出れる?
次の日の夕方。睦月は自室にいた。
外からは、ザアザアと激しい雨音が聞こえる。
あの後、すぐにパトカーが何台もやってきた。睦月も参考人として聴取された。
連絡を受け、慌てて駆けつけた母親に連れられ、帰ってきたのは明け方になってからだ。後は、ただ疲れきって眠りこけ……起きたのは、日が傾き始めた頃だった。
それからなんとなく、冬休みの課題を広げていたのだが。玄関のチャイムが鳴り、誰かが上がってくる気配がする。
ノックの音と共に、華音の声が聞こえた。
「ムーちゃん……入っていい?」
どうやら、母親が迎え入れたらしい。
睦月はノートを閉じると立ち上がり、伸びをひとつしてからドアを開ける。
華音が、「お邪魔します」と声をかけて入ってきた。
「ムーちゃん、大変だったねぇ」
「ええ。心配かけてすみません」
言いつつ、部屋のミニ冷蔵庫から缶の紅茶を出して華音の前に置く。
「ありがとう」
彼女はそれを受け取ると、蓋を開けて口をつけ、コクコクと半分ほど飲み、それから遠慮がちに言った。
「あのね……ムーちゃん。明日……出れる?」
「はい?」
何の話かと。睦月は首を傾げて聞きなおす。
「だからね、明日。お仕事、出れる?」
睦月は思わず絶句する。
「…………えっ? 明日って……だって、だって……? 警察の捜査とか……犯人とか……? はあ? 開園できるわけが……?」
「えっとね。それはもうね。ないことになったの」
しばし、微妙な空気が流れる。
たっぷり数分たった頃、睦月はようやく搾り出すように言った。
「…………ないことに、なったぁ?」
華音はあっけらかんと。笑いさえ浮かべて。
「うん! 園内の捜査は、今日で終わりなんだって。警察の人も、みんな帰っちゃったのよ」
「はは。……はあ?」
なんの冗談かと。
こちらも笑い混じりで睦月は頭を振る。
「ふふふ。ちょ、ちょっとごめんなさい、先輩。言ってる意味がよくわからないんですけど?」
華音は、困り顔で天井を見上げて言った。
「んーと……だからね。昨日は……そう。なんにもなかったのよ!」
「……なんにもなかったぁ?」
ただ、言葉を繰り返す。
「うん、そう。なんにもなかったの。だから、なんにも捜査できないのよ。わかった?」
「……ん? んん……?」
(何を、言ってるのだろうか? この人は?)
意味がわからず。睦月の頭の中を、『?』が支配していく。
『なんにもなかった』の言葉だけが上滑りして、頭の中をぐるぐると回る。




