沈黙
暗い顔で黙り込む睦月を、申し訳なさそうに上目遣いで見ながら華音が言う。
「あの……。あたし、ムーちゃんにスクーター買ってあげるから……好きなの選んでね」
「いりませんよ。そんなの」
「ご、ごめん。……それと、これ。食券。食堂で好きなもの食べられるから……」
取り繕うようにそういうと、華音は懐から十枚つづりの券を取り出して机に置く。
睦月は呆れてしまう。
(スクーターやら食券やら……ガキ扱いもいい加減にしてくれよ!)
バカにされてる気がして、睦月は無視を決め込む。華音はオロオロと所在なさげに辺りをさまよった後、呟いた。
「ねえ、ムーちゃん」
「……なんですか」
「ムーちゃんは……やっぱり、そんな身体になりたくなかった?」
「……少なくとも、なりたかったわけじゃないですね」
「…………ムーちゃんは、あたしが三年前に死んでいれば……よかったと思う?」
その問いに帰ってきたのは、長い沈黙。
華音は悲しそうにうつむくと、黙って部屋を出て行こうとする。
その背中へと、震える声で睦月は言った。
「……先輩。俺、また先輩に会えて、本当に嬉しかったんですよ。それだけは、間違いないですからね」
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