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母は傾国の悪女でしたが、わたしは平凡な幸せを、掴みたいのです~藤原薬子の娘、転生し妖魔と戦う~  作者: 高取和生@コミック1巻発売中


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王都その4

誤字報告、ありがとうございます。

 蠟燭の灯りが揺れる本堂にて、上人の話は続いている。


「太子様の御時(おんとき)より、大陸との結びを強めるために、かの国への留学が出来ることになりました。私も行って印可を得ましたが……。確かに、経典や新たなる知識を取得することができる有効な方法。されど……」


「何かが、あったのですね」


 ひよしの問いに上人は頷く。


「本来は、わが国にいるはずのない『モノ』も、かの地より受け入れてしまったのです」


 風のない堂内だが、ろうそくの炎が斜めになる。

 ひよしは両の拳を握る。


 上人は印を結び、真言を唱える。

 途端に、ろうそくの炎は火花を散らし、垂直に戻る。


「お上人様、今のは……」


「あなた様に付いてきた『モノ』を祓いました。やはり、私が離れてしまうと、あなた様も危うい……」


 上人は、しばし黙考し、新たに印を結んだ。


 瞬時に炎は空中の塵を焼き、本堂の天井に届くほど伸びあがる。

 ごくりとひよしの咽喉が動く。

 炎は、生命を持つかの如く乱舞する。


 シャラン……


 鈴の音が響く。

 板間を踏みしめる、硬い音がする。


 シャランシャラン!


 炎の中から、人影が浮かびあがる。


「わしを呼び出したのは、やはりお主か」


 男性の低い声が聞こえた。

 人影はありありと全身を現し、錫杖を右手に、堂内に歩み出る。


 痩身の体躯を一本下駄に乗せた、老人である。

 しかしながら、このご老人は、人なのであろうか。

 生きている人間が、炎の中から無傷のまま、現れることが出来るのか。


「不躾ながら、お願いの儀がありまする、加茂かもの役君えんのきみ様」


 上人も、呼ばれた老人も、表情は柔らかい。


「お主の願い事であれば、断る理由が見つからぬ。言うてみなさい、空海」



◇◇◇◇◇



 第二王子アティリスと、セイラルの姉フィーマの正式な婚約発表の場に、元婚約者のセイラルを呼ぶことに、王と正妃は苦言を呈した。


「しかしながら陛下。セイラルが心より反省し、姉フィーマがそれを許したことを、皆に認めてもらう、良い機会ではありませんか!」


 王は床上で横たわったまま、第二王子の陳情を聞いているが、第二王子は一歩もひかない。

 そもそも、セイラルが反省しなければならないような行いなど、全くなかったことを王も正妃も知っている。

 とは言え、王子の言うことにも一理はある。


「相分かった」


 正妃は眉をひそめていたが、王はそう答えた。



 その晩、施術を行うために、いつもの様にお忍びでやって来たセイラルらに、王はその旨を伝えた。

 セイラルは静かに微笑みながら、頭を下げ恭順の意を示した。

 その上で、王に告げる。


「失礼つかまつります。陛下にお聞きしたいことと、お願いしたいことがございます」


 セイラルが知りたかったのは、以前寺院にて、王とセイラルの命を狙った者は誰によって送り込まれたか、ということだった。


「断言はできないのだが……」


 そう前置きして王は言う。


「どうも、第一王子に王位を渡したくない者たちが、王宮にはおるのだ」


 正妃は目を伏せた。


「セイラルよ。そなたの父、ヴィステラ侯が、最初に成婚した際のいきさつを、知っておるのか?」


「家柄の違いで、前国王陛下から反対された、と聞いております」


 国王は頷きながら話を続けた。


「そうだな、間違いではない。しかし、正確な話でもない」


「と、申しますと……」


「ラステック・ヴィステラは、隣国の間諜スパイをそれと知らずに、妃に迎えてしまったのだ」


 セイラルの表情が珍しく動く。


 ユーバニア王国は、ユーバニアよりも遥かに大きい国力を持つ、二つの国家に挟まれている。

 資源と農産物に恵まれた此の国を、配下に治めようとする両国と、かつては長くいくさを続けていた。

 先代の王の時代、互いに姻戚関係を結ぶことで、戦争は一旦集結したが、今も火種が完全に消えたわけではない。


「もともと、ラステックと婚約していたのは、東の隣国の公女。しかしラステックが選んだのは、その公女に付いてきた侍女だったのだ」


「お綺麗な方でしたね」


 目を伏せたまま、正妃がつぶやく。


「ただし、ただの侍女ではなかった。彼女はラステックのみならず、当時の騎士団長や国政大臣などと情交を持ち、我が国の軍事情報を密かに入手していたのだ」


 セイラルの脳裏に、あでやかな物腰で、次々と周囲の男性を虜にしていく女の姿が浮かぶ。

 当然、セイラルは会ったことがない。しかしなぜか、その女の表情が分かるのだ。


「残念ながら、その侍女が間諜であったということが判明したのは、ラステックの長子、フィーマが生まれてからのこと。他国へ軍事情報を流すことは、わが国では大罪にあたる。罪が確定した段階で、彼女は刑に処せられた」


 セイラルは一瞬顔を上げた。

 姉の実母は、病死ではなかったのか。


「なお、ラステックには間諜行為が認められなかったため、処罰はなかった。代わりにお目付け役を兼ねて、そなたの母君が後添えとなった」


 王が語った内容により、セイラルは理解した。


 なにゆえ、父と母の間柄は、よそよそしいものなのか。

 姉を溺愛する一方、父がセイラルには一かけらの情も持ちえないのか。


 そしてセイラルの心中、導かれた結論がある。


 父、ラステック・ヴィステラは、愛した先妻を処刑した、このユーバニア国に対して、強い怒りと憎しみを、きっと持ち続けている!

いつもお読みくださいまして、ありがとうございます。感想や評価をいただけますと、幸いでございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 父親が娘に愛情を持てないのには、そういった経緯があったのですね。今の第二王子と姉妹の関係にも微妙に似たところがあって、危うい空気を感じます。
[一言] 今世の事情も複雑ですね。 空海ですと、亡くなられた荻野真氏のコミック「暁星伝奇 真魚」を思い出します。 あんまりマイナーな作品なので単行本化されてないんですがw
[良い点] 一気読みしました。 過去と現在が入り混じる、独特の雰囲気に引き込まれました。 続きを楽しみにしています!
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