第十七話「ついに俺にも魔法が……?」
王アレンとの戦いを終え、俺は宿へと戻ってきた。宿に帰ってきて俺は冷静になって考えていた。賢者タイムのような感覚である。
……俺はやってはいけない事をしてしまったのではないだろうか。仮にもこの国の王。そんな奴に偉そうな事を言って、殴ってしまった。
(……仕返しとか無ければいいんだが)
そんな事を考えながら俺は部屋の扉を開けた。
「……ただいま」
「おかえりお兄ちゃん!」
「心配したぞ柊」
「……お、おかえりなさい柊さん」
皆が心配そうな顔で俺を出迎えてくれる。……一人を除いて。そんな当人は俺と言うより、自分の心配をしているようである。
……さて、フィーレのやつをどうしたものか。フィーレもなにやら自覚がある様子だしな。自分が何をしたのか分かっているのだろう。こいつのせいで色々とややこしい事になった訳だし、何かしてやらんと俺の気が済まない。
「おい、フィーレ」
「な、なんでしょうか」
「お前には色々と言いたい事がある」
「知りません! 私知りません!」
フムフム、知らないと言い張るつもりか。
「……二人に何があったのだ?」
「さぁね。どうせ先輩がお兄ちゃんに何かしたんでしょ」
「……と、言いたい所だが今回は機嫌が良いから特別に許してやる」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます! 柊さん!」
本当なら下着姿で宿の前に立ってもらうとか、そんなことを考えていたが俺はついに手に入れた……!
「レベルが上がった」
「やったねお兄ちゃん!」
アレンを倒した事でレベルが上がった。四十から五十に。一気に十も上がった。今までずっとレベルが上がらず悩んでいたが、まさかアレンを倒して十も上がるとは……。アイツとまた戦えば経験値貰えるのだろうか。結局レベル上昇の条件は謎のままだ。
もし、またアレンと戦って経験値が貰えるのなら俺は迷わず殴るつもりだ。……だが、まだ確定した訳じゃない。これで経験値が貰えなかったら本当に俺は冤罪ではなく、ただの犯罪者になってしまう。
それに……
(……あの女が俺を仕留めにかかってきそうで怖い)
まぁとりあえず、今はそれよりも――
「俺は少しやる事がある。邪魔をしないでくれ」
「あ、またいつものですね」
「ん? いつもの? フィーレ、柊は何をしているんだ」
「あれはですね、賢くなるための儀式のようですよ? なにやらレベルというのがありまして……」
「ほう……」
フィーレはゼノアに分かるように分からない事を説明していた。
(外野がうるさいが、今は後回しだ)
俺はベッドに座り、ステータスを見る。……おっステータスポイントも増えてるな。これも振り分け無ければな……にしても今回獲得したのは、スキルだけか。アビリティは獲得出来なかった。だが、獲得したスキル『イリュージョン』ってなんだ?
・MP消費ゼロ 使用者の望んだ事象を使用可能
またMPの消費がゼロなのか。俺には魔力が無いわけだし当然と言えば当然か。
どれどれ……望んだ事象を使用可能……? これってまさか魔法じゃないのか?! ついに俺にも魔法を使える時が来たのか……! これは早速試したい!
ステータスポイントを振り分けるのはそれからだ!
「……なぁ珠希。本当に柊は何をしているんだ? さっきからニヤニヤしながら何も無いところに絵でも書くように指を動かしているが……」
「あ〜多分お兄ちゃんはステータスを確認しているんだよ」
「ステータス? ステータスとはなんだ?」
「うーん、自分の強さ? みたいなものかな? そういう病気とでも思っていればいいよ」
「……僕には分からない。自分の強さを確認するなら強い相手と戦えば分かる事だろ? 勝てば強い、負ければ弱い」
「うん、もうそれでいいよ」
珠希は教えるのを諦めた。ゼノアはよく分からないという顔をしている。一方フィーレは本を読んでいた。
ゼノアのやつ、結局珠希に聞くんだな……フィーレの説明じゃそうなるか。
「フィーレは本が好きなんだな。僕は字を読むのが苦手でね。恥ずかしながら、本が読めないんだ」
「そうなんですか? 私は昔から冒険に憧れてその手の本ばかり読んでいましたから……なので柊さんと冒険する毎日は楽しい事ばかりです」
フィーレは目を輝かせそう言う。しかしその目はゼノアに向けられることは無く、視線は本へと向けられていた。
(そういうところだフィーレ。ちゃんと相手の目を見て話せ。俺はお前に苦労させられっぱなしだよ全く……)
「……よし、では早速試してみるか」
「もう終わったの? お兄ちゃん」
「ああ。確認しただけだしな。お前ら、今から魔法を見せてやる」
「……え! ついに柊さんの魔法を見られるんですか! 見せて下さい!」
フィーレは夢中になっていた本を勢い良く閉じ、俺の元へと駆け寄ってくる。
「あ、ああ見せてやるから少し離れろ」
スキル『イリュージョン』は、使用者の望んだ事象を使用可能と書いてあった。つまり、炎を出したいと思えば炎を、水を出したいと思えば水を出せるということだろう。そうに違いない。
よし、早速使うか。ついに俺にも魔法が使える時が来たのだ――。
俺は部屋の中でその名を唱える。
「いくぞ! スキル『イリュージョン』!」
……
…………
………………
「……お兄ちゃん何も起きないよ?」
「そうですね」
「柊、僕にも何も見えなかったが本当に魔法使ったのか?」
「……あれ? おかしいな」
どういうことだ? 確かに俺は手から水を出せる様にと想像して、唱えたはずだぞ? 想像力が足りなかったのか?
「スキル『イリュージョン』!」
「………………何も起きないね」
何故だ……! 何故使えないんだ! 魔力ゼロだからか!? ……いや、そんなはずはない。今までステータスシステムは嘘をつかなかった。
「おい! 出ろ水! スキル『イリュージョン』! ……おい! 出ろって! なぁ!」
まさか水だからダメなのか?! 炎は? ……土は……?
俺は想像できるモノを大体試してみた。
しかし、何も起きない。
「ねぇお兄ちゃんまだ〜?」
「ちょっと待て今やってる!」
なんだ? 何が原因だ? レベルが足りないとかそういう事か? 何か理由があるはずだが……。
隠しコマンド的なやつか……? 右上下とか……
ってそんな訳無いか。ゲームじゃあるまいし。
「くっそぉぉぉ! なんで出ねぇんだよ! ざけんじゃねぇぇぇ!」
「お、落ち着いて下さい柊さん!」
「これが落ち着いていられるか! スキル『イリュージョン』!」
(くそっ! てっきり飛行魔法とか使えるもんだと思ったのに……!)
――その瞬間大きな音と共に天井に穴が空いた。
俺の視界に映ったのは高所から見る家々。
「――うわっ!? なんだ!? もしかして、飛んでるのか!?」
俺は天井を突き破り空高く飛んでいた。
「すげぇー! 空を飛ぶってこんなに気持ちのいいものなのか! やっぱり魔法っていい……な……?」
なんだ……? 何故動けないんだ? それになんだか上昇スピードが落ちてきたような……。
すると下から声が聞こえてきた。
「柊さーーーーん! 大丈夫ですかーーーー?」
「お兄ちゃーーーーん!」
「ひいらぎーーーーーー! 無事かーーーー?」
あいつらが俺の名前を下から叫んでいた。
「ああーー! 大丈夫だーー! 飛行魔法だから心配するなぁーー!」
俺は地上に居るあいつらに大声で返事をする。空は青く澄んでいて、下にいるあいつらとはかなり距離が離れていた。叫ぶ声も段々小さくなっていく。
「……しかし、大分飛んだな。そろそろ降りるか…………あれ? にしてもこれどうやって下に降りるんだ? ……おいおい! まさか制御効かないのかこの飛行魔法! 嘘だろ!?」
空高く飛んだ俺は徐々にスピードを落としそして――
「うわああああああああああああ」
俺は猛スピードで地上へと落下していく。
(マズイ! この高さから落下したら流石に死ぬ!)
俺は紙装甲だ。ゴブリンの攻撃すら致命傷になりかねない程の。そんな奴がスカイツリーにも及ぶ高さから落下すれば確実に死ぬ……!
俺は落ちる中で考える。
(そうだ……! もう一度スキルを!)
「スキル『イリュージョン』!」
…………しかし何も起こらない。
「――おい! なんでだ! くそっ! なんて不完全なスキルなんだこいつ!」
俺の体はそのまま地上へと落下し思いっきり地面に叩き付けられた――。
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