目的
ただ、そんな事を言われても、実際に橘のバラバラ死体を見ている睦月には、納得できるわけがない。
匂い、断面、広がる血。……あれは断じて、夢でも妄想でもない!
ヘルメットの上から、苛立たしげにガツガツと何度も頭を叩く。
「嘘だろ? どうして……っ!」
誰が、なんの目的で?
それを考えた時、ある人物に思い至る。
「まさか……オーナーが?」
あの場にいたのは、自分とケンゾー、サンドラの三人だけだ。そして、自分とケンゾーは、彼女の命令に従って時計塔を降りたのだ。その後、
警察が到着するまで小一時間程度だったろうか……実質的に、現場を動かせるのはサンドラだけと言う事になる。
仮に、彼女が橘の死体を隠したのだとしたら。
そして、その理由が、ストレンジ・ワールドの開園であるならば。
ゾッとした。気が狂ってるどころの話ではない。
人の死体を隠してまで営業し続ける遊園地など、あっていいわけがない。
そんなもの、悪夢そのものだ。
そんな睦月の様子を、転はネクタイを弄りながら面白そうに見ている。
睦月にはその態度が癪にさわり、半ば八つ当たりのように彼を睨みつけた。
「……で、あなたは今、何をしてるんですか?」
「さっきも言ったろう? 捜査はできない。事件にはなってない。そんな場所に刑事がいる理由はないんだよ。だから、今は暇な時間を利用して、客としてテーマパークに来ているんだ」
「客として、ね」
皮肉を隠そうともせずに睦月は言った。




