第二十一話「魔法=マジック」
玉座の間にて、俺とアレンは向かい合っていた。
「では始めるとしよう柊」
「ああ。今度は本気を出してない、なんて言い訳が言えないようにしてやるよ」
どうしよう。この状況で杖置いてきたとか絶対言えない。レインとかいう女に頭まで下げられたんだ。それにここには以前のように魔法使いが居な……
いや待て、フィーレが居る! そうだよ、フィーレがいるじゃないか!!
俺はフィーレの方を見る。
「……ん? ……ハッ! プイッ」
んんんなななななんぁぁぁぁテメェこんやろおおおおおぉ!!!! いつもは察しが悪いくせして、今回は俺の意図を察して杖を渡さないつもりか! 許せねぇ……。
「……ん? どうした柊」
「いんや、どうやってアンタを倒そうかと考えてる最中だ」
「ハッハッハッ! もう俺に勝つ気でいるのか! やっぱり面白いなお前は……だが今回は俺もお前を侮らない。最初から全力で行かせてもらう」
本当にどうしよう、こっちは全然面白くない。降参でもしてみるか……いや、こいつがそれを許さないか。勝ち逃げのように見えてもおかしくないしな。それにそんな事をすればレインとかいう女に殺されそうだ。
そもそもアレンもアレンだろ! 俺が今杖持ってない事に気付けよ! まだ来ないのか? みたいな顔で待ってんじゃねぇ!
一方、レインとか言う女は俺の違和感に気付いたようだ。頭を抱えていた。
(あーあ、バレちゃった)
せっかくあのプライドが高そうなレインとかいう女が頭まで下げたというのに、ここで負けたら彼女に恥をかかせてしまう! そして俺はその後、殺される。そんな未来が見えた。
「……そうだ!」
「どうした?」
「少しだけ時間をくれ」
「……ん? ああ、いいだろう」
俺はまだステータスポイントを消費していない。杖を取りにいく時間は無いが、ステータスポイントを割り振るくらいなら、そこまで時間はかからないはずだ。
「『マイステータス』 」
俺は早速ステータスを開いた。
◇◇◇
《柊 奏多》
Lv.50
HP【6000/6000】 MP【0/0】
STR【500】 ATK【500】
VIT【50】 DEF【50】
INT【50】 RES【50】
DEX【50】 AGI【50】
LUK【50】
アビリティ:【不器用な魔法使い】
アビリティ:【魔法使いのとっておき】
アビリティ:【魔法使いの最終手段】
アビリティ:【魔法使いの掟破り】
スキル:【ミスディレクション】
スキル【イリュージョン】
装備:【戦士のピアス】
◇◇◇
レベルが上がるとHPだけが上がる仕組みなのか。他はステータスポイントを割り振る事で能力を強化出来る……となると、割り振るステータスがかなり重要になってくる。今まではSTRとATKを中心に上げてきた。しかし何回見ても魔法使いとは思えない脳筋ステータスだな。
とりあえず、今まで通りSTRとATKに全部割り振るか。攻撃は最大の防御って言うしな。
俺は他の者が目視する事が出来ないステータス画面を操作し、ポイントを割り振った。
その姿は端から見れば頭のおかしい男である。俺は戦いの最中だと言うのにその場に座り込み、何も無いところで指をいやらしくイジイジしているのだから。
《STR.ATKのポイントが最大値に達しました。これにより【アビリティ:『魔法使いの鉄則』を獲得しました】》
なに!? 今までレベルが上がった時にしか手に入らなかったアビリティがまさかこんな形で手に入るのか……!?
俺は早速獲得したアビリティを確認する。
・条件を満たすと、一定時間ステータスが限界値を超える。
……なんだこれ? 今までは時間が書いてあったのに、今回は一定時間としか表記が無い。それに条件ってなんだ?
《さらにアビリティの獲得が一定数を超えた為、【職業:魔法使い】から【職業:マジシャン】へと昇格しました》
誰がマジシャンだこの野郎! 今まで魔法使いなのに魔法使えないから俺って一体何なんだろうって、ずっと考えないようにしてたのにマジシャンだと!? 更に胡散臭さ増してんじゃねぇかっ!!
《また【職業:マジシャン】へと昇格した事により、【ユニークスキル:スライハンド】を獲得しました》
ユニークスキル……? スライハンド?
【ユニークスキル:スライハンド】
・MP消費ゼロ 最初の一撃が必中攻撃となる(距離無制限)。
※初動のみ使用可能。
またMP消費ゼロか。それに以前のようなスキルでは無くユニークスキル。
効果は……ん? これはどんな攻撃でも最初の一回だけ必ず当たるってことか? だとしたら、これは使いようによってはなかなか使えるスキルだな。
少なくともスキル【イリュージョン】より全然は使えそうだ。
「……あの……柊さんは一体何をしてるんですか?」
「いつもの事ですよ」
ギルドのお姉さんの問いに、答えにならない返しをするフィーレ。
「……はは……そうですか……やっぱり私付いてくるんじゃ無かったかも……はぁ」
お姉さんは自分だけ場違いかもしれないとため息をついた。
そしてついに――
「…………待たせたな、いいぞ」
「もういいのか。では始めるとしよう」
俺は再びアレンへと向き直す。
さっき獲得したスキルを試す時間も無い、正真正銘一度きりで一発本番ってやつだ。
俺の戦略はこうだ。再開の合図と共に、今回獲得した【ユニークスキル:スライハンド】で先制攻撃を入れる。必中である以上俺の拳の威力が全てだ。必ず命中するこの拳にすべてを掛ける。俺のSTRとATKを全てぶつける。
だが、これには問題が三つある。
・一つ、ステータスに物を言わせたただの拳であること。
・二つ、一度でノックアウトさせなければ俺の敗北が確定する。
・三つ、俺の紙装甲同然のステータスでアレンの攻撃を受ければ最悪俺には死が待っている。
こんなところか。
…………あ、あと万が一敗北して生き残ったとしても、魔法使いなのに魔法が使えないことがこの場にいる全員に知られ、羞恥心で死ぬ。
それに加え、レインに恥をかかせたとして彼女自らの手で殺される。
…………どっちみち死ぬじゃん俺。
(くそっ……! せめて杖さえあれば。無いものねだりしても仕方ないか)
この戦略で行くほか無い。
俺は無意識に自分の手に視線を向けた。
(なんだこれ? 俺の手が光って……)
無意識だった。ただ、この手に杖があればと、そう思っただけだった。
勿論その手に杖は無い。だが、確かに感じる杖の感触が俺の手にあった。
「――では、戦闘開始の合図は僭越ながら、このレインが努めさせて頂きます」
レインは、俺とアレンの中心に立ち宣言する。試合開始の合図はレインの一声によって始まる。そしてレインは右手を上げる。
(最初の一撃ですべてが決まる……大丈夫、負けはしない……大丈夫)
俺は自分に言い聞かせる。今まで負けたことは一度もない。だから今度もきっと大丈夫だと。
俺とアレンは集中し、レインによる戦闘開始の合図を待つ。
そして、
「――では! 始め!」
「はあああああああっ!」
アレンが抜刀の構えでこちらに向かって突っ込んできた。以前は大振りの構えだったが今回は違う。まだ剣を抜いてすらいない。アレンもまた一太刀で決める気だ。
(お前も一撃に全てを込めるか! なら俺もそれに応えないとな!)
「『イリュージョン』!! からの――」
俺はすかさず次のスキルを唱える。さっき獲得したばかりのスキルの名を。
「『スライハンド』!」
何も無かったハズの俺の右手には杖があった。それはスキル『イリュージョン』によって生成された杖。
「くらいやがれぇぇぇぇぇぇぇ」
「――なに!?」
俺は杖を大きく振りかぶった。その射程範囲内にアレンは居ない。誰がどう見ても、俺が空を切ったようにしか見えなかっただろう。それはまるで空振りしたバッターのように。
――しかしその攻撃は空振りには終わらない。
「んがああああああああああ!?!?」
アレンは勢いよく飛ばされ、玉座へとホームラン。
「……ふぅ……ストライクにならなくて良かったぜ」
俺の攻撃に唖然とする一同。
「…………お兄ちゃん今何したの……?」
「……柊さんが手に杖を出現させたと思ったら、今度はそれを振りかぶって……でもそれは当たらないはずなのに当たってぇ……あれれ? どういうことですかぁ」
珠希とフィーレは何がなんやらという顔をしていた。ゼノアもギルドのお姉さんも……そしてレインも。この場にいる全員が状況を掴めずにいた。
「なぁレインさんよ、俺の勝ちだよな?」
「…………あ、ああ。勝者、柊様」
レインの言葉で俺は二度目の勝利を収めた。アレンは白目を向いて玉座に座っていた。
「よし……あれ? そういえばこんな事してる場合だったっけか」
何か忘れているような……。
「柊さん! 今のなんですか!」
「お兄ちゃん今の何!?」
「柊! 今のはなんだ! 僕にも説明しろ!」
うちの仲間が皆俺に近寄ってきた。
「落ち着けお前ら!」
「落ち着いていられるか! ……ってあれ? 柊、右手にあった杖はどうした?」
「……ん? あぁ……効果切れだな」
俺の右手に杖は無かった。そもそも最初からそんなものは存在しない。あるように魅せていただけだ。
俺はここでようやくスキル『イリュージョン』を理解した。これは魔法じゃない。魔力が無い俺がそもそも魔法を使える筈が無かった。……悔しいけど。
あの時、飛行魔法だと思っていたのも違う。あれは悲しいがただのジャンプだ。そして今回俺の手に現れた杖、これも言ってしまえば幻覚だ。
俺がこの手に杖があればと考えた瞬間、俺の手に若干半透明の俺の杖が現れた。つまりこれは、
スキル『イリュージョン』は使用者の……俺の望んだ事象を出来る範囲で再現させるものだ。しかしそれは偽物であり、本物では無い。タネがある魔法だ。
俺自身まだ原理は理解出来ていないが、恐らくそんなとこだろう。
マジックには必ずタネがある。スプーンを曲げるのも、人体を切断するのにも全てのマジックには必ずタネがある。
「……これは確かに魔法使いというより、マジシャンに転職だな」
アレンとの再戦は柊の二度目の勝利で幕を閉じた――。
「……フッ」
不気味な笑い声が確かに聞こえた。
◇◇◇
《柊 奏多》【職業:マジシャン】
Lv.50
HP【6000/6000】 MP【0/0】
STR【1500】 ATK【1500】
VIT【50】 DEF【50】
INT【50】 RES【50】
DEX【50】 AGI【50】
LUK【50】
アビリティ:【不器用な魔法使い】
アビリティ:【魔法使いのとっておき】
アビリティ:【魔法使いの最終手段】
アビリティ:【魔法使いの掟破り】
アビリティ:『魔法使いの鉄則』
・条件を満たすと、一定時間ステータスが限界値を超える。
スキル:【ミスディレクション】
スキル【イリュージョン】
ユニークスキル:【スライハンド】
・MP消費ゼロ 最初の一撃が必中攻撃となる(距離無制限)。
※初動のみ使用可能。
装備:【戦士のピアス】
◇◇◇
【あとがき】
スキル【イリュージョン】についてもう少し詳しく解説いたします。このスキルは、使用者が望んだ現象を発現させるものとなります。ただし、使用者が現在できることに尽きます。
例えば、空を飛びたいと思っても、浮遊魔法があるわけでもないので、今の柊にできること……つまりジャンプになるわけです。
今回、手にないはずの杖が出てきたのはいわゆる幻。
実際には杖で殴っておらず、パンチしたと言うような形になります。しかし、周りの者たちからすれば、それは杖に見えていたのです。それは柊も同じことです。使っている本人がイリュージョンのタネに気づいていないのです。種が不明でマジックをするマジシャンといったところでしょうか。
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