエレベーターが怖いって思ったことはあるだろうか?
私は少年時代、造船所の近くの新興住宅地で、山を削ってできた団地に住んでいた。
今考えれば家の前がいきなり坂だし、道はある程度見通し良く真っすぐだが、地形に依存して縦軸に対して矢鱈上下するので、意外と不便だったと思う。
現代の造成技術ならもう少し平たんに形成するのだろうが、昭和の時代のベビーブームの渦中で生まれた私の世代は、急激に広がる核家族化で4LDKくらいの小さな住宅に4人家族とかで住むのが普通だったと思うが、造船所は当時は非常に多くの人が関わっており、近くの海を埋め立てて巨大な県営住宅地が出来て大量の人たちがそこに移住してきていた。
昭和の県営住宅は、巨大なメイン棟と階段しかない4階までの中くらいの棟が混生していて、中央の広場を囲うようにスーパーや歯医者や理髪店、おもちゃ屋や文房具店などが入っており、コンビニなんかまだなかった時代は学校の友達も多くがそこに住んでいてよく遊びに行った。公園施設もある程度あり、遊具もあってそこでも遊んだのだが…おっと失礼、閑話休題。
そのメイン棟だけは回数は覚えていないがシンボリックな中央に立つ棟はエレベーターが付いていて、子供心に乗るのが楽しくて、友達の家に行くときだけでなく日がな上昇下降に乗り続けて、全フロアのボタンを押したりして住人から怒られたりしてた。
そのエレベーターが今と違い、矢鱈止まる時にクッションが利く。うぃぃぃぃぃん…プシュゥ…チン!で階に止まる時やたら上下に揺れるのだ。子供の頃はそんな揺れる感触も楽しいのだが…ある日友達と懲りずに用もないのにエレベーターに乗って昇降していたら、とある階でおばあさんが乗ってきた。気にせずボタンを適当に押してたら頭上から声がする。
「おめぇ…ここの子供じゃねえな…」
振り向くと私のすぐ後ろ、覆いかぶさるようにそのばあさんがこちらを見下ろしていて、隣にいた友達は対角線上にエレベーターの反対側に逃げて、パネルに向かっていた私の顔前にそのばあさんの顔が来ていて、少年だった私は硬直してしまっていた。
近くで止まった階で飛び降りて、そのまま棟の横にある階段使って逃げ帰った。
あの時のエレベーターが止まって揺れが収まり、チンといってからゆっくり扉が開くあの時間、その恐怖が今も私の中にこびり付いている。まあ、ばあさんは単純にいたずらするクソガキに注意して、自分の利用する階のボタンを押そうとしていただけなのかもしれないが…
まあ、最近の日本のエレベーターは超優秀でスピードも速いが減速による気持ち悪さも出ないし、扉が開くまでの時間も短いのでホント優秀だと思う。
今日こんな時間になってしまって、帰宅する際に会社のエレベーターを使ってビジネスフロアに降り立ち、ゲートをくぐると今度は地下の地下鉄連絡口まで直行のエレベーターがあって乗り継ごうと思ったのだが、エレベーターがちょうどゲートをくぐった先にチンといって到着したからラッキーと思って乗り込もうと思ったら、なぜか老婆が乗っていて…降りるでもなくずっとこっちを開いた扉から見ているのを目撃してあの少年時代を鮮明に思い出してそこの恐怖を感じて、くるっと踵を返して階段から1階に向かった。
エレベーターって怖い…ですよね。




