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年上の幼馴染

 睦月と華音は幼馴染で、華音が三歳年上だ。

 近所からは面倒見のいいお姉ちゃんと、よく懐いている男の子と見られていたが、もっと()(てい)に言うならば、“彼は彼女の子分”であった。


 睦月は華音を「先輩」と呼び、華音は睦月を「ムーちゃん」と呼ぶ。先輩は、当時やってたドラマで覚えた呼び方だ。

 あの頃は同年代の友達よりも、もしかしたら親よりも、一緒にいる時間が長いくらいだった。

 だが、睦月が中学生の時、不意にその関係が終わりを告げる。華音が大病を患ったのだ。


 療養のため別の町へと引っ越す彼女は、元気一杯に笑って睦月に手を振った。

 ボストンバッグを抱えてタクシーに乗り込む華音の笑顔を、睦月は今でも思い出す。

 病魔の気配なんて、微塵も感じさせない。まるで、徹夜した翌日の太陽みたいに明るい笑顔だった。


 しかし、一年たっても二年たっても華音は戻ってこない……手紙の一枚、電話の一本さえなく、やがて三年がたってしまう。

 睦月は高校へと進学し、二年生になった。

 また、季節が巡る……。


 何度目かの華音がいない秋が過ぎた。そして二学期の終業式を終え、明日からの冬休みの計画を立てようとしていたその矢先に、出し抜けに華音がやってきた。

 昔と変わらない眩しい笑顔で現れた彼女は、手土産のケーキを差し出した。そして、病気は完治した事と、近所の巨大テーマパークに就職した事を告げ、今まで会いに来なかった非礼を詫びた。

 それから部屋でケーキを食べ、思い出話に花を咲かせていたら、唐突に彼女が話を切り出したのだ。


「ねえ、ムーちゃん。アルバイトする気ないかしら?」


「……アルバイト?」


 睦月はカスタードクリームたっぷりのエクレアを噛み切りながら、言葉を返す。

 華音は、こくりと首を傾げてみせる。


「そう、アルバイト。あたしの仕事先、どうしても連休中は人手が足りなくてさ。高校生のお給料にしては、破格のはずだよ!」


 ニコニコと笑う華音の言葉に、睦月は尋ね返す。


「先輩の職場って……さっき言ってた、テーマパークですか? 名前は確か、『ストレンジ・ワールド』……?」


 その言葉に、華音は頷く。

 ストレンジ・ワールドは、自宅から自転車で三十分ほどの場所にある、日本でも指折りの巨大テーマパークのひとつだった。

 森を切り開いて作られた広大な敷地面積は、それこそ小さな村や町に匹敵するほどだ。

 高校時代にストレンジ・ワールドで働いていた彼女は、卒業後は進学せずにそのままそこへと就職したそうだ。睦月も無論、子供の頃に遊びに行ったことはある。


 だが、地元ゆえの余裕だろうか……えてして人は、近所にある名所名物の類には、興味がなくなるものらしい。

 最後にあそこに行ったのは、もう何年前になるだろう?

 一応は近所と言うことで、優待券の類は広告に入っているのだが、少なくとも最近の記憶にしっかり残るほど、遊んだ覚えはない。


「そうよ、ストレンジ・ワールド。お仕事の内容は、警備員兼案内係みたいなものなんだけど、手伝ってくれると嬉しいな。お正月やクリスマスには特別手当だってつくのよ。……ね? おねがい!」


 その後に提示された金額は、確かにアルバイトとしては破格だった。

 言われて、睦月は顎をなぜる。

 さしあたって今、金に困っているわけではないが……。


 子供の頃からの、彼女の『おねがい』と言う名の『命令』は、三年たった今でも、その拘束力は変わらないらしい。華音の望みなら、ぜひ叶えてやりたい。

 だから睦月は、二つ返事で頷いた。


「はい、いいですよ! 俺、ちょうどスクーターが欲しいと思ってたんです」

(ついでに、己の物欲も満たせるしね……)


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