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君を愛してもいいかな

作者: 瀬嵐しるん


『行き遅れ』


嫁ぎ先の決まっていない女性にとって、たいへんに不名誉な称号。

しかし、それも貴族として生まれれば、の話だ。


わたしの生きる今の時代、平民には結婚適齢期などあって無いようなもの。

機会があれば結婚するし、しなくても何とか生きていければそれでよし。


家具職人の父に十五歳で弟子入りし、現在、二十五歳。

貴族令嬢なら青ざめるほどの年齢かもしれない。

しかし、やっと一人前と認められ、仕事が面白くなってきたわたしにとって、結婚なんてまるで他人事だった。



「え? お父ちゃん、いえ親方。わたしに縁談?」


「ああ、公爵様に勧められたんだ」


まさしく青天の霹靂だった。



父の言う公爵様とは、現国王の弟に当たる方。

王位継承権は放棄されたが、王家への発言権はそれなりにあると聞く。


父が親方を務める家具工房は代々続いていて、貴族方からの信頼も篤い。

極秘の仕様や、細かい注文にもとことんお応えする製作スタイルだ。


昨年、公爵様の奥方、公爵夫人から一つの注文を受けた。

女性の職人がいるなら、その人にと言われ、わたしが製作を担当することになった。


見習い時代から、父の手伝いとして貴族のお屋敷に伺ったことは何度かある。

しかし、公爵邸は群を抜いて豪華だった。


夫人の私室にある家具も金箔や彫刻が見事で、見るだけで勉強になる。

同時に、こんな場所で使う家具を本当に自分が作れるのかと心配にもなった。



座るだけでも緊張が増すソファに腰かけると、夫人は素朴な小引き出しを見せてくれた。


「これは、わたくしが結婚する時に、祖母から譲り受けたものなの」


引き出しの中身は、古びた扇子や流行遅れのジュエリーなど。


「ガラクタでしょう? でもね、わたくしには大切な物なのよ。

時々、この引き出しを開けて、気持ちを落ち着かせたり、驕らないよう自分を戒めたりしてきたわ」


初心に返ったり、相手の気持ちを慮ることを思い出したり。

権力や発言力のある立場だからこそ、言ってはいけないこと、言わなければならないことを間違うわけにはいかないのだ、と仰る。


「娘の嫁入り道具として、こういう小引き出しを贈りたいのよ。

飾り過ぎず、懐かしさの感じられるようなものがいいわ。

お願いできるかしら?」


「精一杯努めさせていただきます」


入念に打ち合わせ、数か月後に納品した小引き出しは公爵夫人のお眼鏡にかなった。

十分な報酬を頂いたにもかかわらず、直接礼状が届いたほどだ。




「公爵様がわたしに相応しい馬の骨を御存じとは思えないんだけど」


「お前なあ」


話は戻って、わたしの縁談である。


「だって、地位のある方が、平民の縁談を世話してくださるなんて」


「……それなんだが、実は公爵様のお口添えで、我が家は男爵位を授かることになった」


「!?」


待って待って! なんということだ。

もしそれが本当なら、わたしはいきなり行き遅れではないか。


「だろう? というわけで、ついでにお前の縁談が降って湧いた」


ついでかい!


ちなみに、わたしは二人姉妹の次女だ。

事務仕事を請け負っている姉は、既に兄弟子を婿として迎えている。


「お相手の家は公爵家と縁続きの伯爵家だ」


おそらく、状況的に断ると言う選択肢はない、しかし。


「親方、わたし、家具職人としてもまだまだで、ましてや貴族としては箸にも棒にも掛からないと思うんだけど」


「だな。俺も、そう思う。

もう一度確認して、それでも構わないと言われたら、嫁に行ってくれるか?」


「はい。その時には、謹んでお受けします」



それから数日後のこと、公爵夫人からお屋敷に呼ばれた。


「もう、殿方の大雑把なことと言ったら!

ごめんなさいね、いきなり縁談を持ち込まれてさぞ驚いたでしょう?」


「はい、それなりに」


公爵夫人は、小引き出しを作っただけの縁しかないわたしを思いのほか気にかけて下さっているようだ。


「公爵家から男爵家に打診した縁談だからと言って、無理に受けなくてもいいのよ。

縁談相手はわたくしの甥なの。

貴女より二歳年上で、すでに伯爵家を継いでいるわ」


「そんな立派な方の相手に、なぜわたしの名が出たのでしょう」


「実はね、伯爵を継いだことだし、何人もお相手を見繕って勧めたのだけれど、ちっとも頷かなくて困っていたの。

小さい頃は素直で、特に問題のある子でもなかったのだけれど……

あまりに話が進まないから、夫が貴女の名前を出したのよ。

そうしたら……」


名家のお嬢様方には少しも興味を示さなかった若き伯爵は、新興の男爵家令嬢との縁には若干歩み寄る姿勢を見せたそうだ。


「ちゃんとした貴族のご令嬢では駄目で、ほぼ平民のわたしは大丈夫かも、ということですね」


「そういう見方も、確かに出来るわね」


「ということは、長く婚姻関係を続ける気が無いのかもしれません。

離縁しても拗れないような相手ならば、と考えているのでは?」


「だとしたら、失礼極まりないわね!」


「いえ、これはわたしにもチャンスかもしれません」


「まあ、どういうことかしら?」


「貴族の皆さんの立派なお屋敷に伺うたび、思っていたことがあるんです。

もっと屋敷をよく観察して、家具の扱われ方だとか、配置だとか勉強する機会がないかって」


「あら、そういうことなら、いくらでも公爵家にいらして構わないのよ?」


「いえ、有難いのですが、こちらのお屋敷は豪華すぎまして、ある意味参考にならないというか……」


「なるほど。その点で言えば、甥の伯爵家は調度も平均的だし、貴女の参考になるかもしれないわね」


「でしたら、このお話をお受けして、勉強させていただくのもありかと思います」


「わかったわ。貴女にそういうメリットがあるのなら、進めてもいいでしょう。

だけど、いいこと?

何か問題があったら、いつでもわたくしに相談するのよ」


「ありがとうございます」



縁談は進み、半年後には嫁ぐことになった。

嫁ぐに際し必要な最低限の社交マナーについては、なんと公爵夫人が直々に教えて下さったのだ。

失敗できないストレスは半端なかったが、おかげで短期間でそれなりに身に付いたと思う。


あっという間に結婚式を終え、迎えた初夜のこと。


「よろしくお願いいたします」と頭を下げたわたしに、返ってきた答えがこれだった。


「君を愛することは無い」


やっぱり!

わたしは逆に安心した。


「一年間白い結婚で我慢してくれれば、同意の上、離縁できる。

もちろん、伯爵夫人の名が必要なら、婚姻したままでも構わない」


「はあ」


ついつい、素で反応してしまったが、旦那様は気にならないようだ。

彼はさっきから、すぐ側にある家具の一つを凝視している。


「あの、旦那様、その戸棚が何か?」


嫁入り道具として持ち込んだ、小さめの戸棚を寝室に置いていた。

ベッドサイドの置台にぴったりの高さで、両開きの扉を開けると可動式の棚板が二枚。

まだ、中身は空だ。


「私に、この棚は小さすぎるだろうか?」


「?」


何のお話かさっぱりわからない。


「私は、この棚の中に入れるだろうか?」


特に大柄ではないが、旦那様は平均的な身長だ。

瘦せ気味で、ボリュームはそれほどない。

とはいえ、棚板を外したとしても中に入ったらギュウギュウ。

若干、猟奇的な匂いがする。


「無理をすれば入れるかもしれませんが、相当に狭いですよ?」


「狭い……素晴らしい。ちょっと入ってみる。

外から扉を閉めてもらえるか?」


「はい……承知しました」


器用に中に入り、膝を抱えた彼はわたしに扉を閉めるよう促す。

そっと閉めると、特に抵抗もない。

見事に収まったようだ。


「旦那様?」


「……このままにしておいてくれ」


「かしこまりました?」


この戸棚には通気性を持たせるため、ルーバーが付けてある。

窒息の心配は無いと思う。

扉も、堅くロックされるタイプではないので、中から押せば簡単に開くだろう。


ということは放っといても大丈夫。

結婚式の疲れもあり、わたしは遠慮なく広く立派なベッドで爆睡した。



翌朝のこと、目覚めるとわたしは真っ先に戸棚を見た。

扉は開けっ放しで、旦那様の姿は無い。

万一の事故が起こらなくて、本当によかった。


「おはようございます、奥様」


世話係のメイドたちがやって来る。


彼女らは、乱れすぎていないベッドと、扉が開け放たれた戸棚を見て、全てを察した顔になった。


「よく、お眠りになれましたか?」


「ええ、お陰様で」


「それは、ようございました」


「旦那様は?」


「朝の鍛錬をなさっていらっしゃいます。

その……窮屈な姿勢で眠ることが多いので、ストレッチが必要なのです」


「なるほど」


どうやら、旦那様が狭い場所で眠るというのは伯爵家では周知の事実のようだ。


手練れのメイドの皆さんに支度をしてもらい、普段着とはいえ、立派なドレスをまとう。

朝食の席には、先に旦那様がついていた。


「おはようございます。お待たせして申し訳ございません」


「おはよう。昨日は結婚式で疲れたろう。

しばらくはゆっくりしてもらって構わない」


「ありがとうございます」



あらあら? どういうことだろう。

『君を愛することは無い』はずの旦那様は、上機嫌でお優しい。


すぐに質問したくなったが、朝食のベーコンがあまりに美味しく、興味を後回しにした。


旦那様は執務があり、次に顔を合わせたのは午後のお茶の時間だ。


「あの、少し質問をしてもよろしいでしょうか?」


魅惑のイチゴジャムとスコーンを横目に、わたしは切り出した。


「……戸棚で眠ったことだろうか」


「はい、そうです」


「うまく説明できるか自信がないが、出来るだけ話そう。

君は、遠慮なくお茶を楽しんでくれ」


「はい」



「実は、私は……眠るときに限って広い場所が怖いのだ」


「広い場所?」


「普通サイズのベッドが、もう広すぎて駄目なんだ。

衣装戸棚は高さがありすぎるし、デッドスペースに作った小さな物置部屋もしかり。

大きなボックスタイプの物入れで丁度いいのがあったのだが、一人で出られなくなる可能性が高かった。

後は、足を延ばして寝られる浅い箱はどうかと思ったのだが……」


「まんま棺桶ですね」


「そうだ。執事に猛反対された」


「なるほど。

子供のころから、そうだったんですか?」


「いや、そんなことはない。

伯爵位を継いだ辺りからだ。

精神科医にも相談したが、有効な手立ては見つからなかった」


旦那様のご両親は、今は領地で暮らしている。

お父上の前伯爵様がご病気で、療養されているのだ。


「医者によれば、原因は伯爵位を急に継ぐことになったストレスだろうということだ」


「あの、眠ろうとする時以外は、別に広さは気にならないのですか?」


朝の鍛錬も、庭で素振りなどされたようだ。

昨日の結婚式も広い教会だったし、寝室に行くまでは特に問題なかったように思う。


「それは大丈夫だ。

その、今更だが、君には婚姻前に説明しなかったことを謝罪しなくてはいけない。

申し訳なかった」


「いえ、それはいいんです。

急に貴族の仲間入りをして、突然、行き遅れの身分になったのも解消されましたし。

それから、ぶっちゃけますと、貴族の生活を体験して、今後の家具作りに役立てようという目論見がありましたので……」


「君も工房で働いていたのだものな。

伯母上が注文した小引き出しが、良い出来だったと聞いている」


「恐れ入ります。

まあ、こう見えても、わたしも職人の端くれ。

よろしければ、旦那様が安心できる狭い寝台を考えてみようかと思いますが」


「狭い寝台。……出来るのか?」


「大きなものなので、製作は実家の工房任せですが、親方に相談しながら設計のほうはわたしが責任を持って進めます。

もちろん、細かい事情は伏せますので」


「それは、ありがたいな」


「注文家具屋は秘密を守ってナンボですからね。

その辺はご安心ください」


その夜のこと、旦那様はやはり、戸棚に入った。


「君は、私の行動が変だとは言わないのだな」


「身体に負担がかかるのは心配ですが、狭い場所で寝たいというのはさして不思議ではないかと。

気にせず堂々と、狭い所で眠ればいいんじゃないですか?

それがかなえば、普通に生活できるんですから。

無理に直そうとする必要はないと思います」


「君は嫌じゃないのか?

戸棚で眠る夫なんて……」


「嫌ではないですが、やはり旦那様の健康が心配です。

なんとか、解消できるよう頑張ってみます」


「そうだったな。よろしく頼む」


「はい。では、おやすみなさいませ」


「おやすみ」


わたしは、そっと扉を閉めた。



翌日、馬車で実家まで送ってもらった。


「ただいま」


「おかえり……って、もう離縁されたのか!?」


「親方、ひどい!」


わたしは、ちょっと作ってみたい家具があるので、その相談に来たと告げた。

商売の話になれば、それ以上、余計な詮索はされない。


「なるほど。広いのが苦手な人のためのベッドか。

そういう苦労をしている人もいるんだな」


「うん。出来るだけ力になりたくて。

他に案がでないと、棺桶が最適になるかもしれない」


「棺桶……なるほど」


それから、物置部屋では天井が高すぎたとか、今は戸棚で眠っているとか、情報を全て出した。

誰の話かは言わなかったけれど、昨日の今日なら、だいたい推測はつくだろう。


「その話を全部総合すると、人が足を延ばして寝られるサイズの戸棚みたいなベッドを作ればいいんじゃないか?」


「うん、そうだね」


「人が寝るとなれば、最低限の大きさは必要だ。

もう、試作しちまうか?

なるべく早く、足を延ばして寝てもらいたいんだろう?」


「親方……そう、そうなの」


不安なく、ゆっくり。

立派なベッドで寝られる身分なのに、戸棚で縮こまって眠るのは、あまりにも気の毒だった。



父との打ち合わせを終え、わたしは伯爵家に戻った。

ベッドの製作は工房任せだが、わたしにも仕事がある。

寝室に置くための採寸や、内装に合わせたデザインを調整しなくてはいけない。

伯爵家は、公爵家ほど豪華ではないが、品よくまとまったインテリアになっている。



試作と言いながら、父はとっておきの木材を惜しげもなく使ってくれた。

乾燥を終えてすぐ使える予備の木材は、工房にとって貴重なものなのだ。



そして一か月後。

試作品が寝室に持ち込まれ、組み立てられた。

あまりに狭いので、ぶつかって怪我しないように内側の壁一面にクッション材も貼ってある。


その夜、恐る恐る中に入ってみた旦那様は言った。


「……広すぎる」


「そうですか?」


実はこれ以上狭くするのは難しいので、なんとか説得したいところだ。


「君も入ってみろ」


と言われたので入ってみると十分に狭い。


「……ちっとも広いとは感じませんが」


狭いので二人、缶詰の中のイワシのごとく並んでいるのだ。

やはり、もっと狭くないと駄目なのか。


「あ!」


突然、旦那様が何かに気付いたような声をあげた。


「何です?」


「こうして、君と二人なら、丁度、狭い!」


「ちょうど、せまい……」


「君と二人なら、安眠できそうだ」


「そうですか」


それは何よりだ。


立派な試作品は本採用され、伯爵家の主寝室のベッドとなった。



翌朝のこと。

朝食の席で、旦那様が言った。


「君には感謝しかない。

本当にありがとう。

あんなふうに足を延ばして寝られるなんて」


「それはよかったです」


本当ならもっと伸び伸びと眠って欲しい所だが、小さな戸棚からはずいぶんな前進だ。


「それと、謝罪をしたい」


「謝罪?」


「初夜に、君を愛することは無い、と言った一件だ。

その、こんなに親身になって、私の寝るための環境を考えてくれる人に、言うべき言葉ではなかった。

本当に済まない」


「いえ、気にしていませんよ」


「君は寛大だな。

寛大ついでに一つ、許して欲しいことがある」


「許して欲しいこと?」


「私は……君を愛してもいいかな?」


「旦那様……」


「駄目か?」


「貴方の心は、貴方のものですよ」


「その心を、君に捧げたい」


「今は、なんと答えればいいのかわかりません。

でも、これから少しずつ歩み寄って行けばいいのではありませんか?」


旦那様は、どこかほっとしたように微笑んだ。


「そうだな。よろしく頼む」


「こちらこそ」



やがて、わたしたちは子供を授かり、妊婦の身を案じた旦那様は狭いベッドから出る決心をした。


そして、数年経った今では、狭いベッドは子供たちの遊び場兼昼寝用ベッドとして使っている。


妊娠と出産、そして子育てに追われるわたしは、家具職人の道を中断している。

しかし、まるで無関係というわけでもない。

貴族として生活するようになり、新しく知ったことも多い。

子供も出来て、子育てに必要な道具についても、日々実感している。

それで、合間を縫って、家具の設計だけを続けることにした。


姑がわりに気遣ってくださる公爵夫人の伝手で、茶会で貴族夫人方から直接相談を受けることもある。

製作は実家の工房任せ。だが、設計と助言だけでも、思ったよりもお金になった。


そして何より、夜会ではまったく社交の出来ないわたしを、家具の製作で知り合った奥様方が何かと引き立てて下さるのだ。

後ろ盾として、公爵家も控えている。

つい最近まで、結婚しないかもしれない一平民だったくせに、なんと出世したことか。




「旦那様、転寝は風邪をひきますよ」


「……ああ、ついうっかり」


今では、どこでも寝られるようになった旦那様は、執務の合間に時々ソファで眠っている。

精神が安定したのはいいが、そのせいで、ふくよかになって来たのが痛し痒しという所。


「旦那様、太りましたね」


「ああ、前はどれだけ食べても痩せてたのにな」


やはりストレスだったのか。

初めて会った時の旦那様は神経質そうで、痩せていて、顔色もあまりよくなかった。


「結婚したばかりの頃は、憂いあるイケメンでしたのに」


「このまま、太めのオジサンになったら、嫌われそうだな」


「そんなことありません。太めになっても、貴方は貴方です」


「そうか」


屈託のない笑顔を見られることが嬉しい。


「でも、もう少し、身体を動かしたほうが良さそうですね」


「ああ、そうだな」


「というわけで、お時間があれば執務の合間に、子供たちと遊んであげてください」


「わかった」



今、わたしたちの間に子供は三人。

一番下はまだ乳飲み子だが、上二人はやんちゃ盛り。

寝ている時と食べている時以外は動き回っていて、気が抜けない。


そう思っていると、廊下からパタパタと足音がして、子供たちが飛び込んできた。


「おかあさまぁ、お腹減った~」


「おかーさまー、へった~」


「そろそろ、おやつね。少し待ってて」


「二人とも、お父様と一緒に待ってようか。

こっちへお出で」


わたしのスカートから手を放し、子供たちは旦那様の方へ走っていく。

ソファに飛び乗ると、両側から父親に抱き着いた。


「二人とも、順調に重くなってきたなぁ。

さぼってないで鍛えないと、すぐに抱き上げられなくなりそうだ」


「おとうさま、抱っこ!」


「ぼくも~!」



旦那様の心が不安に彷徨わぬよう、小さな天使たちが全体重をかけて繋ぎ止めている。

なぜだか、そんなふうに感じながら、わたしは厨房へ向かった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 活動報告からこちらに来てそのまま一心不乱に読みふけり、あのセリフで「挑戦」のことを思い出しました^^; 作品自体の面白さと合わせて二重に愉快な気持ちにさせられるとても楽しい短編でした。 …
[一言] 暗くて狭いとこ、落ち着けますよね~。 そう言えば、昔両親が結婚記念日の旅行に出かけた翌朝、部屋で寝ていた筈の妹が見当たらず大探ししたら、「お姉ちゃん、ここ~」と押し入れから恥ずかしそうに出て…
[良い点] 奥様になった主人公の心の広さ、自分の失言をきちんと認めて謝れる伯爵の素直さ。 とても良いご夫婦ですね。 [一言] 押入れがこの世界にもしあるなら、伯爵が気に入りそうだなーとふと思いましたw…
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