真夜中の車椅子
私が今住んでいる場所は、歴史ある古い街である。
田畑が潰れて住宅地に変遷していった経緯から、区画整理された新興住宅地と異なり、道が東西南北に分かりやすい十字路など無く、車通りの多い県道国道は道幅も含めて整備されていても、住宅街に入ると角一つ曲がると来た道が見えなくなるため(角度が90度になっていない)方向感覚も狂いやすく、道に迷いやすい。
住み始めて間も無くの頃は駅から自宅までの道にGoogleマップ無いと真面目に帰り着かないくらい道がややこしい。何せ曲がり角一つ間違えるとあらぬ方向に行き着くからだ。
そんな、転勤して引越ししたばかりで自宅までのルートを最短で調べて帰宅している頃の話。
私の仕事は所謂裁量労働制が適応されている技術開発職なので、帰宅時間は夜遅い事が多い。更に先にも述べている様に今は住宅街になっているとは言え、元は田舎なので極端に電灯が少ないのだ。
その日は残暑残る湿気の多い深夜近い暗い夜道。
道が狭いので稀に通る車に轢かれたく無いと言う気持ちもあって大通りを少し避けた細道をガイドに沿って歩く。
住宅街が寝静まると本当に僅かに虫の声が聞こえてくるくらいで暗闇と静寂が支配している中、自分の足音だけが異様に響く中で、キィキィと前方から音がする。
十メートル程度先に小さな電灯が頼りなくその下だけを照らしているその奥から聞こえる金属が擦れる錆びた自転車の様な音はゆっくりとこちらに近づいてくる。
自転車では無いと分かるのは、その音の間隔と近づく速度が異様に遅いからだ。
こちらはスマホのマップを眺めて道を確認しつつの移動だったので暗がりがよく見えていないのもあったが、その音の正体に気付いた時は前方5〜6メートルの距離だった。
丁度街灯の下に照らされて現れたのは、車椅子に乗った老人だった。その車椅子はスルスルとこちらに向かって進む。近づくと分かるが、キィキィ音がする中でウィィと言うモーター音も混ざっている。所謂電動車椅子だ。
この深夜に灯りを一切持たず、老人が一人で電動車椅子てわ徘徊?していると言う絵面は、思わず声を上げそうになる私が堪えられたのを褒めて頂きたいレベルで恐怖映像であった。
逃げる事も引き返す事も瞬時に判断出来ず、細い道の反対側に全力で避けて、すれ違った後ダッシュした。
気がついたら全然想定してない場所に出て、遠回りになったが川沿いに歩いてその日は帰った。
コレは本当の話