プロローグ
東京の夜は、今でもゴロツキが多い。
雨が降りすさぶ夜の闇の中を、赤き光が光っている。
「…ねむてぇのによぉ。」
連なってサイレンを鳴らしながら走る覆面パトカーの中で、ハンドルを握る1人の刑事がこぼす。
緊急走行でも、深夜のせいで基本道路には車がいない。
「文句を言うな。お前はさんざん昼間寝てたろ。」
「でもわざわざマル暴に合流することもないじゃねぇか。俺たち一課が出張るこたぁねぇよ。それに俺も呼ばれるなんてどんな奴なんだ?」
フロントガラスにあたる大粒の雨粒は、どんどんとその勢いを増していた。
「拳銃を持ってるお前を呼べば、ほかのやつに拳銃携行許可を出さなくて済むだろ。それにお前なら拳銃に慣れてるから安心なんだろ。」
「じゃぁ俺一人で行かせろ。他の一課がチャカ持ってなけりゃ相手がチャカ持ってたら戦力にならねぇじゃん。」
話し声が、雨の音でかき消される。
雨で乱れるフロントガラスからの視界の中に、自分たちとは違う赤色灯が見えてくる。
パトカーが停まっている間の車が入れるように縁石が下がっているところからそのまま中に入る。
中では、すでに覆面車が数台と警視庁と書かれたワンボックスが停まってサーチライトで照らされている。
「はぁしかも雨か~。濡れるんだよな~。」
「文句言うなよ。そんなんだから特殊捜査班なんて作られてるんだろ。」
後で出やすいように並べて頭から突っ込んで車を停めて、そのまま外に出る。
大粒の雨の中、泥となった土の地面を走って張られてるテントの下に入る。
「お疲れさん。」
「あぁ真鶴サン。わざわざすみません。…それと、なんで一課の連中がいるんだ!」
「なんだ?真鶴にだけ敬語か?俺らだって好きで来てんじゃねぇんだ!」
真鶴と一緒に来た一課の刑事と、先にいた組対の刑事が口喧嘩を始める。
「おいやめろ。そんなことよりも事件について話せ。」
「あぁすいやせん。えーガイシャは牧村。ヤクザもんですわ。佐々木組の構成員で、歌舞伎町の隅をシマにひっそりと営んでるモンたちです。他の組の抗争にでも巻き込まれたんでしょう。死因は胸部を銃弾で撃たれたことによるショック死でしょう。解剖を待たないと何とも言えませんがね。」
「じゃぁこれはマル暴の仕事だな。俺たち一課は出番じゃねぇ。」
そう言ってテントから出ようとする真鶴に、一課の刑事が呼び止める。
「そういうわけにゃいかねぇだろ真鶴。俺たちにもメンツってのがある。」
「俺達には専門があるぜ。お前らなら殺人やら暴力事件だ。マル暴ならヤクザモンの捜査が専門だ。あとで必要なら連絡が来るだろうさ。それより俺はねみぃから帰るぜ。」
「あ、おい真鶴!」
呼び止める刑事の言葉を無視して、真鶴は乗ってきた車に乗り込んで現場を後にする。
「…ほんとに行っちまいやがった。」
残された現場で、刑事たちはテントの下降り続く雨の音を聞き続けていた。