第9話 大きな大きな魔法の石……の価値
今日は神殿の魔法石に魔力を込めにやってきた。
「ようこそリコアリア様」
いつものようにボルテド神官長が迎えてくれる。
毎回毎回神殿の一番偉い人に来てもらって申し訳ないなぁ。
その事をつい口にしてしまったら「侯爵様のお嬢様の出迎えを下級神官に任せるわけにはいきませんからな」と言われてしまった。
そういえば私って侯爵の娘なんだよね。どうにも自覚が湧かないんだけど。
魔法石に魔力を込める前に話をしようと誘われた私はボルテド神官長の部屋へとやってきた。
そして彼の淹れてくれたお茶を飲みながら、茶飲み話として初めての実戦訓練の話をする。
「成程、それは大変でしたな」
「危うく私の魔力の事がバレるかと思いましたよ」
「まぁそれは心配ないでしょう。仮にバレたとしても護衛として選出されたのは侯爵様が直々に選んだ騎士達です。彼等は忠誠心に篤いので口の堅さについても折り紙つきです」
そっか、私に秘密がある事を知って護衛にしたんだから、その辺りは考えてあったんだね。
「でも直前までお父様が一緒に行くと言っていたので、突然護衛が付いてビックリしましたよ」
「ほっほっほっ、侯爵様らしいですな。ですがそれをしたら逆に目立ってしまうでしょうから、やめて正解でした」
「目立つ、ですか? 子供の修行を親が見るのは普通では?」
たまにTVで見るドラマでも、親が師匠として厳しく子供に修行を付けるシーンがあったけど、こっちは違うのかな?
「たしかに、平民や下級貴族ならそれもありえます。ですが侯爵様はお忙しい上級貴族。そんな仕事は優秀な部下や教師にやらせればよいのです。にもかかわらず、侯爵閣下ほどの立場のお方が子供の修行に参加するとなれば、何かしらの憶測を生むでしょう」
成程、お父様の地位が問題なのか。
「(まぁ、万が一の時の為にこっそり監視はさせていたでしょうが)」
「何かおっしゃいましたか?」
「いえいえ。それとこれからの魔法石への魔力補給なのですが、こちらにお願いできますかな」
そう言ってボルテド神官長が部屋の隅から運んできたのは、大きな魔法石だった。
その大きさは以前私が魔力を補給した結界の間の魔法石とほぼ同じサイズだ。
「結界の間の魔法石じゃないんですか?」
「ええ、あちらはこれまで通りうちの司祭達が魔力を注ぎますので、リコアリア様にはこちらをお願いしたいのです」
何でまた分けるんだろう?
私が疑問に思った事を察したのだろう。ボルテド神官長が苦笑する。
「これはリコアリア様の力を隠す為に新しく用意したものです。リコアリア様は皆に結界魔法が使えると思われていますが、膨大な魔力を持っている事は秘密になっております。これまでの魔力補給でも人払いをしてリコアリア様が行っていると確信できない様にしておりましたので」
えっ!? そんな事してたんだ!?
「とはいえ、誰に見られるかわかりませんから、これからは私の部屋で魔力補給をお願いしたいのです」
成程、確かに神殿の一番偉い人の部屋を覗き見しようなんて人は居ないもんね。
「お気遣いありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらず。これもユーラヴェン侯爵様の命令ですし、この魔法石も侯爵様が用意してくださったものです」
どうやらお父様の判断だったみたいだ。
「そうだったんですね。でもこの魔法石ってそんなに簡単に手に入るものなのですか?」
てっきり高級品かと思ったんだけど、そうでもないのかな?
「いえいえ、これだけの魔法石となると相当に高価ですよ。そうですな、お金に出来るようなものではありませんが、白金貨50枚ほどですか」
「白金貨?」
金貨なら聞いた事あるけど、白ってなんだろう?
「白金貨というのは、一般的な買い物に使う金貨ではなく大口の取引、つまり物凄い大金を取り扱う時に使うものです。白金貨1枚で金貨100枚分ですな」
「金貨100枚!?」
何ソレ!? めっちゃ高価な気がしてきたんだけど!?
「あ、あの。金貨1枚ってどれくらいの価値があるんですか?」
「そうですな。平民一人の一日の生活費は銀貨4枚と言ったところでしょうか。それと銅貨100枚で
銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚です」
「という事は…金貨1枚で25日、金貨100枚で2500日、白金貨50枚で……125000日!?」
って事は地球換算だと約342年分の生活費!?
めっちゃ大金じゃん!?
「そんな大金を使って大丈夫なんですか!?」
「大丈夫ではないでしょうなぁ。白金貨50枚となると侯爵家としても安い買い物ではありません」
やっぱお金使い過ぎじゃん! お父様何やってんの!?
「ですが公共事業として考えれば決して高くはありません」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。何しろこの魔法石に魔力を補充できれば、単純に2倍の日数結界を張る事が出来るのです。領地を守る義務のある領主としてはこれ以上ない備えとなるでしょう」
「あっ」
そうか。確かに今回の魔物襲撃じゃ、魔法石の魔力が尽きて大変な事になるところだったんだもんね。
ただそうなると一つ疑問が湧いてくる。
「でもそれなら魔法石をもっと前から用意しておけばよかったんじゃないですか?」
これなんだよね。私の為に魔法石を用意してくれたのは嬉しいけど、そういう事情があるのならもっと早く揃えておいた方が良かったのでは?
「それについては魔法石の性質が関係しているのですよ」
「性質?」
「はい。魔法石は魔力を蓄える性質を持っていますが、その魔力をいつまでも蓄えていられるわけではないのです」
「じゃあ魔力が無くなっちゃうんですか?」
「その通り。魔法石は満タンまで蓄えても徐々に外へと放出されて空っぽになってしまうのです。ですので、魔力が減らない様に定期的に魔力を注ぐ必要があるのです。そして何度も使われた古い魔法石ほど魔力の減りは速くなります」
うーん、古くなった充電池みたいなものかな?
「大型の魔法石を揃えなかった理由はそれです。一個の魔法石でも魔力量を維持するのに教会の司祭達に毎日補充させています。もちろん無理のない程度にですが。ですのでもう一個もとなると司祭の数が足りなくなってしまうのですよ」
つまり充電池の電力の減りに対して、充電機の数が追いつかないって訳なんだね。
「更に言いますと、我が神殿の魔法石は他の神殿の魔法石よりも大きいのですよ。他の神殿は一日保てば良いと考えておりますが、これは数日保ちますからね。これも侯爵様の方針です」
おおー、お父様は町の事を考えて大きな魔法石を用意していたんだね。
仕事してる姿は碌に見た事無かったけど、領民の事を考えていたんだなぁ。
「そうした理由もあって、新たな魔法石の補充は侯爵様にとっても渡りに船のありがたい話なのですよ。このサイズの魔法石ならば、補充する事でリコアリア様の体内の魔力を程よく放出する事も出来ますしね」
そっか、良かった。てっきり私に甘すぎて魔法石を用意したのかと思ったよ。
町の事を想って買ったのなら、私も安心して使えるよ!
「分かりました! それじゃあ今日からはこの魔法石に魔力を込めますね!」
「ええ、そうしてくだされ」
こうして今度はこの魔法石に魔力を込める事になった私なのだった。
「(まぁ、本当の所は侯爵様が魔物の襲撃時にもリコアリア様の元に帰れるようにと用意した、金のかかり過ぎるプレゼントなのですが、それは言わぬが華というものでしょうな。民の役にも立ちますし)」
「何かおっしゃいましたか?」
「いいえ何も」
パパ「これでいつでも娘に会いに帰る事が出来るぞー!」
ジョンソン「そんな事の為にこんな無駄遣いを……いや無駄遣いと言えなくも……いやしかし、うーん」
魔法石A「僕お嬢様専用!」
魔法石B「ボクむさくるしいおっさん達専用!(コイツをブチ割ればボクがお嬢様専用になれるんじゃ……)」
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凄く喜んでやる気が漲ります。