死因
困った睦月は、強引に話題を変えることにした。
「そ、そうだ! そもそも、俺って……どうやって死んだんですか」
華音は潤む瞳で睦月を見上げ、それから不思議そうな顔をして涙を拭い、首を傾げる。
「ぐし……。ムーちゃん……なんにも覚えてないの?」
「見張り搭に上ったのは覚えてますが……その後の事は、すっかり忘れてます」
「あー。そんなもんだよねぇ。覚えてないのが普通だよ。よっぽど変人じゃないと、最初の死の瞬間なんて、忘れちゃうわ。あたしだって、そうだったもん」
華音はベッド脇のティッシュを手に取り、チーンと鼻を噛んでから、うんうんと、頷く。
「最初の死って……それじゃ、先輩は今までに何回くらい死んでるんですか?」
「あたし? あたしは六回かなぁ。三回目ぐらいから覚悟っていうか、慣れっていうか。あ、これ、今から死ぬなぁ……って感じで、息の根止まるまでを覚えておけるようになったわ」
睦月は呆れて呟く。
「……覚悟とか、慣れとか。そんなレベルの話なのか?」
「橘さんなんか、すっごいよ。足の骨を折った時、早く仕事に出たいからって、自分で首しめて死んでたもん。死んでる間に、ニマちゃんに針金で継いでもらってね、一日で復活。親知らずとかもね、死んで抜いて復活すれば、血も出ないし麻酔もいらないの! 便利だよう」
「ちょっと!? 薬局の痛み止めじゃないんですから、いくらなんでも勘弁してください!」
(狂ってる……ここは色々と、狂ってる)
睦月にしてみれば、昭和の猟奇ミステリーも真っ青の殺人事件かと思い悩んでいたというのに。一皮剥けてみれば、被害者達の死への扱いが、この調子ではやりきれない。
華音の死に対する意識がズレまくっている理由がわかった気がした。骨折だの親知らずだの、そんな事情でポイポイ死ぬような連中に、三年も囲まれていれば当然だろう。
と、華音が、鼻水まみれのティッシュをゴミ箱に放り込みながら言った。
「ムーちゃんはさ……多分、誰かに落とされたのよ」
「えっ! 俺、殺されたんですかっ!」
てっきり、自分で足を踏み外して死んだと思ってた睦月は、驚いて叫んだ。
「うん。五条さんによると、ドゥンケル城でゲストを見かけて、それを保護しに向かったそうなの。それで、見張り塔の上まで追いかけていったらしいんだけど……。あたし達が連絡受けて、慌てて駆けつけた時には……。もう、ムーちゃん、堀の横で血を吐いて、地面に倒れてて……犯人の姿も……」
悲しそうに首を振る。
睦月も懸命に思い出そうとしてみるが、見張り塔の階段以外は、頭に靄でも掛かったみたいに思い出せなかった。
と、華音が申し訳なさそうに言う。
「こんな変な事件だからさ、ムーちゃんは逆に安全だと信じてたの。……ごめんね」
「え? ……逆に安全って?」
「うち……こういう所だから。時々、変な人達に狙われるのよ。宗教的な、テロっていうのかな? 『悪魔の使徒め!』とか罵られたり、凶器もって追っかけ回されたり。……なんていうのかなぁ。あたし達みたいなのが社会に出てくるのを、良しとしない人達がいるのよねぇ」
「うわあ、大変ですねぇー」
(まあ。なんとなく、わからないでもないな)
確かに、こんな異常な集まりがあれば、特定の思想団体からは目の敵にされそうだ。




