再会
奇妙な世界の怪物が死んで、事件は終わった。
すぐに深央と詩桐がやってきて、ケンゾーと睦月は医務室へと運ばれる。
五条の身体は、ニマが引きずってどこかへ持っていってしまった。
睦月のわき腹の傷は、縫い合わせて様子をみると言う事になった。
事実、止血も消毒もしていないのに、ナイフを抜いて糸で縫ったただけで、血はぴたりと止まり、痛みもかなりマシになる。
聞けば、刃物に毒さえ塗ってなければ、内臓や神経も勝手に繋がるという話だった。
念のために痛み止めを飲みながら、つくづく妙な体だな、と睦月は感心してしまう。
それから、ぐったりと力なく、ベッドに寝かされているケンゾーを見た。
ケンゾーの左目も、五条によって大きく切り裂かれていた。
残念ながら、眼球がダメになっていたそうだ。首と瞼の傷は、すでに糸で縫ってある。
つぐみが、そんなケンゾーを不安そうにみつめる。
「おじいちゃん……」
睦月は、その小さな頭をなでながら言う。
「大丈夫だよ。ケンゾーさんは寝てるだけだから」
「うん……睦月お兄ちゃんが言うなら、つぐみ、信じるよぉ」
つぐみは大きく頷いた。ケンゾーが医務室に運ばれてから、すでに三時間が経過している。
本当は朝まで眠らせた方がいいのかもしれないが、琴羽が言うには、そろそろ大丈夫だと言う話なので、つぐみを連れて起こしに来たのだ。
彼女の背中を軽く押しながら、睦月は促す。
「さ、つぐみちゃん。おじいちゃんを起こしてあげてね」
「うん……。おじいちゃん……つぐみよ。つぐみ、来たよぉ……」
ゆさゆさと小さな手で揺さぶられ、ケンゾーの眉間に皺が寄る。
「な……なんじゃ……?」
「つぐみよぉ。おじいちゃん、遊びにきたんだよぉ……」
瞬間、ケンゾーの右目がカッと音さえ立てて開き、がばりと上半身が跳ね上がった。
「つぐみいいいぃッ!」
すさまじい大声だった。
地下のはずなのに壁はビリビリと震え、遠くで小さな悲鳴が響き、茶碗が落ちて割れる音も聞こえた。
睦月は耳鳴りのする耳を押さえ、呻くように言う。
「ケ……ケンゾーさん。お孫さん、見つかりましたよ」
ケンゾーはゴキゴキと首を回し、医務室を見回す。
そこに、ニコニコ顔のつぐみの姿をみつけ、呆然としつつ、呟く。
「つ……つぐみ?」
「うん! おじいちゃん、つぐみだよぉ!」
「つ、つぐみぃっ!」
ケンゾーは、即座につぐみを抱き上げると、頬ずりをしてしきりに「夢ではないな? 夢でないな!」と繰り返す。
孫との再会を、目に涙を浮かべて喜ぶケンゾー。
つぐみもまた、祖父に会えて本当に嬉しそうだった。




