崖
気付くと私は崖にいた。
草一本生えていない殺風景な鋭くv字型に尖った崖。空は晴天。そろそろ正午になるのだろうか、太陽が高く登っている。
崖の下にはゴツゴツとした岩が一面に広がっている。どこまでも、どこまでも広がっている。
そこは、死んだ様に冷たく、静かだった。
後ろで足音がした。
振り返ってみると、崖の先端から6歩ほど離れたところに友人のRがいた。
「よう、R。」
私はRに話しかけた。しかし返事はない。
「R?」
何度話しかけても返事はない………
どの位経ったのだろうか、ようやくRが口を開き、言った。
「お前は死に値する大罪を犯した。」
どういう事だ。私が何をしたというのだ。分からない。そもそも心当たりが無い。全くもって無い。
またRが言う。
「お前は死に値する大罪を犯した。」
「何なんだ、その大罪というのは。」
私がRに問うと、Rは壊れたレコードのように
「お前は死に値する大罪を犯した。」
と言う。その後も何度か会話を試みるも返ってくる言葉は
「お前は死に値する大罪を犯した。」
だけだった。
日は傾き空が紅く染まった。
生暖かい風が頬を掠める。
ここには私とRの他には蟻一匹すらも居ない。
Rは話しかけても同じことを繰り返す。
話しかけなければ威圧的な目でこちらを睨んでくる。
ああ、この状況はいつまで続くのだろうか…
そう思った瞬間だった。
Rがこちらに向かって一歩、また一歩と進んできたのだ。押し黙り、威圧的な目で。
私は恐ろしくなった。逃げようと思った。だが、後ろは崖、逃げ道は無い。
Rが一歩一歩と近づくたび、私も一歩一歩と後退していく。
カラと音がした。何かと思い振り返る。そこには地面がなかった。既に私は崖の先端に追い詰められていたのだ。
Rは私の2歩ほど前に立っている。変わらない、威圧的な目で。
私は蛇に睨まれた蛙のようになった。
息が荒くなる。冷や汗が滲み出てくる。
そしてまたRは言う。
「お前は死に値する大罪を犯した。」
そしてもう一度。声高らかに。
「お前は死に値する大罪を犯した!」
そして叫ぶ。
「よって死罪に処する!」
肩のあたりに鈍い衝撃が走る。
背中に風を感じる。強く吹き上げてくる。
空が見えた。紅い、紅い空だった。
何が起こった、何がー
肩に受けた衝撃よりも遥かに強い衝撃が全身に走った。
全身の骨が折れる音がした。
皮が裂け、視界が赤く染まる。
薄れゆく意識。
私が最後に感じ取ったのは、Rの高い笑い声だけだった。