知らない部屋
目を覚ました睦月は、見知らぬベッドに寝かされているのに気づいた。
慌てて身を起こし、辺りを見回す。部屋の大きさは八畳ほどで、窓がひとつもなく、家具は少ない。
簡素な机と椅子。銀色のスチールラックに、昔のマンガと古い携帯ゲーム。
壁には淡いピンク色の壁紙。そなえつけのクローゼットに、袖のほつれた女物のコートが壁のフックに掛かっている。
机の上には何冊かの本が置いてあった。知らない部屋のはずなのに、どことなく懐かしい。
その懐かしさがなんなのか考え、ふと思い至る。
匂いだ。まったく知らない部屋なのに、どこか覚えのある匂いがするのだ。
はて、それがなんなのかと悩んでいると、ドアが開いた。
「ムーちゃん……大丈夫? 身体、痛くない?」
顔を出したのは華音だった。
「先輩? そうか、ここ、先輩の……」
懐かしいと感じた匂い。それは昔、一緒に過ごした彼女の部屋の匂いだった。
「俺、なんでこんな所に寝てるんですかね……?」
首を捻ると、皮膚が引き攣れるみたいな妙な違和感を感じる。慌てて手をやると、首筋に幾重にも包帯が巻いてあった。
「……えっとね、ムーちゃん、昨日の夜に階段から落ちたのよ。ドゥンケル城の、見張り搭の階段からね」
「見張り搭の階段……?」
そういえば、昇った気がしないでもない。長い螺旋階段と、窓から覗く病的に細い三日月を幽かに覚えている。だが……もっとなにか、重要な事を忘れてる気がする。




