バカのゲームの評判どう?~彼氏が作ったバカゲーに転生した話~ 前編
「バカとテストと召喚獣」と韻を踏みたくて、こんなタイトルになりました。
その日、私、樺栞は、流れ星を見ていました。
今日は流星群とのことで、彼氏である伴大剣先輩と一緒に。
先輩は、ちょっと何を考えているかわからないこともたまに……いや、ちょいちょい……あるけれど、何事も一生懸命がんばることの出来る人です。
あまり目立たない、地味な私に、何度かデートを誘ってくれて、好意を伝えてくれた人です。
客観的にどうなのかはわからないけど、私は、格好良いと思っています。
話が逸れましたが、流れ星と言えば、願い事を唱えるのが定番です。
私の願いは、「彼のささやかな願いが叶うこと」でした。
でも、たぶん、この先に起こったことから考えると、彼の願いは、「自分の作ったゲームを誰かに遊んでほしい」とかだったんでしょう。
今、この文章を読んでいる”あなた”なら、もうわかりますよね。
そう、私は、彼の作ったゲームに……いわゆる『異世界転生』を、してしまったわけです。
◇◇◇
私が気づいたとき、目の前には、王様が座っていました。私自身はどうなっているか、体や、腕を見回すと、ファンタジー世界の旅人のような、少し汚れた、野性的な服を纏っていました。
それが王様だとわかったのは、2D画面で見たことがある、大きな玉座に、どっかりと座っていて、ヒゲを生やしていて、髪は白髪がふさふさで、王冠を被っていて、とにかく、典型的な『王様』だったからです。
王様は、私に向かって言いました。
「勇者シオリよ、お主に頼みたいことは他でもない。ここから北に行ったところにある【黒の城】に住む【ラスボス】が、国民を困らせている。なんとかしてもらいたいのだ。」
【魔王】ではなく、【ラスボス】と言われたことに若干の違和感を感じながらも、私は王様に言われるがまま、城を旅立ち、北へ向かって歩いていったのです。
ですが。
◇◇◇
「……え?ええーーー!!??」
王国を出ると、なんと、黒いお城へは、橋一本で繋がっているだけだったのです。
北の城、と言っても、まさかこんなに近くにあるなんて。
そして、その橋は、手前側から赤、オレンジ、黄色、緑色、青に塗り分けられていて、さながらロケットえんぴつのようでした。
あるいは、キャラクターがカートレースするゲームでよく見る、虹で描いた道、とも言えるかと思います。
でも、その道は、手前から順番に、道の真ん中に『1、2、3、4、5』と、色ごとに数字が描かれていて、総合的なバランスは、芸能人が大ジャンプして壁に手袋をくっつける、有名な某パークのような見た目だと感じました。
ふと気づくと、私のポケットに、なにかメモが入っていることに気が付きました。そして、目の前には、空中に、ウィンドウ画面が浮かびあがりました。
[アイテム▼]
[▶制作者からの手紙]
読むと、こう書いてありました。
『各色は、ステージ=面に対応しています。各面を進めて、世界を救いましょう。制作者 バン』
このとき、私はようやく、彼の作ったゲームの中に、今入っているのだと気が付きました。
アイテムに、こうしてちゃんとプレイヤー用のヒントを入れているところは、彼の優しさですし、制作者の名前をちゃんと書いているところも、少し不用心な感じがしますが、彼の誠実さですよね。
私、少し、素敵だなって、思っちゃいました。
◇◇◇
さて、状況がわかったところで、ステージを進めていきます。
―――[1面、『赤』] ―――
目の前に、ウィンドウが出てきました。彼、もしかすると色分けしている『面』と、ステージの『面』をかけてる?なんてことを考えていたら、一気に目の前が暗くなりました。
敵モンスターが出てきたのです。
出てきたモンスターは、すごく大きくて、完全に『魔王』然とした感じ。
空を覆うような、とんでもない大きさ。
あれ?ひょっとして、このゲーム、すごく理不尽で、いきなり殺されたりするのかな?って、思いました。
[▶たたかう]
攻撃しよう、と前に一歩踏み出すと、空中のウィンドウが勝手に動作して、私の体もなにかに操られるように動きました。
いつから持っていたのか、右手には棒が握られていて――
[シオリ の こうげき!]
[魔王ヘルジゴクリョウマミカンスダチウドンA に 2のダメージ!]
「ヘルとジゴクで地獄が被ってますね!?」
「あと、魔王出るの早すぎませんか!?」
あまりに長すぎる名前の後半は読めなかったので、前半にしかツッコめなかったのですが、とりあえずダメージを与えられたようです。
あと、周りが真っ暗になったことと、『A』 の表記で皆さんも気づいたかもしれないのですが、敵は、3体います。
同じ形の、すっごく大きいやつが。
[魔王ヘルジゴクリョウマミカンスダチウドンAを たおした!]
わたし、ここで気が付きました。
これ、ゲーム制作キットに初めて手を出した人が必ずやっちゃうやつですね。
序盤の、すごーく弱い、最初に出会う用の敵に、とんでもないグラフィックつけちゃう、アレ。
うん、遊ぶ側は、やっぱりあんまりおもしろくないですね。
[魔王ヘルジゴクリョウマミカンスダチウドンB の こうげき! Miss!]
相手が攻撃を外してくれました。
大きな腕が、どこか明後日な方向と位置をぶん殴っています。
あと、さすがの私もそろそろ気づきました。地獄が二つ並んだ後に、『四国』がいますね。
[たたかう ▶ステータス]
[みかた ▶てき]
他にも選べるものがないのかな、とちょっと意識を向けてみたら、どうやら敵のステータスも見られるみたい。
うん、親切設計。
さすが先輩。
[魔王ヘルジゴクリョウマミカンスダチウドン: 桃派より栗派、栗派より柿派]
「そんな情報は、いりませーん!!!」
「あと、きのこたけのこや、つぶあんこしあんならまだしも、そんな派閥はありませーん!!!」
思わず大声を出してしまいました。
とりあえず、そのままの勢いで、魔王Bと魔王Cも倒して……。
で、私、もうひとつ気付いちゃったんです。
「そもそも、桃が最下位になる訳、ありませーん!!!」
◇◇◇
―――[2面、『オレンジ』] ―――
1面をクリアして、次の面……橋がオレンジ色に塗られていて、真ん中に『2』と彩られているところに進みました。
そこで、またしても、敵が現れます。
[妖精三銃士が あらわれた!]
三匹の、妖精型のモンスター。
でも、私の目についたのは、三銃士って単語!のりしろならぬ、『ボケしろ』ってやつですね!
ここまでの流れからすれば、こんなネットミームを匂わせて、ネタを仕込む前フリに違いありません。
わくわくしながら、
[たたかう ▶ステータス]
[みかた ▶てき]
を選びます。
出てきたメッセージは
[妖精三銃士: (メモ。後で書く。)]
「忘れないでくださーい!!!」
なんで、自分で出したパスを自分で受取り損ねちゃうんですか。
『急にボールが来た』ですか?
急に来るわけないでしょう、自分で出したんですから!
とはいえ、敵は弱くて、[たたかう]コマンドでサクサク倒せました。
[妖精A を たおした!]
[「おとうさん……。ごめん……。」]
うわぁ。
後味が悪い。
こういうの、良くないですよ。
スッキリしないから。
[ドロップアイテム 「モヤモヤ」を入手!]
「そんなの押し付けないでください!!!」
[妖精Bを たおした!]
[「おかあさん……。ああ……。」]
[ドロップアイテム 「モヤモヤ」を入手!]
[妖精Hを たおした!]
[「ハードディスクのデータ、消したかったな……。」]
[ドロップアイテム 「モヤモヤ」を3コ入手!]
「ほんとに将来が不安になるやつは、やめてくださーい!」
――続く。
後編に続きます。