やはり街はいいものだと思います。
はい、というわけで淡い期待を抱いていた時期が俺にもありました。
街ってなんですか?それっておいしいんですか?
ああ、もうこんなのばっかりだよ。そろそろ俺にも甘々な世界があってもいいじゃないか。
そんなことをボヤきながら、俺はとぼとぼ歩いていた。水には困らないが、そろそろ食べないとマジで死ぬ。
今の俺じゃもし食べられそうな動物に会っても絶対捕獲できないし、魔物なんてのも居るらしいが、そんなのに会ってしまったら2回目の俺の人生が終わってしまう。
そんなことを考えながら、昨日寝た場所から歩き出して何時間かが過ぎた頃、遠くに大きな石の塀のようなものが見えた。ここから見るにかなり大きい。てか、あれじゃね?絶対あれだよな。街を守るなめの防壁だよな。いや、そうじゃないと困るんだけどね?いや、ほんと困るからね?
頼む頼む頼む頼む頼む頼む!!!
俺はそう願っていた。先程までは重たかった足も街を見つけたことで軽くなった気がする。そして俺は空腹も忘れ、おそらく街があろう場所をめがけて走り出していた。
これで街じゃなかったら俺もうおしまいなんだけどね?あ、いかんいかん。自分でフラグを立ててしまってはどうにもならなくなってしまう。平常心、平常心。
走り出して数分、俺はついに石の塀の目の前まで来ていた。そして、辺りを見渡し、入口を探す。どれだけぼったくられようと、中にさえ入れてくれればそれでいい。俺には百垓円もの資産があるのだ。多少のぼったくりは気にとめてはいけない。
右か左、どちら側から探すかを落ちていた木の棒を倒し、決め俺は左側から入口を探し出していた。石の塀に沿って歩くこと数分、ついに、ついに俺は街の入口を見つけた。街の入口には全身鎧を纏った兵士が2人門番として立っていた。人だ。異世界に来てほぼ2日、やっと俺は人に会うことができた。すごく嬉しいはずなんだけどね?お腹空きすぎてそれどころじゃないんだよね。
俺は神様から聞いた異世界語なら理解できて使いこなせるという言葉を信じ、門番の兵士に話しかけてみた。
「あのー、すみません。この街に入りたいのですが、大丈夫ですか?」
俺の問いかけに対し、右側の兵士が答えてくれる。
「通行証をお持ちですか?もし無ければ、少々高くなりますが50ワンダになります。」
ワンダ…モーニングにショットするやつか何かか?いやいや、そんなしょうもないことは置いておいて、この世界の通貨の名前が分かっただけでもありがたい。
とりあえず俺はアイテムボックスから50と選択し、お金を取りだした。これで足りるのかはわからないが、一応これで払ってみよう。
「これでいいですか?」
俺は取りだした50枚の金貨を差し出した。すると門番の兵士は驚き、焦りながら
「こんなにいただけません。50ワンダは銀貨50枚ほどです。あなたが出した金貨50枚は50エメマンですので、小さな家なら買えるほどのお金ですよ!」と言った。
なるほど、理解した。つまり俺はよくいる異世界を知らないからやっちゃった系の主人公を再現してしまったわけだ。
なので、取り繕っても仕方ない。お金の価値を先に門番の兵士に聞いておくことにした。
するとこんなもんらしい。
金貨1枚につき、銀貨100枚の価値がある。
銀貨より下の硬貨はない。
つまり俺は金貨百垓枚持っているってことになるんだよな、これ。大富豪じゃん。国の一つや二つ簡単に買えるんじゃね。てか、神の祝福やべぇ。あんなこと言ってなんか、ほんとすんませんしたっ!
俺は心の中で神様に謝り倒した。
考えをまとめた俺は通行料の50ワンダを1エメマンで払い、お釣りをもらった。
そして情報を教えてくれた兵士に1エメマン渡し、もう1人にもついでに1エメマン渡しておいた。
やっぱり公平という名のもとに生きてきたし、2人に1枚ずつ渡してもいいかなって思ってやったんだ、いいのだろう。
言うなればこれは、そう!チップみたいなものだ。初対面の俺にも親切にしてくれたこの2人の兵士には少しくらい贅沢してほしい。
そして俺は一礼し、中に入ろうとした。のだが、その前に聞いておきたいことを聞いておいた。
「すみません、高くても何でもいいんでこの街で1番料理が美味しいお店ってどこですか?」
俺はそれを聞き、街の中へと歩を進めた。街の中はかなりの人で賑わっていた。そして、街の風景はやはり中世ヨーロッパ風であった。
あー、やっぱりね。てか、異世界ものの漫画とか小説を書き始めたやつ異世界行ったことあるんじゃね?だって、それほどイメージ通りだったのだから。
俺は街を見渡しながら、門番が教えてくれたお店を探していた。
すでに俺の空腹は限界寸前、いやむしろ限界突破してるんじゃね?これ。ってレベルでやばかった。
しばらくすると門番に聞いた名前の店が出てきた。
看板には確かに書いてあった。
「ボス」と。
ボス…BOSS…またか、またなのか!
いやいや、この世界はあれか?ワンダにエメマンにBOSSって、コーヒーメーカーの人が同時に来て商品のプレゼンでもしたのか?
そんなどうでもいい考えをしながら、俺は店に入った。
すると元気な声で
「いらっしゃいませー!空いている席にどうぞー!ご注文はすぐに伺いますー!」
と可愛らしいウェイトレスに案内された。
うん、いい。すごくいい。
やっと異世界って感じがする店に入れた。テーブルや椅子は荒く加工された木、レンガ造りの店の中の灯りはロウソクで賄われている。
なんていうか、自然ににやけちゃうな、これは。
だってね?俺が異世界にきて見たものって大きな木々や川なんていう、日本にもあるようなものばかりだったし。
ああ、これが異世界。最高かよ!まだ全然最高なところを見てないんだけどね?
兎にも角にも、俺はウェイトレスのお姉さんにおすすめを聞き、勧められたものを全て注文した。
しばらくすると頼んだ品物が来た。俺の目の前のテーブルの上には分厚い肉や、食欲を唆る香辛料の匂い、それらをまとめるようなスープなど、どれもこれも美味しそうな料理が並べられた。
テーブルの上に置かれた料理に俺は手をつけた。まずはスープを啜る。美味い。いや、美味すぎる。何これ、やべぇよ。大きめの野菜であろうか、それがゴロゴロと入っているスープ。とろりとした舌触りに、まるでシチューのような味わい。空腹にこんなものを食べたら、それはもうニヤケ顔になるのも仕方ないよね。やっべぇよ、これ。
次に分厚い肉にかぶりつく。噛んだ瞬間広がる肉汁が俺を天まで昇らせるかのように刺激してくる。味は塩コショウかな?そんな感じの味付けだ。これは、うん。とまらん。
俺は日本で生きていたときもまる2日ご飯無しの日はなかった。だから、これほどご飯の有難みに気付かされた日はなかったのだが、ほんと、ありがてぇわ。
やっぱり街はいいな。そう思うのであった。
テーブルいっぱいに出された料理を全てたいらげた俺はウェイトレスのお姉さんにあることを聞いた。
「すみません、この街はなんて名前の街なんですか?私は少し遠くから来たのでわからなくて。」
尋ねるとウェイトレスのお姉さんははにかみながら答えてくれた。
「この街の名前はキャルピス。東の最果ての街、キャルピスですよ!」
キャルピス…カルピス…。
俺は思わずため息をついていた。
異世界と言うから俺はてっきり色々と俺に馴染みのない名前が使われており、それに困惑しながらも学んでいく楽しみを少し期待していたのだが、どうもこの世界は俺に馴染みがある名前のものが多かった。いや、多すぎだろ、これ。
まあ、いいや。
俺はあまり深く考えないようにし、お金を払って店をあとにした。
あれだけ食べて飲んで85ワンダ…やはり神様はかなり奮発してくれたらしい。
「ありがとう、神様。」
俺は改めて神様に感謝した。
腹を満たした俺は宿屋を探すことにした。
できればベッドがいい。昨日石の上で寝ても体が痛くないことはわかった。それでもやっぱりベッドで寝たいのだ。
そして俺は運命的な出会いをした。
あ、人じゃないよ?残念でしたー。
そう、俺はある看板を見つけたのだ。都合良くそこにある宿屋には「ジョージア」と書かれていた。
はい、来ましたジョージア。やっと見つけました。いや、探してたわけではないんだけどね?やっぱりワンダ、ボスときたらジョージアがあるだろうなと思ってましたよ。
しかも都合良く宿屋。あれ?もしかしてこれが異世界転生者の特権とも言えるご都合主義か?やっと俺にもそれがきたのか?
なーんて、そんなもの俺には有り得ませーん。
が、しかし!俺は迷うことなく宿屋「ジョージア」の中に入っていった。