鮮血
お読みくださいまして、ありがとうございます!!
誤字報告、いつも助かっております!
青緑色の竜を見た化生フィーマの瞳が、すうっと細くなる。
「木竜、だな。先ほどの雷光、発したのはこやつか。……ならば」
青緑竜は全長は、成人男性二人分ほどだ。
その竜はセイラルを護るように、彼女の頭上を漂う。
化生フィーマは瞳を赤くして、するすると両の腕を再生する。
化生はそのまま手を空にかざす。
掌からは銀色に光る、槍の先が生まれる。
化生フィーマは逡巡なく、木竜へと光る槍を放つ。
シュンッ!!
木竜は胴体が真っ二つに切断される。
「木気の竜ならば、金気に剋される。今我が手を離れたものは、金の気をまとう、白金だ」
満足そうに化生が笑う……
だが、その笑いは途中で凍り付く。
分断されたはずの木竜は、くるりとセイラルの頭上を廻り、再び元の姿へと融合したのだ。
「なぜだ!」
木竜は己の胴体を貫いたはずの尖った白金を咥えると、そのまま嚥下する。
青緑色の竜体は、たちまち輝くばかりの白色に変わる。
「ま、まさか。セイラル、その竜は……」
「ええ、この地より遥か彼方の、桃源郷より生まれたもの。
あなたの単なる五行の知識が、通用することは、ない!」
驚愕の表情を浮かべる化生に、再度雷光が落とされる。
化生は両手で印を結ぶ。
すると化生の背から。翼のような炎が燃え上がる。
木竜が放った雷光は、揺らめく焔に吸収された。
さらに、化生の体から生じた炎は結界の如く、セイラルとフィーマを取り囲む。
「もう、誰にも邪魔はさせんよ」
化生が地面に手をつくと、地面は割れ、中からは岩石が溶けたような、泥流があふれる。
あふれた泥流の表面は、銅のような色をしている。
同時に、立ち昇る大量の水蒸気。
炎にあおられ、地下熱が沸き上がり、セイラルの額にも汗が浮かぶ。
「あれは……」
セイラルの脳裏に、霊峰富士の火口の極彩が蘇る。
その中心は、焼けた鉄よりもなお赤く、大蛇のようにうごめいていた。
溶けた岩であるぞ。
そう小角は言った。
「さあ、この泥流を止めてみよ、セイラル。動き始めたら、草木も石段も飲み込むぞ。
ましてや人間など、一瞬で消え去る」
化生の言うとおりである。
高温で動き始めた泥流は、すぐにセイラルの足元まで来た。
触れてもいないのに、セイラルの靴が溶けた。
水の神よ!
国を護りしユーニアーよ!
何卒、守り給え!!
セイラルの頭上、二体の竜が彼女の祈りに応える。
水気の竜は黒色竜となり、泥流に氷結をぶつける。
泥流は次々に、白く蒼く固まっていく。
木気の竜は、地中の金属を固めて堤に変え、泥流が広がるのを防ぐ。
セイラルは全身に、ユーニアーの清浄な水を受けた。
これでやられることはない。
熱気はもちろん。
邪気にも、だ。
セイラルは、アティリスに駆け寄った騎士が落とした剣を拾う。
切っ先を天にかざし、水の神に祈る。
剣は青白く光り、水の加護を持つ。
水気の竜は、セイラルの身体に吸い込まれ、セイラルと一体化する。
「今
ここで終わらせる!」
セイラルは剣を持ち、炎と熱風をものともせず、姉フィーマの身体に巣食う化生に向かって走る。
化生は、泥流を浮かせ、土塊と変え、石礫のようにセイラルに投げつける。
いくつもの石礫が当たったセイラルは、頬や脚の皮膚が裂ける。
セイラルは跳躍する。
化生の頭頂部から斜めに、一気に剣を振り下ろす。
果物を切りさくように、化生の体は二つに割れる。
だが。
化生の切創は、互いに粘液を送り出し、すぐにぴたり、元の姿に戻る。
「ほお。思ったより腕が上がっているな。地底の熱も冷めてしまった」
化生は、自分の手で、歪んだ顔かたちを整えると、そのまま指先を伸ばし、セイラルの心臓に突き立てた。
「ぐはああっ!!」
セイラルの口から鮮血が散る。
「終わるのは、そなたの方だったな、セイラル」
ずぶりと音を立て、化生がセイラルの心臓を掴み取ろうとしたその時だった。
シャラアアアン!
シャラアアアン!
錫杖の音が、庭園に居る者全員に聞こえた。
その音で、化生の顔色が変わる。
セイラルの胸から手を引き抜き、自分の両耳を押さえる。
化生は思いきり頭を振り、子どものように嫌がり始めた。
「やっ、やめろ! やめろやめろ! 音を止めろ!」
「そこまでじゃ。お主。空をみよ。目の前のセイラルに気を取られ、気付いておらなんだか」
錫杖を持つ、高下駄を履いた老人が天を指す。
つられて空を仰いだ化生の瞳孔が開く。
「ま、まさか。七、芒星!」
「我が弟子を、よくも傷つけてくれたな。お主の逃げ場所など、ないと知れ!」
応援、ありがとうございます!!
次回、援軍は一人だけではないようです。




