色々と言ってみるものだと思います。
毎朝同じ時間に起き、朝食をとり、身支度を整え徒歩で駅に向かい、満員電車に揺られながら職場に向かう。
職場ではそれなりに出世し、地位を築き、裕福とは言えないながらもお見合いで結婚し、2人の子どもと一戸建ても手に入れ、それなりに幸せな人生を送っていた。
俺、児島公平は今日、勤続18年の私立高校を病気のため退職する。
満員電車に揺られるのもこれで最後となると少し寂しさも覚える。
何となく教員免許をとり、就活に失敗し、教員の道を歩んだが、最後を迎えるとなって良かったなと思う。
初めて担任を任されてから、スピード出世を果たし、生徒指導部長やその他色々な仕事もし、最後の卒業生も無事送り出せた。
教員は俺にとっての天職だったのかもしれない。
ただ1つ心残りがあるとすれば、世間的にはゲスだのなんだの批判されるかもしれないが俺も男なので、どうせなら女子高生といい感じになり、教師と生徒との禁断の愛的などっかの少女漫画にありそうな展開もしてみたかったなと思ってしまったりする。
ま、そんなことをすればすぐに捕まるし?マスコミに晒され、俺は愚か家族にまで迷惑がかかるから?絶対にそんなことしないけどね?
と、こんな風に俺はビビりである。しかし、そのおかげでこれまで何事もなく仕事ができたのだと思うと良かったってことにする他ない。
そんなことを考えながら俺は帰路につき、家に帰って寝た。
あれからはや3年、俺は闘病生活を送ったが打ち勝つことができず息を引き取った。
これにて、俺、児島公平の人生は終了し、天国で悠々自適に暮らすのだと信じていた。
「児島公平さん?児島公平さん!!」
五月蝿いな…これまで誰にも批判されることのない無難な人生を送り、終了させた俺を少しは休ませてくれよ。
そんなことを思いながら目を開けた。
「どこ?ここ?」
目を覚ました俺の目の前には真っ暗な空間が広がっていた。
そして、そこには1人の女性が立っていた。肩くらいまでの黒髪、透き通るような白い肌、ぱっちり大きな青い瞳。身長は165cmくらいのまるでモデルのようなスタイルの女性がそこに居た。
その女性は俺に対し、笑顔を浮かべたまま、先程の俺の呟きに答えてくれた。
「ここは神の世界です。あなたは40年間、大きな病があったのにも関わらず、必死に人生を過ごされました。ここはそういった素晴らしい人格を持った方に選択肢を与えるための場所です。地球でお手本とも言える生活を送られた方に、別の世界、仮に異世界と言いましょうか。そこで色々なことに助力して頂きたいのです。」
???
何を言ってるのだ、この人は?
異世界に行く?この俺が?そういえば最近学生の間で人気のあった小説もそんな感じのが多かったな。
でも、なんで俺なんだ?いや、さっきの説明からして俺の人生は神様から見ても素敵なものだったってことだよな?
…俺めっちゃすげぇ人生過ごしてんじゃん!
おっと、神様を取り残して1人で考え込むのは失礼だ。
「お褒めに預かり光栄です。しかし、私は病を患って死んでおりますし、異世界の知識もありません。それに異世界と聞くとどうも生徒が話していた魔法や剣、魔物なんかがいるものを想像してしまうのですが。」
神様に失礼の無いよう、丁寧な口調と俺にとっての疑問をぶつけてみた。だって?いきなり異世界に行ったとして、言葉は?もし魔法や剣なんて生徒が言っていたみたいなことがあったら?うん、転生して10分で死ぬ自信があるわ。
それに、40歳の体はそんなに丈夫ではない。世の中にはそれはそれは健康で衰え知らずの方もおられるかもしれない。しかしだ、それはそれ、これはこれ、俺は俺、ってことで俺には異世界は厳しいな。
俺が考え耽っていると神様は先ほどの俺の質問に答えてくれた。
「まず、年齢はあなたの理想を仰っていただければ、そこに合わせるのは可能です。次に異世界の知識ですが、これはあちらの世界に行っていただいて、慣れていただくのが1番です。もちろん、それを得るための言語などは心配なさらないでください。そして最後の質問ですが、確かにあちらの世界には魔法や剣、魔物といったものも存在しています。なのであなたには40年生きたということもありますし、神の祝福として4つ、特別な力を授けます。あなたが望むものであれば何でも大丈夫です。それほどあなたは神に認められた存在です。」
うむ。これは虫が良すぎる。絶対に何かある。俺はそれほど素直でもない。なんならこれはテレビの通販番組のようにすら感じられる。あの手のものは大抵、定価以上を提示したあと、付属品としてこちらも!なんて謳い文句で結果的に得をしようとしているだけである。
ま、だからといって考えすぎてもらえないのもなんだし。そもそもご褒美的なのならもらっても良いだろうと思った。
しかし、4つか…。知らない場所で何もかもわからない中生活しないといけない。となるとまずはあれだな。
残り2つをどうするかが問題だ。色々としてみたいことが多すぎて迷ってしまう。だが、やはりあれは外せない。だって異世界だもの。魔法を使いたいと子どもの頃に思っていたことが現実となるのだもの。そりゃ、お願いしちゃうよね。
あと1つか…。異世界で暮らすとなると、文明がどの程度発展しているかわからないし、多くの荷物を手で持ったり、担いだりするのは骨が折れるだろうし。どこかの青い色した猫型ロボットがたくさんいるのなら話は別だが、そんな保証はどこにもない。
となると、決まりだな。
「神様、決めました。4つの祝福として私が望むものを。
まず1つ目は丈夫な体。病院で死んだので、できればもうそういった死に方はしたくありません。次に莫大な魔力。やっぱり魔法を使いたいです。そして異世界で使用できる尽きない資産。ようは無一文で生活なんてしたくないってことですね。最後は、何でも収納できる鞄をお願いします。大きいものでも鞄の重さになる様なものがあれば理想なんですがね。なにはともあれ、この4つをお願いします。」
よくよく考えれば生活をする上でお金は必要だ。祝福として貰えるなら、どうせなら豪遊なんかもしてみたい。受け入れられるかはわからないが、言わないよりは言って断られる方がいい。ま、もしOKならそれはすごい嬉しいんだけどね?
なにせ俺は不自由はしなかったものの、贅沢という贅沢をしたことがない。
1番の贅沢が数年に1回行くかどうかの旅行ぐらいであったため、意味もなくお金を使ったりしてみたいのだ。
そんなことを考えている俺の目の前で神様は何か作業を行っていた。
しばらくじーっとその姿を眺めていると、ふぅ、と息をつき俺に笑顔で
「準備が完了致しました。あなたが望まれた4つの祝福、全て受理し、あなたに付与させていただきました。ただし、鞄についてはアイテムボックスとして付与させていただいております。また、資産についてもそのアイテムボックスに入っておりますのでご了承ください。それでは、すぐに異世界へと通ずる門を開きますね。」
と言って、何やら魔法のようなものを唱えだした。異世界に行く前にそれっぽいものが見れてよかった。
…あれ?俺の望むもの全部OKだったの?マジ?てことは、俺は大富豪であり、莫大な魔力を持ちつつ、何でも運べて、丈夫な体なの?
チートじゃん!!!
「それでは、児島公平様、素敵な人生を謳歌してくださいね!行ってらっしゃいませ!」
神様がそう言うと、俺は淡い光に包まれ吸い込まれるように門をくぐった。
今行くぜ、異世界!苦節40年、最終的に病気に負けて人生を終え、俺は富と丈夫な体、そして莫大な魔力を手に、新たな地へと向かった。