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3/6

偏愛事情

◇トーリー子爵邸◇



 ナリアを売っぱらったトーリー家の面々は、それにより得た多額の金貨で、毎日贅沢な暮らしをしていた。

 使えば金はなくなる。

 そんな当たり前のことすら、皆忘れていた。



 子爵夫人、すなわちナリアの母モナも、久々にドレスを買い、パーティへと出かける。

 金髪碧眼のモナは、その容姿ゆえ、独身時代は異性にちやほやされていた。

 現在のトーリー子爵、ガラリス・トーリーとの結婚は、貴族同士の政略によるものとはいえ、ガラリスは美しいモナに心底惚れていた。


 長女のイアンナも、モナに似た整った容姿で生れ落ち、モナも子爵も溺愛して育て始めた頃。


「嫡男は、まだか」


 先代子爵は一言は、モナに冷水を浴びせた。

 産後すぐに、二人目の子作りを開始したが、モナは体力が追いつかず、時折ガラリスを拒否もした。

 ようやく生まれたのは、やはり女児。

 しかもモナが嫌う、舅と同じ髪の色を持っている。


「女腹か」


 モナは舅に殺意を抱く。

 もちろん叶うはずもなく、モナの行き場のない憤りは、二番目の娘に向かう。


 モナが荒れると、寝室から追い出されるガラリスは、極力モナに逆らわないようになる。

 モナが二番目の娘に愛情を見せない以上、ガラリスもそれに倣う。


 子爵夫妻の長女偏愛は、こうして始まった。

 育児を放棄されたナリアは、しばらくの間、モナの実家の男爵家で、育てられたのである。



 本日のパーティは、アポエマ伯鄭で開催される。

 ご婦人たちの、午後のお茶会である。

 最新のドレスを纏い、足取り軽く会場に入ったモナであった。


 しかし……。


「あら、トーリー夫人たら。王都で流行のドレスですわね」

「んまあ! 身分不相応のお値段ではなくて?」

「昔の柳腰であればともかく、ねえ……」


 会場で囁かれる、モナへの陰口を耳にした彼女は、真っ赤な顔になる。


「だって……」

「ほら……」

「売ったって」

「売ったのよ」

「何を売ったの?」

「娘よ。かわいそうに……」


 ひそひそと。

 されどモナには確実に聞こえる音量で、出席者の非難は続く。


 いたたまれずに、モナは走る。


 なんで!

 どうしてみんな、知っているの?

 でも良いじゃない! 本人が望んで行ったのよ!


 それくらい良いじゃない!

 あんなの、私の娘じゃないわ!



 泣きながら邸へ戻ったモナは、夫ガラリスの部屋へ飛び込む。

 

「ひどいわひどいわ! みんなが私のことを非難するの!」

「お、落ち着けモナ。何があった?」


 モナはパーティでの出来事を語る。

 ガラリスは顔をしかめる。

 密約のはずだ。

 侯爵家に娘の初夜を売ったことは。


 まさか!

 侯爵が、裏切った?


「きっと、ナリアよ」

「え?」

「ナリアがあちこちに、言いふらしているのよ!」

「ま、まさか、そんな……」

「絶対そうよ!」


 ナリアの顔を思い浮かべると、憎い舅の顔と重なる。

 モナはぶるぶる震えながら、夫に縋りつく。


「無理もうダメ! 死ねば、死ねば良い! あんな娘」


 冷静に考えれば、行く宛てのない低位貴族の令嬢が、己の不利になるようなことを、言いふらしたりするはずがない。

 だが、モナはナリアのことになると、冷静さがなくなる。

 そしてガラリスもまた、モナに引き摺られてしまうのだ。


「分かった分かった。三ヶ月後にアイツは帰って来る。そしたら、お前の好きなようにすればいいから、な」


 今までなら。

 きっとモナの望み通りになっただろう。


 だが、ナリアは時計の針を逆回転させるという能力を、育み始めていた。

 ナリアの持つ異能力を、子爵夫妻はまだ知らない。




◇ターナー侯爵邸◇



 侯爵家の家令ラケスは、手駒の一人が仕掛けた成果に、ほくそ笑んでいた。

 手駒の名は「お喋り雀」という。

 一定方向へ世論を誘導するような、噂を広める役目を持つ。


「うわあ、見るからに悪人面だ、ウチの家令」


 ディミトリスが言う。


「何をおっしゃる。我が侯爵邸でお預かりしている令嬢を守るため、必死に尽力しているわたしに、つれない御言葉ですな」


「ナリア嬢はどうしてる?」

「メイド服着て、掃除と洗濯してました」


 ナリアのメイド服姿を想像したディミトリスは、ちょっと顔を赤らめる。

 

「変な想像してないで、次の一手を考えて下さいよ、侯爵」


「ああ、考えているさ。次の標的は、イアンナ・トーリーだ」

ナリアの能力は、どこで得たものでしょうか。


いつもお読みくださいまして、ありがとうございます!!

週3回くらい、更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「お喋り雀」SUGEEEEEE!!!!
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