第二十五話「『逃げの君』」
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俺達の前に現れたのは坊主頭の若い青年だった。茶色い民族衣装のようなものを着ている。
「このじーさんがここの王?」
「失礼だぞ! この方が王だと何度言えば分かる! 決してボケて無反応な訳じゃない!」
「そこまでは言ってない」
頭が固そうなやつだ。頭を見れば分かる。つっても二人ともハゲてんだが。特にこの若いハゲ、なんでも否定しそうなパワハラ上司のような性格をしている。……まぁ俺高校生だけど。
「てかアンタら名乗れよ。出会ったら先ず名前を名乗るのが常識だろ?」
「柊さんそれブーメランです。私達もまだ名乗っていませんよ」
「……これは失礼。俺の名はファルス。この方はここ、『エルムス』の王、エルムス・ピュールス様だ」
坊主頭の青年が自分と王の名を紹介した。
「そうか。早速で悪いんだけど、服貸してくれないか? 寒すぎて死にそうなんだ」
「なんて失礼なやつだ……名前を名乗れと言っておいて名乗らないだと……挙げ句の果てには服を貸せ? ……エルムス様、コイツらに構う必要などありませぬ。行きましょう」
「ではワシのを貸してやろう」
「――おい! ジジイ! テメェ無視すんじゃねぇぞ! 聞こえてんだろハゲ!」
エルムスのじーさんがあっさり貸してくれた。青年の言葉なんて無視である。 というか、坊主頭のやつ、めちゃくちゃ無礼働いてね?
俺はじーさんから貰った服に袖を通す。
「うっさいわファルス! 聞こえとるわ! ファルスよ、この子らの姿を見てもまだそんな事が言えるのか! 裸同然の格好じゃぞ! この少女に至っては薄い布一枚じゃぞ! おなごがこんな格好をしているというのに、助けんとは……お前は恥ずかしいと思わんのか!」
「だまれジジイ! 今のテメェの方がよっぽど恥ずかしい格好なんだよ! なんならこいつに貸したせいで、この中でお前が一番恥ずかしい格好してんの気付けこのハゲ!」
「誰がハゲじゃ! お前もハゲてんだろうが!」
エルムスは俺に服を貸してくれたおかげで、さっきの俺と同じパンツ一枚だ。それに服と言うより、ローブに近い。
(これはなかなか着心地良いな)
こいつらめちゃくちゃ仲悪いじゃん……。ファルスとかいう奴に限ってはもう最初の頭固そうな印象全く無いし。俺とフィーレ置いてけぼりなんだが。
「まぁまぁ、落ち着いて。じーさんもそこのハゲもとりあえず奥で茶でも飲みましょうや」
「……うむ、そうじゃな。すまんの若いの」
「……そうだな。すまんな客人、恥ずかしい所をお見せした」
「いいっていいって。さ、とりあえずアンタらの家ついて行ってもイイですか?」
「「うむ、よかろう」」
俺とフィーレはファルスとエルムスに案内してもらう事になった。俺達は二人の後ろを着いて歩く。
結局、フィーレも青年に服を貸してもらい、この二人はさっきの俺達のようになっていた。パンツ一丁である。
「……追い剥ぎした気分です柊さん」
「言うな。助けてもらったと言え」
「そうですか……それにしても柊さん、この二人の扱い上手いですね……もしや、この方達とお知り合いだったのでは?」
「な訳あるか。こういうのは日頃から鬱憤溜まってるもんなんだよ。だから話し合いの機会を設けただけだ」
「話し合いの機会? 茶でも飲みましょうや、の事ですか?」
フィーレが俺の口調を真似して見せた。
「ああ、多分この後こいつら、また喧嘩始めるからよく見とけよ? フィーレ」
「あははは……そんなもの見たくないですね」
俺とフィーレはファルスとエルムスという二人の後を付いて行く。
……
…………
………………
「ここがワシらの家じゃ」
と、言う老人エルムス。そこにあるのは古びたレンガで出来た家だった。家には至る所にヒビが入っていて、今にも倒壊しないか心配になる程だ。
「ここか。……まぁ不安しかないが、一日泊まるくらいならいいだろう。合格だ二人とも」
「なんで上からなんですか、柊さん」
「それは良かった! のう、ファルスや」
「そうだな。ジジイの言う通りだ」
俺の無礼な発言にも怒らない二人。
(流石に怒られると思ったけど、これで怒られないのか)
俺はこの二人を怒らせるにはどうしたらいいのか少し興味が湧いてきた。
早速家の中に土足で足を踏み入れる。中に案内されると、ちゃんと家だった……。薪のキッチンに手入れが行き届いているレンガ製のトイレ、くつろげる場所もちゃんと確保されてある。正直、案外悪くないと思ってしまった。おまけに外には薪で沸かす風呂まであった。ボタン一つで沸かすものなんかじゃない、レトロな風呂。憧れがあった俺は少しテンションが上がる。
「……悪くないな。なんていうか……田舎のばあちゃんの家って感じだ」
「柊さんお祖母様がいたのですね」
「まぁな。俺が中学上る前に亡くなっちまったけど」
あの時は泣いたな。俺の家は夫婦喧嘩が頻繁に起きる家庭環境だった。そんな時の避難場所がばあちゃんの家だった。じいちゃんはというと、ずっとテレビを見ていた。すぐ隣で激しい喧嘩が行われているにも関わらず……。
(……なんか、この家見たら現実世界に帰りたくなってきた)
初めての感情だった。この世界に来た当初は魔法使いとして転生し、魔法が使えるとテンションが上ったものだ。それも、秒で裏切られたが。
あれからまだ二ヶ月。こいつらとの毎日も悪くはなかった。……でも、邪龍と戦った時、本気で死んだと感じた。これから先、またあんな事が起こらないとは限らない。その時、俺は逃げ出してしまうのだろうか……。
「どうじゃ、二人とも腹減ってないかのう?」
「……ああ空いてる、飯頼むよじーさん」
「任せておけ。ワシの腕はこの街一番じゃ」
「――待てよジジイ。飯より先に風呂だろ。こいつら汚れてんだ。先に風呂に入って汚れ落としてからの方が、飯も美味くなるだろ」
「なーーーにを言うとるんじゃ! これだから若いのはダメなんじゃ。飯食って風呂入って寝る! これが正しい順序じゃろうて!」
ファルスが俺とエルムスの会話に割って入って来た。かと思えばまた喧嘩が始まった。
「ジジイは先に風呂案内してこい! 俺が作っといてやる!」
「何言うとるんじゃ! お前が風呂を沸かしておけ! こういうのは若いもんが沸かすもんじゃろう! 老人を労らんか!」
口喧嘩は止まらない。こいつら俺達が居ない時もいつもこんな感じなんだろうか。よくそれで二人で生活出来てるな。
「……柊さん、別の家探しませんか?」
「ああ、それもそうだな」
フィーレが耳元で話しかけてきた。俺もこいつらの喧嘩を見ながら飯を食いたくない。食事中に勃発する夫婦喧嘩ほど、嫌なものはない。マジで味がしないからな。
「悪いなじーさん、ハゲ。俺とフィーレは違う家探すわ」
「「――黙れ! 今から用意するからそこで座ってろ!」」
「あ、はい……」
さっきまでどうやってこの二人を怒らせようかと考えていたが、その機会はすぐに訪れたのだった。息ピッタリの二人の言葉に俺は返す言葉がなかった。
***
「ふぅ……喧嘩は見るに堪えないが、飯は美味いしそれに……」
ドラム缶の風呂まである。懐かしい……またばあちゃん家を思い出した。俺は風呂に浸かり、疲れと汚れを落としていく。
「……にしても、ここは街……っていうより村に近いな」
街と言うには原始的というか……。一応この家に着くまでに何人か住人らしき人物を見かけたが、少数だった。それも皆同じ格好をしている。どこかの民族? のようだった。
「柊さ〜ん、次私いいですか?」
フィーレの声が聞こえた。
(……出るか)
「ああ、待ってろ今出る」
フィーレが薄い布を巻いて現れた。
「お前、俺が出るの待ってろよ」
「柊さん、長いんですもん! 私も早く疲れを落としたいので…………覗かないで――」
「覗かない。んじゃな」
俺は息子を隠し、風呂から出る。
「………………ちょっとくらいならいいのに……もう……」
……
…………
………………
風呂から戻った俺はあの頭の固いアレンに仕える者、レインの事を考えていた。……アイツら今頃何してんだろうな。『アレン王国』に置いてきてしまった俺の仲間。俺はアイツらに俺とフィーレの無事を報告する為、一刻も早く『アレン王国』に戻らないといけない。
『アレン王国』が襲撃にあってから二日ほど経つ……俺が気になるのはあの日、俺とアレンが時計塔の上で見た者についてだ。
「玉座の間にアイツの姿はなかった。……もし、邪龍を召喚しやがった白いフードを被ったじいさん達以外にもまだ残党が居たとしたら…………」
(……いや、考えすぎか。あの場にはアレン、俺と同じ転生者であり、ステータスを持つ珠希に、ゼノア……に関しては実力が分からないが……大丈夫、レインもいる。レインに関しては相当な手練だ。国が落ちる、なんて事はないだろう)
「……ま、早く帰るに越したことはないな」
(フッ……俺が現実ではなく、異世界の国に帰る、か)
ついさっきは帰りたいとか考えていたのにな。まだ出会って日は浅いが、あんなやつらでも案外俺は好きだったのかもしれないな。
その後、一日の疲れを癒した俺達は寝床に着いた。
***
……
…………
…………………………………………
「――珠希、早くっ!!」
「分かってるよ、ゼノア! 『ゴーレム召喚』!! いって! 皆!!」
「……ダメだ、追いつかれる! ………………珠希、ここは僕が死守する。君は柊を頼んだよ」
「ダメ! 死んじゃう! アニメで見た! それ死亡フラグって言うんだよ!?」
少女と少年は賊に追われていた。
「……大丈夫、僕は死なないよ。逃げ足だけには誰にも負けない自信があるんだ」
「でも――」
「行ってっ!!!」
「――っ!?」
「……………珠希、君は昔の私に似ている。出会ってすぐに感じていたよ。本当は強いのに戦わない、守ることに徹している。逃げているとも言うかな? 別にそれを悪いとは言わないよ。時には逃げるのだって大事だからね。……君、相当な地獄を味わって来ただろ? それも恐らく、僕以上のものだ。君の年齢でここまで頭の回転が早い子なんて居ない。ここまで逃げてこられたのも君の機転のおかげだ。君が居なければ僕はとっくに死んでる……でもね、逃げるのが間違いとは言わないけど――」
少年は血でこびり付き切れ味が落ちた短剣で迫りくる賊の一人の首を落とした。
「……けどね、その力は特別なものだ。君にしか無いものだよ。柊が魔法を使わずとも強いように…………いや、アッハハハハ……彼は例外だったね、ごめん」
「…………」
「でも、柊が何か隠しているように君も何かを隠している。それは君や柊だけじゃない。……|私やフィーレも同じだよ《・・・・・・・・・・・》。……何が言いたいかというとね――」
賊が少年、少女を囲んだ。
「…………ありゃ、前からも来ちゃったか。これは絶対絶命だね」
「ゼノア、私も戦う」
「ダメだ。今の君は……”逃げの君”にはこの場は任せられない。だからこの場は僕が引き受け――っ!?」
「ゼノア!!!?」
賊の一人が短剣を投擲する。それは少年の背に命中した。
「…………大……丈夫……だよ……」
「『ゴーレムゼノアを守って!』」
少女は少年の前に土人形を召喚し、盾を作る。しかし、賊は四方八方。少女は思った、守りきれないと。
「……珠希、君のその力なら逃げ切れるよね。逃げて……お願いだから」
「嫌! ゼノアが死んだらお兄ちゃんが悲しむ! それに私も悲しいもん!」
「…………困ったな。僕は盗賊職なんだ。暗殺は得意でも、対面での戦いは不向きなんだ…………せめて彼がいれば……あっ」
少年は思わず漏れてしまった言葉に口を抑えた。
「お兄ちゃん……助けて…………お兄ちゃんっ!!!」
少女はこの場に居ない者の名を叫ぶ――。
しかしその声は届かない。
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