第五話「スキル獲得」
ふざけた魔法使いのストーリーです。
今日は俺一人で狩りをしに来ている。フィーレは「用事があるのですみません」、との事だ。それならちょーどいいかもと俺はまた、マンドラゴラゴンを狩りに来ていた。昨日は連れ回して少し罪悪感を感じていたからな。一人ならそんな心配もない。
「……よし、じゃあサクッと倒してレベル四十になりますかっ! なんだか気合入ってきたぞおぉぉぉぉ!」
時刻は早朝。深夜でもないのに何故か俺は、深夜テンションになっていた。それもその筈。俺の現在のレベルは三十九。つまり、あとレベルを一上げれば四十となり、新しいアビリティが貰えるはずなのだ。魔法が使えないただ手に持っている棒を振り回すだけの俺にとって、新しいアビリティというのは唯一の楽しみである。
「次はどんなアビリティかな? 杖が折れないアビリティとか、お金が増えるとかそんなんがいいな」
俺は金のことしか頭になかった。俺のこの異世界での目標は、”死なないこと”だ。
当たり前の事かもしれないが、ここは前世では居なかったモンスターが存在する。きっと、魔王なんて存在も居たりするんだろう。
「ま、俺には関係ないけど。魔王なんて俺より強いどっかの勇者様が倒してくれんだろ」
だから俺はこの異世界で平和に過ごし、普通に生きる。そのためには金がいる。金を稼ぐには、必然的に強くならなきゃいけない。
だから俺はマンドラゴラゴンが生息している森に再び足を踏み入れるのだ。
昨日狩りすぎたからほとんど居ないと思っていたが……居た。
リポップでもしているんだろうか。まぁそんな事はどうでもいい。マンドラゴラゴン、この森にいるヤツら全員狩り尽くしてやる。俺は杖を片手に森を駆け回る。
すると早速現れた――
「もう慣れてんだよお前の対処はよぉっ!!」
俺はもう不意をつくなんて卑怯な真似はしない。真正面から突撃だ。……元々カンのいいコイツにはその手も通じない訳だが。
「はああああああああああああっ!」
――鈍い音が森中に響き渡り、野生動物が離れていく。
【レベルが四十に上がりました】
「よっしゃぁぁぁっ! さぁ何が貰えるよ! アビリティ……!」
【スキル:『ミスディレクション』を獲得しました】
なに!? スキルだと……? おいおいまさかの念願のスキル様じゃねぇか!
……ん? でも魔力ゼロの俺にスキルなんて使えるのか? またいつもの画面が俺の前に現れる。
スキル『ミスディレクション』
・MP消費ゼロ 相手の視界から一時的に姿を消す事が出来る。
※ただし、相手との力量で効果変動。
MP消費無し!? なら魔力ゼロの俺でも使う事が出来る! それに魔力消費ゼロってことは何度でも使う事が出来るって事だよな。
これはいいぞ……! ただ、相手との力量で効果が変動……か。あまり過信せずにしよう。
【アビリティ:『魔法使いの掟破り』を獲得しました】
・魔法使いに与える物理ダメージが五百パーセント上昇し、魔法使いから受ける魔法ダメージをゼロにする。
おいおいなんだよ。アビリティまでくれんのかよ! ……いや、にしてもなんだこのアビリティは。魔法使いになんか恨みでもあるのかって感じのアビリティだな。まぁ、無いと言えば嘘になる。なんなら妬み恨みしか無い。まるで俺の感情を現したかの様なアビリティだな。
これがあればもし魔法使いと戦うことがあったら負けることは無さそうだが、使い道がかなり限られるアビリティだな。
なんせこれって対人用ってことだろ? 俺はこの異世界では普通に生きたいだけだ。人間と戦うなんて事出来ればしたくはない。
「あんまり使うことは無さそうだな」
***
……
……………
…………………
「おいおい聞いたぜ〜? 兄ちゃん魔法使えないんだって〜? この街で最強の魔法使いである俺が魔法、教えてやろうか〜?」
「……………必要ない。話しかけるな鬱陶しい」
「はぁ!? テメェ舐めた口聞いてんじゃねぇぞ!? 先輩様が魔法を教えてやるって言ってんだ! お前、魔法使えないんだろぉ〜?」
「使えるけどなにか?」
「だったら見せてみろよ〜?」
早速魔法使いに絡まれた。それも酒臭い。
(酔っ払いはどこの世界でも鬱陶しいなぁ)
俺はマンドラゴラゴンを狩りに森に出た。結局あの一体以降見つからなかったので、仕方なく冒険者ギルドに換金をしに来た。
そしたらコイツに絡まれたって訳だ。
「……はぁめんどくさ。いいよじゃあかかってきなよ」
「いい根性してんじゃねぇか〜? 表出ろ! 観客が居たほうが盛り上がるだろ〜?」
「はぁ、そうかよ」
ギルド内は騒然としていた。俺は言われた通り、酔っ払いの先輩の言う通りギルドを出た。
――ということで冒険者ギルド前にいる。周りには野次馬が沢山いた。
(俺の応援をしているやつは……うん、居ないな)
生意気なヤローをぶっ殺せ! とか後輩に俺達の強さを思い知らせてやれ! とか怖い言葉が聞こえてくる。俺こいつらになんかしたか?
というかこいつら俺と同じ冒険者だろ。やってること殆ど盗賊じゃねえか。
「……はぁ……俺この世界に来て理不尽な事ばっかだよ」
「今更後悔か〜? 泣いて謝るなら許してやってもいいぜ? そうすりゃ半殺しで止めてやるからよ」
「いいよ遠慮しとく。どっちみち痛い目見るんだろ? なら俺は戦う」
「あ〜!? テメェ……まじで腹立つな。もういい、先輩冒険者として後輩を躾けるのも俺の役目だ! 全力で殺してやる!!!」
躾けるのか殺すのかどっちだよ。にしても相手さんかなりお怒りだな。周りの野次馬もヒートアップしている。
誰か俺の応援してくれよ。ここは血の気が多いやつばかりなのか?
一応ギルドのお姉さん達も見に来ていた。止めたいという顔が見て取れる。だが、ただの受付嬢に冒険者を止めるなんて無理だ。
ましてや、こんな血の気の多い奴らだ。なにをしでかすか分からない。
とはいえ、俺も策が無いわけじゃない。というより、実は試してみたいことがあった。さっき獲得したばかりのアビリティだ。使い道なんてないと思っていたが、まさかこんな直ぐに訪れるとは……。
さて、どんなものか試させてもらおうか。
「死に晒せぇぇぇぇぇっ!! 『ファイアーボール』」
酔っ払いから放たれた炎の玉。
「あ、これフィーレが使ってたやつだ」
しかし、フィーレが使っていたものとは大きさが違った。フィーレのがバスケットボールくらいだったのに対し、こいつのは玉乗りくらいの大きさはある。
なるほど、無詠唱でこの大きさか。確かに言うだけのことはあるな。いや、初級魔法に詠唱は存在しないのか? 俺自身が魔法を使えないから魔法についてはさっぱりだ。魔法使いなのにな、泣けるぜ。
にしてもこれくらいなら避けることも出来る。だが俺はあえて避けない。何故なら獲得した例のアビリティを試したいからな……!
酔っ払いから勢いよく放たれた炎の玉が俺に直撃した。
「ハッハハハハハッ! ざまぁ見ろ! 皆見てみろよ! 丸焦げにしてやったぜ! 生意気なやつは皆こうなるんだ! ここにいる新米冒険者はよく覚えとけ! これが冒険者だ! ハッハハハハハッ!!」
「…………ほう、これが所謂アビリティってやつの影響か」
HP《4900/4900》
【アビリティ:『魔法使いの掟破り』により魔法を無力化しました】
なるほどな……確かにこれは使える。ヒットポイントも一ミリも減ってない。炎の玉が直前まで来た時は正直かなりビビったが、寸前で薄いバリアのようなモノが出現し、俺をダメージから防いでくれた。お陰で俺の身体は無傷だ。
「……バカな!? 俺の『ファイアーボール』はあのトロールにも効くんだぞ!?」
あー、魔法に高い耐性があるっていうあの豚野郎のことか。でも、相手が悪かったな。
「ほら、どんどん撃てよ」
俺は先輩に一歩、また一歩と近付き煽ってみた。怒りが限界に来たのかその後も男は『ファイアーボール』を連発してくる。
……が、相変わらず俺にダメージは入らない。
【アビリティ:『魔法使いの掟破り』により魔法を無力化しました】
【アビリティ:『魔法使いの掟破り』により魔法を無力化しました】
【アビリティ:『魔法使いの掟破り』により魔法を無力化しました】
……
…………
…………………
「……はぁ……はぁ……魔力が……もう」
「もう終わりって?」
どうやら魔力が底をついたみたいだな。なら終わらせてやるか。もうアビリティの効果は分かったしな。
……せっかくだし手に入れた新しいスキルでも使ってみるか。
「スキル『ミスディレクション』」
俺がそう唱えた瞬間、
「……はぁ……はぁ……なに? 消えた!? アイツはどこへいった!?」
酔っ払いの先輩は周囲を見渡し俺を探していた。
うん、この反応だと本当に見えていない様だな。周りの野次馬達も、あの生意気なガキどこへいった!? とか消えたぞ!? とか騒いでいる。……なるほど、これは力量差があるやつはもれなく全員見えないのか。
つまり、ここで俺の姿が見えている奴は俺と同等か、もしくは俺より強いヤツってことだ。
よし、もう十分だ。さっさと終わらせてやるか……なるべく死なない程度に。
俺は酔っ払い冒険者の背後に回り、杖で軽く頭部を殴る。
「ほいっ」
「――ぶぎゃっ!?」
情けない声を上げながら、酔っ払い冒険者は地面に倒れた。
「軽く殴っただけなんだが……死んでないよな……?」
一応、手加減したんだぞ? コツンッって効果音が聞こえてきそうな程度には……。
「……おいあいつやべぇぞ」
「魔法使いなのに杖で殴りやがった」
「魔法使いの風上にも置けねぇ」
「しかも、聞いたことのない魔法を使いやがった……卑怯すぎる」
どうやら野次馬達には、姿が消える魔法を使い、しかもあえて魔法ではなく杖で殴ったと見えたようだ。魔法使いが魔法で戦わず杖で殴った。……確かにここだけ聞いたら俺とんでもねぇ卑怯な奴だな。
にしてもこれじゃまるで、俺が悪者みたいじゃないか。喧嘩を吹っ掛けてきたのはそいつだろ。でもチャンスだな。こういうのはもうこれっきりにして欲しい。ここらで俺の名前を売っとくか。
「……もう俺の相手をしてくれるやつはいないのか? 居たら手を挙げてくれ。相手するから。もちろん手加減はしない。コイツのようになりたい奴は出てこい」
とはいえ手加減したけどな。
俺の発言に誰も声を上げようとしない。場は静寂に包まれた。
うん、居ないな。
「…………フッ」
「……ん?」
今誰かに笑われたような……?
「――流石ですね! 柊さん!」
「ああ、フィーレ居たのか」
「途中からですが見てました! と言っても私が来た頃には既に終わっていましたが……」
それは良かった……この子に人を殴ってる所はあんまり見せたくないしな。しかも杖で。
「残念だったな。せっかく俺の魔法を見れるチャンスだったのに」
「えぇ!? 魔法使ったんですか! そんなぁ……私も見たかったですぅ……」
「ま、まぁいずれな」
魔法というよりマジックに近い気がするが……スキル『ミスディレクション』。マジックなどで使われる相手の注意をそらすテクニックとして聞いたことがある。
ある意味これも魔法だ。魔法って英語でマジックだし? 俺はなにも間違ったことは言ってない筈だ……多分。
「……はぁ、疲れたから今日は寝る」
「え? まだお昼ですよ?」
「あーうん、少しやりたいこともあるしな。俺はいつもの宿に先帰ってるからー。んじゃ」
俺はフィーレにそう伝え宿へ帰ることにした。
俺が早く帰りたかった理由はステータスポイントの振り分けの為だ。
レベル三十から貯めていたポイント。これを解放する。
今までSTRに振りまくって居たが、流石にここら辺で違うステータスを上げておきたいところだな。
「『マイステータス』」
俺はベッドの上で一人考える。
「……よし! まぁこんなんでいいだろう。今日は疲れた。この辺にしてさっさと寝よう」
こうして俺はステータスポイントを振り分け、少し早いが眠りについた――。
◇◇◇
《柊 奏多》
Lv.40
HP【4900/4900】 MP【0/0】
STR【500】 ATK【500】
VIT【50】 DEF【50】
INT【50】 RES【50】
DEX【50】 AGI【50】
LUK【0】
アビリティ:【不器用な魔法使い】
アビリティ:【魔法使いのとっておき】
アビリティ:【魔法使いの最終手段】
アビリティ:【魔法使いの掟破り】
スキル:【ミスディレクション】
装備:【戦士のピアス】
◇◇◇
【不器用な魔法使いLv2】
・与える物理ダメージ3倍
【魔法使いのとっておきLv2】
・物理ダメージのクリティカル率100%+10%ダメージ上乗せ
【魔法使いの最終手段】
・杖所持→未所持になった場合のみ、10秒間物理ダメージ5000%上昇
【魔法使いの掟破り】
・魔法使いに与える物理ダメージが500%上昇し、魔法使いから受ける魔法ダメージを0にする。
スキル【ミスディレクション】
・【MP消費0 相手の視界から一時的に消えることが出来る。
※ただし、相手との力量で効果変動
【戦士のピアス】
・物理ダメージ5%上昇
◇◇◇
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