行方不明
そして、その日の夜、七時半。
それは、起こった。
インカムを通して、五条の声が聞こえる。
「睦月君。今、何か作業をしてますか?」
「いえ。園内の巡回中です」
珍しく切羽詰った声だった。
「……なにかトラブルですか?」
「ええ。それが……そろそろパレードの時間だと言うのに、アルラウネ役の芽衣子さんの姿が見えないんですよ」
「なんですって!?」
睦月は驚いて声を上げる。
「今、他のサブキャストや、ワーウルフキャストの詩桐さんも手分けして探しています。睦月君も辺りを捜索してください」
「イエス、マスター! ……芽衣子さんって、今までもそうやっていなくなった事はあるんですか?」
「そうですねぇ。少なくとも、私が働き始めてからは一度も聞いたことないです」
「とにかく、周囲を確認してみます」
(よもや霧に紛れて、そこらの暗がりでとんでもない事しでかしてるんじゃ……?)
とは思ったもの、昼間、芽衣子から受けた印象は、そこまで無責任なものではない。
確かに、意味深な言葉をかけられたり、ボディータッチをされたり、挙句キスまで奪われた。だが、実際にはそれほど節操なしではないらしい。
羽目を外した客が一線を越え、強引に触ろうとすると、上手い具合にかわして煙に巻く。公私の区別はできていそうだった。
相手の反応を見て楽しんでる、という風で、好色なのは間違いないが……仕事に対しては、誇りをもっているように感じられた。
「芽衣子さん、もしもどこかで倒れてたり、怪我でもしてたら……」
「詩桐さんも、それを心配しているようでした。ギリギリまで探して、見つからなかったら走ってパレード車に追いつくと言っています。まあ、彼女のパフォーマンスは最後の雄たけびですからね。それにしても、どこに行ってしまったんでしょうか……」
声の調子からヤキモキした様子が伝わってくる。
睦月も辺りに気を配り、芽衣子の姿や、どこか異変はないかを探し回る。
だが、結局はパレードの出発する七時五十分になっても芽衣子はみつからなかった。
インカムから五条が話しかけてくる。
「仕方がありません。今日は、カボチャの馬車なしの編成でパレードを実施する事にします」
「……大丈夫なんですか」
「ええ。メインのキャストだって、休むことはありますからね。そういう時はパレード車を間引いたり、編成を変えたりして乗り切るんです」
「それじゃ、パレードは通常通りの時間に行われるんですね?」
「はい。ゲストを誘導して、ロープを張ってください」