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第7話 所為欺

静けさが森を支配する

すべての力は流れ、その力の原型を留めることを知らない

有は無に、無は有に流転する

色即是空しきそくぜくう空即是色くうそくぜしき


法師の教えを心臓に釘のように挿し込む。

私はまぶたに刺青のように刻み込まれた彼女の姿を洗い流そうと努める。

流れない。

流れるはずもない。

流れるわけもない。

彼女は私の「無」の領域を占領してしまった。


そこに本来ある筈もない、「有」に体が拒否反応を起こす。

知らないものだ、とがなり立てる。

私はその作用によって、よりその「有」を意識してしまう。


その無限の繰り返しの最中に漂うのが私の当時の存在だった。



瞬間、獣道から人の訪れる音。

私は瞑想に専念しながらも、いざというときのための、戦闘態勢を形作る。

昨日のアムルタの忠告もある、私はその近づく音に注意を傾けていく。

一歩、一歩、無我から「()()」へ近づいていく。

足取りは軽い、女か男か、区別はつかない。

しかしそれは確かに戦士の足踏み。老練であることに疑いはない。

一踏み、一踏み、正坐せいざから「()()」へ近づいていく。


刹那せつな、冷たい刃物が、顔を横切る。

(敵襲か!)

私は体を捻じりながら空へ飛んだ。()は私の足を組んでいた場所に到達した。私は上にいる。

護身用の短刀を背中から取り出した。

そのまま上を見上げた男の首を足で締める。刃を首に当てる。斬込みは入れない。そのまま男が倒れるのを待った。

(まだ、腕は鈍っていないか、、、)

男は腰から倒れた。首を締めた状態のまま、私は周りを見渡した。誰も居ない。


いや、いる。

少なくとも二人、いや三人、いやもっとか。

私は森の中に確かにある敵の気配に気を配った。

(流石に三人以上は危険だ。)

私は逃げの姿勢を作る。森という場の利点を活かし、樹上に登った。


疾走する。ザク

駆け抜ける。ザク

飛奔する。ザク


僧院はもう見えてくる頃合いだ。(もうすぐだ。)


しかし、ふと気がつくと、私は背にとんでもなく大きな気配がある。

(私に対する殺意は感じない。)

私は決死の覚悟で振り返ってみた。


所為欺レーンコ!!!)


なぜここに、なぜ樹上に。そしてあの巨躯をどうして枝が支えることができようか。

私は走りを止めた。所為欺レーンコは私に対して背を向けている。

その黒々とした紅い背は私を守ってくれていたのだろうか。ざっと数えて七本以上の刃が刺さっている。

樹上から下を見下ろした。一人の女が立っている。昨日とは違った様子だ。サリーではなく、体を動かしやすい服を着ている。


私は自分の中に本能と理性のせめぎ合いを見た。

アムリタは満面の笑みでこちらに手を振っている。

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