表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/134

プロローグ 『怪物』の生まれた夜

 夜の森を少女が走っていた。

 年のころは十歳前後。黒く長い髪に、白いワンピースの少女だ。

 辺りはミルク色の霧に覆われて、どちらへ向かっているのかさえ定かではない。


「あっ!?」


 足元を木の根に取られて、少女は転んだ。

 擦りむいた足をかばうように抱え、慌てて木の陰へとしゃがみこむ。

 ガタガタと震えながら呟いた。


「誰か……助けて……」


 少女は空を見上げる。

 霞む月光の中、巨大な城の影が(そび)え立っている。

 きっとあそこまで行けば、誰かがいるに違いない。


 恐怖にわななく身体を叱咤し、なんとか立ち上がる。

 そして、痛む足を引きずるようにして、のろのろと歩きはじめた。

 しかし、その背後。霧の中から、音もなく怪物が姿を現す。


 逃げ切れないほど近く……その息づかいを頭上に感じて、少女は振り向かずに尋ねた。


「どうして……?」


「君には、顔がないから」


 言葉の意味がわからずに、少女は確かめる様に自分の頬を指でなぞった。

 怪物は、ゆっくりと少女の首にその手を回す。

 硬く、鋭い爪が、柔肌へと食い込んだ。


 そして、息遣いを感じるように、そっと……喉笛を、引き裂いた。

 白い霧を、鮮血が真っ赤に染め上げる。

 少女の身体から力が抜けて、くず折れるようにその場に倒れた。


 やがて怪物は、絶命した少女の身体を引き寄せ、じっと顔を見つめる。

 それからその爪を振り上げて、思い切り突き立てた。

 すべてが終わると怪物は、満足そうに笑い、頷いて立ち上がる。


 後には、無残にも半顔を裂かれた、いたいけな少女の死体が残るだけだった。

 さわさわと風が木々をなでる音の中、霧が徐々に晴れていく。

 ……どのくらい時間がたったのだろうか。


 真っ黒な森の中で、不意に少女の身体が震えた。

 そして、少女は立ち上がる。

 今度は、彼女が『怪物モンスター』となって。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ