狐に化かされた父の話
生前、群馬の片田舎で育った私の父は、百姓の小倅で八人兄弟七番目、稲作と養蚕をする今なら文化財遺産登録してもらえそうな茅葺き屋根の家に住んでいた。
親族も近くに住んでた。と言っても余裕で10キロは離れて居るが。
6番目少年は雑用を頑張って、親族に米俵を届ける役だった。因みに米俵一俵(60キロ)を担いで運んだ。山あり谷あり川ありの山道だ。
小学生の子供には無理。かと思えるが、生前の父を見て居る私はそれが本当だと思う。
何せ父はその後保安庁警備隊(後の海上自衛隊)に就職し、そこで数々の伝説を残して居るからだ。
握力90キロ、背筋測定不可(振り切った)喧嘩をすれば胸倉掴んだ相手をそのまま持ち上げる剛力でとんでもない問題児だったらしい。
話が脱線したが、そんな父は群馬県の山奥で狐に化かされた事が有ると自慢していた。
先程の米俵運搬の話の続きだが、親族の家に届けた帰り道、いつも通る道が通りづらい。暗がりなのでよく見えないこともあるが、道が見えるところを行こうとすると、何故か薮に突っ込む。
土手に戻ると狐火が見えた。
「こりゃあ化かされたる」と確信した父は、土手の上はいつもの道なので、視覚で見えている道を通ろうとせずに、目を瞑っていつもの感覚で曲がるといつもの土手の下の道に出た。
昔の電灯も道を照らさない様な田舎道で何を根拠に狐に化かされたのかもわからない話なのだが、父の中では不思議な出来事として記憶され、おそらく散々にその話をした際に「狐に化かされたんじゃない?」とでも言われてそう思ったのだろうか…と推測するが、昔はそんなオカルトが身近にあったのだろう。