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落ちる
「な、なんだ、これ……?」
そこにあったのは、こびりついた湿布でも、かぶれた肌でもない。
縫い痕。
首の周りをぐるりと、醜い縫い痕と傷が巡っていた。黒くて太い糸でジグザグに走るそれを、睦月はゆっくりとなでてみた。
間違いなく、糸は肌に食い込んでいる……その下の傷も本物だ。
まったく痛みがないのが不思議なほど深い傷である。
青ざめながら、糸をカリカリと爪で擦る。どうやら、この縫い目が痒くなっていたらしい。
その時、突然。扉が開いた。
「ムーちゃんっ!」
飛び込んできたのは、キョンシー姿の華音だった。
「う、うわ? 先輩っ! こっち、男湯ですよ!?」
ほとんど裸だった睦月は、反射的に下腹部を隠そうとした、その瞬間。
糸が爪に引っかかって、ブツリと外れた。
ずる、ずろり。音を立てて、首筋から糸が抜けていく。
視界がゆっくりと横にずれ、そして……ごとん。
首が、落ちた。




