事件?
それから、言い直すように言葉を続ける。
「あ、いや。そもそも……事件として扱うかどうかすら、怪しいレベルだな」
「事件としてって……!? だって、あれだけ身体や血が飛び散ってて、橘さんが首だけになってて……!」
睦月の言葉に頷きながら、転は続ける。
「うん、ところがだ。君が見たと主張する、それ。バラバラ死体やらの惨状な」
そこで、一度言葉を区切る。それから、
「現場には、血痕ひとつ残っちゃいなかった。血液と反応する薬品で検査もしたが、拭き取った跡さえなかったよ」
「そんな、バカな!」
「橘君が行方不明なのは本当。逆に言うと、それだけ。つまり……現状、起こった事柄だけを見るなら、単に従業員が欠勤してるってだけなんだな。加害者不明、被害者不在、凶器も物証も見つからない。……ほら、事件になりようがないだろ?」
「欠勤って……! あんた、なに言ってんだよ!? そんな話じゃないだろ! 新聞だってテレビだって、あんなに大きく取り上げて、大騒ぎしてるじゃないかっ!」
今朝のテレビのニュースを思い出し、睦月は大声で叫んだ。




