表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
母は傾国の悪女でしたが、わたしは平凡な幸せを、掴みたいのです~藤原薬子の娘、転生し妖魔と戦う~  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/30

交錯

お読みくださいまして、ありがとうございます!

誤字報告、感謝申し上げます。

 その日、天女は一つの果実をひよしに渡す。

 夕陽のような色と、清々しい香りを放つ、片手に乗るほどの丸い実である。


「食するがよい。これがまことの、非時ときじくの香菓かぐのこのみなり」


 ひよしは一口齧ってみた。

 甘い花のような、酸っぱい蜜柑のような、不思議な味わいであった。


 天女は語る。


「非時香菓は、不老不死をもたらすと言われておるが、そうではない。現世うつしよの肉体など、いつかは滅びる。されど、現世で得た知識と行は、いくたび生まれ変わっても、その実を食した者に宿り続ける」


 非時香菓を食べ終えたひよしの両肩には、水気の竜と木気の竜がそれぞれ乗っていた。

 ひよしはほんの少し、笑みを浮かべる。


「もしも」


 ポツリと漏らすひよしの言葉に、天女は小首を傾げた。


「もしも、来世というものが、ありますれば……」


 伏し目がちのひよしの頬が、桃のような色に染まる。


「わたくしは、ただただ平穏な暮らしが、しとうございます。身分がどうであれ、慎ましく、ごく平凡な生き方を……。

情けのある親と子。互いに慈しみあうことの出来る(つま)

夕餉の匂いに駆けよる子ども。

そのような日々を、夢想するのです」



 風が吹く。雲が割れる。


「さて。そろそろ帰ろうかのう」


 小角がやって来た。

 迎えにきたのだと、ひよしは感じた。


「都は平城の(おおきみ)の力が削がれておる。さすが空海の祈祷といえよう」


 ひよしは頷き、小角の手を取った。

 そして深々と天女に礼をする。


 瞬時に小角とひよしの姿は、雲に紛れた。


「ひよし。そなたの願いが叶うには、三度みたびの生まれ変わりが、必要であろうな……」


 天女の囁きを、ひよしは知らない。



◇◇◇◇◇



 第二王子アティリスと姉フィーマの婚約発表を七日後に控え、セイラルはヴィステラ家の屋敷に戻った。


 戻る直前まで、王と第一王子のジーノスへの施術を続けた。

 王の内臓は完治し、ジーノスは自力で立てるようになった。

 しかし、宮殿内にもおそらくは間諜がいるであろうことから、セイラルは王にもジーノスにも、体調に関しての秘密を守ってもらうことにした。


 よって、王もジーノスも互いの治療が進み、完全復調に近いことを知らないままである。

 また、王とジーノスは、近衛兵団とジーノス配下の騎士団を、婚約発表の会場に密かに配置すると決めた。。

 これはイシュチアが己の命を賭けて、東の大国の陰謀を教えてくれたおかげであった。


 セイラルがヴィステラ家に戻ると、迎えてくれたのは母と、セイラル付きの侍女だけであった。

 ヴィステラ侯は、辺境地への視察に出かけており、姉の婚約発表までには王都に帰って来るそうだ。

 姉は妃教育という名目で、王宮に滞在して帰って来ないという。侍女数人と料理人を王宮に同行させてもいる。


 母は、セイラルの姿を見た途端、涙を流しながらセイラルを抱きしめた。


「ごめんなさい、セイラル。わたくしは、あなたを守ってあげることが、出来なかった母です」


 セイラルも母を抱き返す。


「いいえ。いいえ、お母様。寺院に赴いて良かったです。イシュチア様にもお会い出来ましたから」


 母は驚き、セイラルを見る。


「知っていたのですか、セイラル」


「お会いして、イシュチア様からお話を聞きました。いろいろなことを」


 母は涙を拭い、侯爵夫人の表情になる。


「お話は、あとでゆっくり聞かせてちょうだい」


 その晩、セイラルは半年ぶりに、自室のベッドで休んだ。

 しかし神経の昂ぶりは治まらず、なかなか寝付けない。


 サイドテーブルの上に、水と果物が置いてある。

 果物はオレンジである。


 それはどこかで見たことのあるような、懐かしい色と形であった。

 セイラルは起き上がり、オレンジを一口齧る。

 シトラスの香が部屋中に広がると、セイラルの脳内に流れ込んでくる記憶がある。

 

 どこか異国の風景。

 長い髪の女が、蛇に化身する。対峙するのは一人の少女。

 その少女の顔は、セイラルに瓜二つだ。


 そうだ。

 これは私の記憶。

 私がこちらに来る前の、実際の出来事だ。


 私は、あの女から逃げ出した魂魄の一部を追って、ここまで来たのだ。


 あの国で一番高く、一番美しい山の、火口を通って。

いよいよ佳境に入って参りました。

もうしばらく、お付き合いくださいますよう、お願い申し上げます。

感想、評価、感謝申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ――非時香菓 転生にちゃんと理由があるのですね。 そして前世の母親もこちら側にいると。 いや、それを操る化生というべきか……
[一言] 蛇の化身の正体は、やはり・・・・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ