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魔力ゼロの魔法使い、杖で殴って無双する。  作者: 水無月悪い人
第三章 超越編
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Episode.01ヒイラギ 『忘却』

 俺には妹が居た。生意気な妹だ。脱いだ靴下を放置するなとか、スピーカーで音楽聞くなとか、挙句の果てには同じ空気を吸うなとか……最後に関しては同じ家に住んでいる以上無理な話だが。まぁ生意気な妹だった訳だ。



 だがそんな妹が病気になった。アルツハイマー病……所謂”認知症”だ。当時まだ十五の妹が”治らない病”にかかった。医者から薬で進行を抑えることしか出来ないと言われ、それから妹は人が変わった。


 今まで生意気だった妹が、生意気じゃなくなった――。


 ***


 ある日のことだ。何でも無い日常。飯を食べ、風呂に入り、眠る……。


 忘れもしない、深夜二時。俺の部屋にノックする音が聞こえた。


「…………誰だよ、こんな時間に」


 俺は両親のどちらかだと思っていた。妹の可能性は俺の頭には微塵もなかった。理由は俺が個人的な用事で妹の部屋にノックすると、「死ね!」と言われたことがあるからだ。だから俺はオヤジか母さんだと思って、扉を開けに向かう――


「ねぇ、お兄ちゃん? ちょっといい?」


 ノックの主はまさかの妹だった。予想外の深夜のノック。俺は驚いて思わず返事が出来ず、ドアノブを握る手が固まった。


「……開けるよ?」


 妹は俺の返事も聞かず、部屋の扉を開けた。


「なんだ、いるじゃん。返事くらいしてよ」

「……お、おう。お前から俺の部屋に来るなんて珍しいな……というか初めてじゃないか?」

「……まぁちょっとね……お兄ちゃんに聞きたいことがあって」


(生意気なあの妹が俺に相談か……?)


 俺はそんな妹を思わず茶化してしまった。


「お前、まさか彼氏にフラレて恋愛相談とかか? だとしたら相談相手、間違ってるぞ? 言っておくが俺に恋愛経験はない。分かったら早く部屋にもど――」

「お兄ちゃん私の名前何だっけ(・・・・・・・・)?」

「……………………は?


(何いってんだこいつ……)


「おいおい、そんな冗談言う為に俺の大切な睡眠の邪魔をしたのか?」

「…………違うの」


 俺が知っている妹なら、もう十回は死の宣告と物理的に攻撃されているだろう。その異変に俺は久しぶりに妹の顔を見た。それは妹の顔を初めて見たとか、そういうことじゃない。一緒に住んでいる以上、嫌でも必ず顔は合わす。だが、お互い見飽きた顔をじっくり見ることなんて無い。見たってどうせ、俺が一方的に罵られるだけ……だから異変を感じた俺は久しぶりに妹の顔をじっくりと見た。


「……奏音(かのん)、お前マジで言ってんのか?」

「…………うん」


 妹の目には涙が浮かんでいた。その顔を見た俺は無言で妹を抱きしめ――


「……大丈夫、心配すんな。お前の名前は、”柊 奏音”だ……俺の妹だ」

「そう……だったね……ごめんねお兄ちゃん」

「なんでお前が謝る」

「……こんな時間に起こしちゃったから」


 こんなしおらしい顔の妹を俺は初めて見た。それどころか、妹が泣いている姿すら始めて見た程だ。


「…………明日、病院行くか」

「うん……おやすみ、お兄ちゃん」

「ああ、おやすみ、奏音」


 その翌日、俺は学校を休み、妹を病院へ連れて行った。


 妹は検査を受けた。しばらく待った後、検査が終わり医師に呼ばれた。


「……お兄ちゃん、私どうなるのかな?」

「心配すんな、奏音。お兄ちゃんに任せとけ」


 俺は妹を待合場に残し、俺一人話を聞く為診察室に入った。


「…………妹さんですが……これはアルツハイマー病ですね。認知症と言ったほうが分かりやすいかも知れません」

「…………認知症、ですか? 妹が!? 何故!? まだ十五ですよっ!?」

「落ち着いて下さい。……確かに年齢を考えれば発症の確率は低い。しかし、病というものは突然起きるものです。そこに年齢など関係ないんです……一応、進行を抑える薬を出しておきます。しばらく、こちらで様子を見て下さい」

「…………妹は治るんですか」

「……基本的に治ることは無いと言われています。……ですが、妹さん次第ではあるいは……」

「そう…………ですか。ありがとうございました」

「どうか気を病まないで下さい。私もこの仕事をしている以上、沢山の患者さんを診てきました。命を扱うお仕事です、助けられなかった命もある。後悔なんて何度したかも分かりません。だから私はあえてこう言わせていただきます。……命を大切に(・・・・・)、そう妹さんへお伝え下さい」


 医師は椅子から立ち上がり、深く頭を下げた。


「……ありがとうございます。妹には……心配しないよう伝えておきます」

「ええ、それがいいでしょう」


 そして俺は、待合室に居る妹の元へと向かう――


「………………奏音……どこへ行った?」


 待っていたはずの妹の姿が無かった。


 頭が混乱し、心拍が上がる。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。


(あいつ、どこへ行きやがったんだ! クソッ!)


 俺は妹の隣に座っていたおばあさんに聞く――


「あの! ここに俺と同じ黒髪で……えっと……可愛い……えと……その……」


(思考が纏まらない! どう伝えれば良い!?)


 冷や汗が止まらない。


「……もし? あなたに似た黒髪の女の子なら病院を出ていきましたよ? もしかしてお兄さんですか?」

「え、ええ」

「そうですか。それなら早く行ってあげなさい。あの子の顔は危険です」


 妹の隣に座っていたおばあさんが言う。


「あの子ずっと、診察室に耳を付けて聞いていました。私も辞めなさいと何度も止めはしましたが、私の声が聞こえていないのかあの子、離れる事を辞めなくて……途中で走って病院を抜けていきました。まだ間に合います、行ってあげなさい」


 おばあさんは丁寧にその時の状況を説明してくれた。……だが、俺はおばあさんに何故妹が止まるまで止めなかったのかと考えてしまっていた。俺は話を聞くと礼も言わず、病院を抜け走る。


 今思えばおばあさんにはとても失礼な事をしたと反省している。



「かのーーーーーーーーーーーーんっ!」


 俺は妹の名前を叫びながら闇雲に走り回った。


「かのーーーーーーーーーん…………はぁ……はぁ……どこへ行ったんだあいつ……かのーーーーーーーーんっ!!」


 いくら叫ぼうと返事がない。


「……まさかあいつ家に帰ったのか……?」


 ……

 …………

 ………………


「――ただいまっ」

「あら、そんな急いでどうしたのよ」

「母さん、奏音はっ!? あいつ家にいるか!?」

「え、ええ……さっき帰ってきて、今は二階に居るわよ? どうしたのそんな焦って……それより病院どうだったの? あの子一人で帰って来たと思ったらすぐに二階へ上がっちゃて――」

「ありがとう、母さん!」


 俺は母さんを後にし、急いで二階へと駆け上り、妹の部屋へと向かった。


「奏音!! 聞こえるか!!?」


 返事がない。


「…………おい、変なこと考えてないよな!? おい、返事しろ!! おいコラッ、鍵開けろ!!」


 俺は扉を何度も叩き、名前を呼ぶ。


 しばらくすると、扉が開いた。


「……何、うるさいんだけど」

「はぁ……うるさいじゃねぇよ。お前、勝手に病院抜け出してんじゃねぇよ」

「…………ごめんだけど、アンタ誰(・・・・)?」

「……………………嘘だろ? ……冗談やめろよ……俺はお前のお兄ちゃんだろ!?」


 妹の顔がまた違った。昨日は泣いていたのに、今度は怒っている……それに口調が違う。……いや、そんな事より俺のこと忘れて――


「嘘だよ。……お兄ちゃん」

「…………は?」

「だから嘘、ごめんね、病院勝手に抜け出して。もう大丈夫だから」

「大丈夫ってお前……」

「ほんと大丈夫だから。疲れたから寝るね、おやすみ」

「お、おう……まだ昼だけどな?」


 大丈夫と言い、妹は扉を閉めた。


(まぁ大丈夫……ならいいのか……)



 その日、妹は一日部屋から出てこなかった。飯も、風呂も、何度呼んでも妹からの返事がなかった。

 俺はこの日の事を今でも後悔している。あの時、扉をぶち破ってでも妹の部屋に入れば良かったと。



 翌日、妹はベッドの上で手首から血を流し、眠っていた――。

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